第18話 俺たちは助けられた!:サイド回
〜助けられた男視点〜
「助かった! あの二人は女神だ!」
「ホント。死ぬかと思った」
「マジで、心臓止まってたと思うわ」
「ど、どうした!? いきなり」
ダンジョンから帰還するなりこんなことを叫べば、気が狂ったと思われてもおかしくない。
だが、自分の体がなんの怪我も異常もなく、こうして帰ってくることができたことを思えば、仕方のないことだ。
「何があったんだ? 何があったら今の様子で戻ってくるんだ?」
「あ、ああ。すまない。あまりの出来事に興奮してしまった」
ゴクリと喉の鳴る音がした。
ダンジョンを探索していれば、頭がおかしくなったと疑うような出来事と遭遇することはままある。誰も信じない笑い話とされることすらある。
この間の上層ボスが下の層に降りてくることなんて、少し前ならそんな笑いのタネだっただろう。だが、実際起きた。そして、その結果は並の探索者が遭遇すれば全滅は避けられないものだった。
犠牲者ゼロという話はにわかには信じ難い。
ボスというものは、上層と言えど、対策をしたうえで戦うからこそ倒せるものなのだ。それをイレギュラーで対処しろなど、ほとんどの人間にとって、酸素のない惑星で生活しろと言うようなものだ。
「何が、あった……?」
「俺は、神を見た」
「……それは、モンスターか?」
「いや、救世主だ。探索者だ。女の子二人組が、キラー・アイアンの気を引き、俺たちを助けてくれたんだ」
「そいつはまさか、片方は伊井野絵梨花じゃないか?」
「いいのんだろう? そうだ。その通り。もう一人はどこかで見たような気がするが、あまりに気を取り乱してて、確認する余裕はなかった」
やはり、俺たちの主張もにわかには信じ難いのだろう。
レアモンスターに遭遇したうえ、他人に助けられるなんて。
その相手がしかも有名人なんて。
「嘘じゃねぇって」
「そうよ。私たちは本当にそんなことに」
「いや、疑っているわけじゃない。つい先ほどまで、俺もここでその光景を見てたからな」
「見てたって……」
「ああ。その二人はキラー・アイアンを倒す様子を配信していた」
あれを配信しながら行なっていたのか?
いや、いいのんならおかしくない。
とてもじゃないが一般人じゃ手の届かない、自動追尾機能を持つ特殊なドローンを使っての配信なんて、できるのはいいのんだけだ。
確かにそんな気配もあったような……。
「じゃあ、もう一人は……?」
「しょうちゃん、と名乗っていた。少女だろうな。一人称は俺だが、いいのんと同じくらいの歳の少女で、いいのんを助けた張本人だと。こんなすぐに見つけてくるなんて、いいのんは本当にすげぇよ」
「マジ、かよ……」
ってことは、今までまったく名の知れていなかった探索者ってことか?
魔法の使い方もわからないような素人ってことを思えば探索も素人だろ?
いや、さっきは魔法も使っていた。剣だけ使える脳筋説は消えたってことか。
「本当に経験のないヤツのやることかよ?」
「人生二週目なんじゃ?」
「ははっ。言えてるな。今までこんな現象はなかった。これを見てみろ。さっきの同接も、今現在進行形で伸びてるフォロワーも桁違いだ。あれは正直、見て何かを盗もうという根気がどれだけ続くかって話のレベルだったがな」
その通りだ。
キラー・アイアンなんて、普段中層を攻略しているような探索者チームでも、他チームと連携して挑んで倒すような相手。それをたった二人で……?
「これがその光景だ。俺は無理だと思ったね」
俺より腕の立ちそうな探索者のように見えるが、男の顔に悔しさは見えない。気持ちはわかる。
俺もスマホに映るいいのんとしょうちゃんというかわいらしい少女二人の姿を見て、先ほどの絶望的な状況がまざまざと蘇ってきた。
遠くから迫るのはキラー・アイアン。
そこからの光景は正直、恐怖で音だけしか聞けなかったことの実態だった。
とてもそこらの人間が起こせるようなものではない規格外の技の数々。
実際に肌で感じていたからわかる。これは、派手さを追求した見た目だけのスキルじゃない。
「声も出ないだろ? こんなの酒でも飲んでないとやってらんねぇよ」
「お酒なんて出しませんよ。ここはファンタジーの世界に出てくるギルドとは違うんですからね。それに、私は今それどころじゃないんです」
「それは、どうして?」
「世間に認められている人の秘密を、私だけが抱えていて、どうしようと悩んでいるんです!」
「そりゃ大変だな。受付ってのも」
「はい!」
どうしてここで元気よく返事しているのかわからないが、俺とは違った理由で阿鼻叫喚している探索者が広がっている現状と比べればそこまでカオスでもない。
いや、確かにこれは酒でも飲んでないとやってられない。
「ハッシュタグをつけて呟いてくれってさ」
「感謝はそこで伝えるとするかな」
「待ってればいいじゃねぇか。ここのダンジョンなんだろ? なら」
「いや、確かに伝えたいのは山々だけど、俺たちなんかが、なあ?」
「そうだな。思い上がりすぎだそれは」
「おこがましいわ。話すなんて」
「それもそうだな。時間を取らせるわけにはいかない」
そう。そうだ。
呟くことで話題の糧になる分には、まだ彼女たちのプラスにもなるだろう。
だが、ダンジョンから出てきて疲れているところに、ファンサービスのような対応を求めて感謝しに行くのは、それは気がとがめる。
ああ。でもわかった気がする。
きっとだからこそ、人は神に祈るようになったんだ。
「トレンド一位か。高校生なのに大変だな」
「確かに。でも、きっと彼女たちのような人が増えれば、ダンジョンからモンスターがあふれるようなことは起こらないんだろうな」
「だな」
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