第8話 もし、友人が情報を集めてきたら

「それでよ、色々と探り入れてみた結果なんだが……」


「もう何か掴んだのか? てっきりこれからやるんだと思ってたが」


「思い立ったがなんとやらだ。勉強宿題には重い腰のこの俺も、この手のことには早いんだぜ」


「へぇ、素直に見直したぜ。一体どうやって調べたんだ?」


 正直驚いた。

 こいつの交友関係が広いのは知っていたが、こんなにすぐ他人を動かせるもんなんだな。こいつの協力がなかったら、どれほど時間がかかってたんだろうか?


「と言っても、まだまだ触り程度だがな。でも今は何よりも情報を集める時だからな、何だって仕入れねぇと。それで一つ分かったことがあるんだが」


「何だ? 早く聞かせてくれ」


「そう焦るなよ。戸川さんな、やっぱり木山と二人で歩いてるところを見たっていう奴は何人かいたぜ。ただ二人で歩いてるだけだから対して印象には残らないと思ったんだが、意外と覚えてるやつがいるもんだな」


 なるほど。確かに興味のない奴にとっては、男女が一緒にいるだけじゃ印象には残らんもんだ。


「ただそれを見たって奴がな、一年坊と三年の先輩ばっかりで、俺たちと同じ学年の奴からの証言は無いんだ。これがどういうことかわかるか?」


「……横のつながりに見られたくない、ってことか? 知り合いが多い同じ学年の連中だと、もし見られたらすぐに噂が立ってしまう。だから仮に見られてもごまかしが効くように一年や三年の教室の近くか、人の少ない別棟で会っていた」


「まあそういうことだろうな。小賢しい話だぜ。でも実際、俺もあの二人が怪しい仲だなんて今まで知らなかったんだから効果はあったんだろうよ」


 どっちの入れ知恵かは知らないが、やってくれたもんだ。

 だがその作戦は成功だ。俺も偶然知らなきゃ騙されたまんまだったんだから。


「それで、今のところはそれぐらいか。ま、今はどんな情報だって欲しいから構わないが」


「二人に関する情報なら確かにこれだけだが……」


「だが?」


 こいつはまだ何か情報握ってるな? こんな短時間に集められるなんて本当に大したやつだ。


「木山についてな。あいつは外面がいいことで有名だ、よく知らない奴からすれば顔も良くて勉強もできる。その上、先公からの覚えもいい。そんな完璧人間のあいつだが……実は陰で嫌ってるやつも少なくない」


「その理由は完璧だからか? いや、そんなことならわざわざお前がもったいぶって言うことないよな」


「当たり前だろ? ……お前、あいつが次期生徒会長の椅子に座ってるのは知ってるよな?」


 木山は一年の頃に副会長になるぐらいには優秀な仕事をするらしい。

 そんなあいつだから次の生徒会長だと言われてる、同じ学年ならみんな知ってることだ。


「同じ生徒会の人間でな、滝って奴がいる。そいつが木山の事を嫌ってるんだよ。なんでかって話を聞いたら――木山の奴のマッチポンプの現場を目撃したらしい」


「マッチポンプ? 一体何やったんだ?」


「どうも息のかかった連中にわざと問題を起こさせてたらしい。そしてそれを自分で解決する。そうやって周りの連中の信頼を勝ち取ってたってわけだ。あいつの親が外資系のエリートらしくてな、ご近所におすそ分けするくらい金を持ってるんだ。滝はそいつをばらまく現場を見たんだよ」


「その滝って奴は真面目なんだろうな。……でも、自分一人で動いたって握りつぶされる。生徒会に入れるぐらいだから頭が回るんだろうな、何もできないことが分かってしまうんだ」


「そいつの無念を晴らす意味でもきっちりと復讐してやろうぜ? 滝はこっちにかなり協力的だ」


 どんなに完璧に見える人間でも、必ずどこかに穴がある。……そういうことか。


 これは俺にも運が回ってきたな。

 いや、らいらが俺に機会をくれたんだ。自殺しないでよかった。


 俺たちは放課後、生徒会の隣の部屋に集まる約束をして昼食を食べることにした。

 ……冷たいココアとあったかいコンソメスープの組み合わせも中々だな。荒れた胃袋にはちょうどいい。


 昼休みはあっという間に終わり、午後の授業が始まった。

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