第26話 依頼の内容
鴇や瑪瑙たちはセキを囲むようにして座り、彼女の話を聞くことになった。外では木枯らしが店の戸を叩いている。
「待ち合わせ場所に行くとね、白いワンピ―ス姿の女性が立っていてね…」
セキが待ち合わせ場所を訪れるとそこには一人の女性が立っていた。セキがいる時代は本来曇天の寒空が広がる冬間近だがそこは一面の青空。陽がぎらぎらと輝いている。
「あれまあ、不思議なこと…」
セキは冬の装いのまま青々と茂る大樹の下に招かれたのだという。
「久寿軒さま、セキさま」
柔らかく繊細な声にハッと意識を目の前の女性に向ければ、依頼主であろう女性がこちらに歩いてくる。か細く少しでも気を抜けば聞き取れなさそうな声が蝉しぐれの合間を縫って聴こえてくる。
「貴女があの手紙の持ち主ですか」
「そうでございます。緋褪堂のご店主さま…」
女性はかぶっていた大きな鍔の帽子を取り丁寧に頭を下げた。
「ここまで迷われませんでしたか」
「ええ、道を繋げてくださっていたみたいで」
「道を外れてしまうと戻れなくなりますから…」
「気温も整えてくださったのでしょう?」
「…はい」
「ありがとう。寒暖差でぽっくり逝ってしまいそうだったから有難いわ」
ありがとう、とお礼を言えば依頼主は目を少し見開いて驚いたような表情を浮かべた。
「それでは、お話を聞かせてくださる?」
依頼主に連れられてたどり着いた東屋でセキはメモ用紙を広げながら微笑んだ。
「私を夏から解いてくれるものを探しているのです…」
依頼主はそう言って語り始めた。
「依頼主のお嬢さんが言うには、彼女を夏に留めているものがあるらしいの。けれどそれは本来何かをどこかに留めておく効力などないもので、使い方を誤ってしまったがゆえに本来の力を発揮できず歪んでしまっているそうなの。その歪みを直したいというのがメインの依頼」
セキは湯気の立つ緑茶をごくりと一口飲み、ふうっと息を吐いた。目の前に広げたメモを指でなぞりながら漏れがないよう確認する。
歳をとると記憶に自信がなくなるから嫌だわっと小さく呟いて。
「そしてその歪みを正すために必要なものがあるそうなの。それを探して、彼女の元に届けるのが二つ目の依頼」
「それはどういうものですか」
「これと対になるモノだそうよ」
セキは鞄から白群色の風呂敷から一つのアクセサリーケースを取り出した。中にはキャビネットノブが二つ。
「お師匠さま、これって」
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