第11話 東照大権現の遺言
統秀は懐より書付を出し、畳に広げる。薄い文字。墨にしてはいやに細く、また小さい文字が所狭しと羅列されていた。
「平左、これを見よ」
統秀に応じ、一礼した後平左が前へ進む。行灯の光にぼんやりと照らされるその書付は、見たこともない文字によって埋められていた。
「変わった文字でございますな。蘭癖さまの手となれば『
静かに首をふる統秀。この時代、外国語に触れられる日本人はほとんどいない。長崎の通詞ですらもっぱら耳での語学習得を旨とし、読み書きはさっぱりである。『解体新書』による『ターヘル・アナトミア』がその唯一の例であるが、訳者の前野良沢はその名を伏せていたため、
「文字は同じである。
先程の国名がまた発せられる。天竺、唐そして朝鮮。それ以外に外国といえば
「そうそう驚くことでもない」
平左をなだめるように統秀は説明する。
「東照大権現さまの御代に、お使えした異人がいた。一人は
平左は静かに頷く。国を閉じ、異国への来航を禁じるのは東照大権現様以来の祖法ではなかったのか。そのような話は聞いたこともなかった。
「そうそう不思議がることもない。家康公もわれと同じく蘭癖でな。ほれ、この文字も――」
書付の文字を指差す統秀。文字に触れると指先が少し汚れる。
「『鉛筆』と呼ばれる向こうの筆記用具で書いたものだ。家康公は好んで使われたと言われる。筆に比べて、色々簡便である――」
そして統秀は本題を切り出す。それはある
「もう一人の異人、それは
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