聖獣に愛された伯爵令嬢が婚約破棄されてしまいました。国は大丈夫なんでしょうか?

克全

第1話:婚約破棄

 王宮の舞踏会場には豪華で壮麗な装飾が広がっています。

 夢の中に迷い込んだかのような美しさで満たされています。


 天井からはシャンデリアが垂れ下がり、輝く光が宝石のように舞台を照らし出しています。


 華やかな絵画や美しい彫刻が壁面に飾られ、その細部まで緻密な美しさが感じられます。


 床は高級な大理石で舗装され、絢爛な模様が敷き詰められています。

 華やかな色彩と複雑なデザインが踊る人々の足元を彩ります。


 さらに、舞台の周りには豪華な椅子やソファが配置され、ゴージャスな生地で覆われています。


 高位貴族たちはその上で優雅に座り、舞踏会を楽しんでいます。

 舞踏会場の隅には美味しい料理が供された食べ物のテーブルが設けられています。


 美しい食器やガラスの器具に盛り付けられた料理が、高貴な香りを漂わせながら待っています。


 音楽が流れ、優雅なカップルが一糸乱れぬダンスを踊りながら、舞踏会場は華やかな輝きに包まれています。


 王宮の舞踏会場はまさに、夢のような場所としての様相を呈しています。

 ですが、そのような場で私が言われたのは……


「余はセイラとの婚約を破棄する。

お前のような獣臭い女と結婚するなど真っ平だ!」


 多くの貴族達の前で婚約が破棄され、屈辱と怒りが私の心を満たしていました。

 婚約破棄の言葉が舞踏会場中に響き渡る中、嘲笑の声が私の耳に届きます。


 しかし、このような日が来ることを予感していたのです。

 最初から、私のような地味な娘が王太子殿下の婚約者に相応しい存在ではないと分かっていました。


 たとえそれが聖獣様の御告げであったとしても、私には限界があるのです。


「お前のような獣臭い女と結婚するなど真っ平だ!」


 カルスロッド王太子殿下の冷たい言葉が舞踏会の会場を包み込みます。

 深紅のカーペットが足元を彩り、シャンデリアの輝きが華やかな光を放ちながら、人々の嘲笑が絶え間なく響き渡ります。


 私は自分が貴族令嬢に相応しくない容姿なのをしっています。

 ディアンナ嬢のような麗しさや品位には程遠い存在であり、王太子の婚約者としての自信など最初からありませんでした。


「ああ、臭い、臭い。ここまで馬糞の臭気が漂ってくるわ。

 馬貴族の娘が、恥ずかしげもなくこの会場に入り込むなんて、思い上がりもはなはだしいわ!」


 ディアンナ様の冷酷な言葉が私に突き刺さります。

 この舞踏会は身分制限が厳しく、辺境伯家以上の長男長女しか出席を許されていなかったのです。


 それなのに、聖獣教会が私を王太子殿下の婚約者として出席させるよう強要してしまったのです。


 聖獣様の御告げによって選ばれた特別な存在とされる私には、身分や地位の制約が存在しないと、聖獣教会だけが考えているのです。


 しかし、この国の貴族社会では血統や爵位が全てであり、伯爵家程度では力や権勢を持つことはできません。


 コスタラン伯爵家は辺境の僻地に位置し、王都から馬車で一ケ月もかかる場所にある弱小貴族です。


 北の寒冷地では穀物の実りが悪く、馬の飼育によって何とか家臣や領民を養っているだけの存在なのです。


 そして私自身も、人との会話が苦手で社交性に欠け、臆病でオドオドとした性格なのです。


 北国の厳しい日差しに晒された肌は赤黒く焼けています。

 事もあろうに顔中にソバカスが広がっているのです。


 幼い頃から馬に乗ることが多く、手足の筋肉が発達しているため、その短さがより際立って見えてしまいます。


 私の容姿は、ディアンナ様のような細く優雅な手足とは対照的で、自信を持つことができませんでした。


「もうとても耐えられない。

 少しでも早くこの場から離れなければならない。

 ディアンナ、手伝ってくれ」


「はい、王太子殿下」


 ようやくこの地獄から解放される時が来ました。

 婚約が破棄されたとはいえ、自らこの会場を去るわけにはいきません。

 聖獣教会が国王に出席を願い出て許可された舞踏会なのです。


 ただ帰れば王命に背いたことになってしまいます。

 しかし、王太子殿下自らによって強制的に立ち去らされるなら、私には言い訳の余地があります。


「これで少しは臭いが取れるでしょう。

 おめでとう、馬糞伯爵令嬢にはもったいないほど上等なワインだ」


「そうですわ、王太子殿下が自ら消毒してくださるのです。

 ととも名誉なことでございますわ」


 私の頭にワインが浴びせられました。

 王太子殿下とディアンナ様から。


 家臣たちが節約に節約を重ねて仕立ててくれた純白のドレスは

 二度と袖を通せないほど赤く汚れてしまいました。


 そして、王太子殿下は立ち上がり、自身の服装を誇示しました。

 真紅のローブに身を包み、豪華な刺繍が施された金色のボタンが光ります。


 そのローブの裾には、細密な彫刻が施された金の装飾が飾られており、華やかさを一層引き立てています。


 さらに、首元には宝石で飾られた見事なペンダントが輝き、王太子の高貴な出自を象徴しています。


 王太子の頭には、黄金の冠が輝きます。細工の細かい金属の葉や花が、彼の髪の毛と調和し、彼の王位の威厳を示しています。


 その他にも、王太子は手にはめた輝く宝石の指輪や、装飾された剣を身につけており、その存在感は会場全体を圧倒しています。


 そしてディアンナ様は、私に嘲笑の笑みを浮かべながら、彼女の成金趣味を存分に示しました。


 ディアンナ様の身に纏われたドレスは、一見すると華美なデザインと贅沢な装飾で溢れています。


 金色の刺繍が施され、ゴールドのビーズや宝石が散りばめられたドレスは、まるで贅沢な宝箱のように輝いています。


 しかし、その過剰なデザインと派手な装飾は、彼女のセンスの欠如と好みの浅さを露呈していました。


 彼女の首には、ネックレスの重みで肌が圧迫されているような、あまりにも大振りな宝石の首飾りが垂れ下がっています。


 指には多くの指輪が重ね付けされ、手元はまるで宝石箱のように輝いています。さらに、彼女の髪には金色の装飾品が散りばめられ、まるで華やかな花のように見えましたが、その派手さは彼女の欲望と浅はかさを物語っていました。


「あなたのような獣臭い女が私に対抗するなど、大間違いですわ」

 ディアンナ様は高慢な口調で私を嘲笑いました。


 彼女の成金趣味は、彼女が所有する富や地位を際立たせるための手段であり、内面や品位を欠いていることを隠すための仮面であったのです。

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