第11話:第三者視点・聖獣の審判・国王と枢機卿の対決

 高い天井には、ゴシック様式の彫刻が凝られ、暗い陰影の中で蠢く不気味な生物たちが壁面を彩っていた。


 床には厚い赤い絨毯が敷かれ、その上を足音を消して歩くことができた。


 照明は蝋燭の明かりで照らされ、炎がゆらめきながら、不気味な影を壁に映し出していた。


 壮大な大理石の柱が謁見の間を飾り、彼らは天井まで続いていた。

 柱の彫刻には悪魔や怪物の姿が描かれ、その眼差しは冷たく、狡猾な微笑が彫り込まれていた。


 壁一面に飾られた絵画は、忌まわしい風景や恐ろしい事件を描いており、見る者の心に恐怖心を受け付け、王家に逆らわないように無言の脅しを加える。


 金色に輝く装飾品が、壁や天井に散りばめられていた。

 王家の紋章と悪魔のシンボルが、光を反射して奇妙な輝きを放っている。


 豪華な大理石のテーブルには、珍しい花や骨董品が飾られ、妖しげな雰囲気を漂わせていた。


 謁見の間の奥には、巨大な玉座が設置されていた。

 黒く輝く大理石で作られた玉座は、厳かな存在感を放ち、威厳に満ちた姿勢で立つ者を迎え入れる様子を思わせた。


 玉座の上には、闇の力を象徴する紋章が刻まれ、複雑な文様が輝いていた。

 聖獣から崇める神を変える決断をしたオーファン国王が、密かに整えさせていた謁見の間だ。


「分かっているだろうな、枢機卿」


 オーファン王はケイロン枢機卿を脅していた。

 王太子の婚約者を、御神託ではなく自分で選べと言外に匂わせていた。


 謁見の場にいる騎士達も、王から命令を受けて、ケイロン枢機卿が再びセイラを王太子の婚約者に選ぶようなら、枢機卿を殺す覚悟をしていた。


 いや、覚悟など必要なかった。

 こんな時に警備任務に選ばれた騎士だから、教会にも聖獣にも尊崇のない者が選ばれていた。


「何が分かっているといいうのだ、愚王よ」


「な、なんだと、無礼者が、余の慈悲を踏み躙りおって!

 構わん、殺せ、殺してしまえ!」


「黙れ、腐れ下郎、最後の慈悲を踏み躙ったのはお前だ、愚王!

 朕の最後の慈悲を蹴った愚かな王よ、獣にも劣る臣下と共に滅ぶがよい」


 枢機卿の言葉に激昂したオーファン王が、謁見場に集まった騎士に枢機卿を殺すように命じたが、逆に極北の氷のように凍てついた枢機卿の言葉に、いや、無意識に身体がガタガタと震えだす恐怖感に、誰一人動く事ができなかった。


 枢機卿は、オーファン王と騎士達に恐怖感を与えるためなのか、それとも隙を見せても大丈夫と油断しているのか、ゆっくりと人の形から獣の形に変化していった。


 いや、変化と言うのは正しくないかもしれなない。

 当初の枢機卿の体積や質量を無視して、巨大で重質な銀獅子の姿に変わっていた。


 聖銀に光り輝く姿は神々しく、聖獣と呼ばれるにふさわしい御姿で、誰一人その神聖を疑う事ができなかった。


「ぎぎゃぁぁぁぁああぁああ!」

「うぁぁぁあぁああぁあ!」


 騎士の中で、恐怖で正気を失った者だけが、悲鳴を上げて逃げだす事ができた。

 僅かでも正気を残している者は、逆に恐怖で身体を動かすことができなかった。


 だが、聖獣の怒りは山よりも高く海よりも深かった。

 最後の慈悲を踏み躙った人間を許しはしなかった。


 聖獣が軽く前足を振るった瞬間、逃げ出した騎士の身体が、フルプレートアーマーごと縦に裂けた。


 聖獣の一撃は空気の刃を創り出し、鋼鉄の鎧をズタズタに切り裂いたのだ。


 聖獣は誇り高く綺麗好きだった。


 小汚い汚物のような人間を触れるなど、怒りに打ち震えていても、天罰を下さなければいけないと分かっていても、嫌だった。


 だから前足を振るって風の刃を創り出し、触らずに殺すことにしたのだ。


「ゆるして、ください、ゆるしてください、ゆるして、ください」


 恐怖で壊れたオーファン王は、ブツブツとつぶやいていたが、聖獣が許すはずもなく、あっさりと裂き殺された。


 謁見場にいる人間を皆殺しにした聖獣は、城を出て塔の上に登り、さらに身体を巨大化させた。


 王都にいる全ての貴族士族庶民に伝わるように、王都近郊にまで伝わるような大音声の雄叫びをあげた。

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