第15話 もし、お嬢様がレトロな庶民の味に触れたら

 案内されたのは映画館から少し離れた場所にある喫茶店だった。

 決して今風というわけではない雰囲気の店だが、それ故に落ち着きがある。

 この辺りにこんな場所があったなんて、まさに隠れ家的な店だな。


 テーブル席に案内される俺たち。隣同士に座る俺とらいら。

 向かい側にはアーリさんだ。


「こんな場所よく見つけましたね」


「はい、今日の為に頑張りました。想像通りに私とお嬢様の好きな佇まいのお店で、この時点で満足度が高いと感じます」


「流石はアーリさん。わたしも気に入りました」


 お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべる2人。こうしてみると主人と従者っていうよりは年の離れた友人か、もしくは姉妹だな。


「このお店は昔ながらのナポリタンが評判との事。今回はそれを頼んでみませんか?」


「ナポリタンですか? 噂には聞いた事のあるパスタ料理ですが、実際に食べてみるのは今日が初めてになりますね」


 らいらは食べたことがないんだな。そりゃあお嬢様だから、馴染みがないのも当然か。でもアーリさんは食べたことがあるらしいが、やっぱりこの人は結構庶民派だな。

 しかし、ナポリタンね。思えば俺も最近食べてないな。せっかくポップコーンを食べられるくらいには胃の調子も良くなってきたし、ここは頼んでみるか。


「俺も食べてみたいな。……食後のデザートとかもいいかも。らいらはどう? アーリさんも何か甘いもの食べません?」


「そうですね。ここはレトロな雰囲気に合わせて小倉餡を使ったトーストなどいかがでしょうか? 私はそれで」


「餡とトースト? そのような組み合わせもあるんですね」


「ええ、昔ながらの喫茶店といえば定番のスイーツかと」


「……結構地域性強いと思いますけどね。でも実は俺食べたことないんだよな、ちょっと楽しみ」


 それ以外にも俺とアーリさんはホットコーヒーを、らいらは紅茶を注文した。

 コーヒーよりもココア派の俺だが、流石にトーストと組み合わせると口の中が甘くなりすぎるからな。


 注文し、運ばれてくるナポリタン。

 う~んこの匂い、ケチャップの香りが食欲をそそる。

 懐かしい匂いだ、きっと昨日食べても懐かしいと思うんだろうなこういうものは。


「これがナポリタンですか? 鮮やかな色をしたパスタなんですね」


「ええ、具材はシンプルにピーマン・玉ねぎ・ウィンナー。そして味付けもシンプルなケチャップとなっています」


「庶民の子供に人気のパスタといったら真っ先に名前が上がるぐらいだ。嫌いなやつを見たことがない。でも、パスタだけでも色んなもん食ってきたらいらの口に合うかは分からないが」


「いえ、とても興味深く思います。二人がおすすめする料理ですから」


「では、いただきましょうか」


 アーリさんがそう言うと同時に、俺も手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 3人で声を合わせて言った後、それぞれ好きなようにナポリタンを食べ始めた。

 まずは麺を口に運ぶ。うん、美味しい。

 甘いケチャップソースが絡みついたピーマンに玉ねぎ。この食感と味は癖になるな。それにウインナーも良いアクセントになっている。


「どうだ?」


「とっても美味しいです! 様々なパスタ料理を食べてきましたが、このナポリタンはわたしの好みに非常に近い味で……大好きになってしまいました」


 屈託のない笑顔だ。いつものどこか余裕のあるらいらも良いが、この年相応な少女の笑みは見ていて気分がいいな。


「それはようございました。私としてもおすすめした甲斐があるというものです。私も久方ぶりに食べましたが、やはり美味しいですね」


 アーリさんも、本当にうまそうに食べるな。


 その後に食べた小倉餡のトースト、これも美味かった。二人も本当に嬉しそうに食べていたし。

 コーヒーも豆の種類まではわからないが良い風味だったし、何よりナポリタンを食べた後に飲むと余計にその深みが際立って感じられた。


「「「御馳走様でした」」」


 喫茶店から出た頃には、午後の二時を過ぎていた。

 この後の予定は全くないが、どうするかな?





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