第五章 収益化と言われても……

第26話 初収益

 田舎から、家に帰ってきた。


 その日の夜のことである。


 星梨セイナおばさんから、オレたちの動画が収益化に成功したと告げられた。


「はい。快斗カイト夢希ムギちゃん。おめでとう」


 おばさんから、封筒を渡される。


 せっかくだから、収益化記念動画を撮ることに。


 スマホをセットして、さっきのやりとりをもう一度行う。


 一応、おばさんはオレたちのマネージャーとして、映像には何度も出てもらっていた。今回も、そのポジションである。


 再度、おばさんから封筒を受け取った。 


 初めての収益を確認する。


 封筒を開けると……小銭がチャリンと手の中に収まった。


「おお、四〇〇円だ!」


 オレと夢希は、パチパチと拍手をする。


「すごい喜びようね。バイト代一時間分の半額しかないのよ?」


「そうはいっても、初めての金だ。オレたちがなんのノウハウもない中で手に入れた、ゼロからの収益なんだよな」


 たしかに金だけがほしいなら、バイトでも何でもすればいい。古いゲームを売ってもいいだろう。


 せどりとかで、不用品を転売したっていいんだ。実際、そういう動画も撮ってみた。結果は一〇〇円にもならず、動画も一〇再生くらいしかいっていない。JKの所持品ですら、相手からすれば必要のないものなのである。


「おばさんのブログを読んだ。日記サイトの初収益が、一三円だったって大喜びしてた」


「あー。そういうこともあったねえ」


 だからオレは、最初から期待なんてしていなかった。収益化による利益なんて、こんなもんだ。


 要は、ここで「こんなはずじゃなかった」とくじけてしまうか、もっと利益が出るようにがんばろうって思うかだろ?


「ムゥは、どうしたい? 続けたいか? それとも、もっと金になる仕事がしたいか?」


「わたしは、カイカイと動画を撮っている時間が、一番楽しい。たしかに前のバイトの方が、お給料はよかった。でも、お金だけじゃないから」


 二人でいる時間を大切にしたいと、夢希は言う。


「よかった。だいたいみんな、この結果に挫折するからさ。うちの事務所が抱えていた子も、『もっと稼げると思ってた!』って配信をやめちゃってさ」


「問題児だな。やめて正解だろ?」


 最初から、大きい夢と根拠を持ち過ぎなんだ。そんな世界じゃない。まずは動画が楽しいって思えないと、この先ずっと辛いままだ。


 幸いおばさんはオレたちを金づるとは思っておらず、あまりムチャを言ってこない。稼ぐための再生数の延ばし方だって知っているはずなのに、教えなかった。おそらく、大変な作業だから。それより、動画の楽しさを知る方が大事だと、おばさんは知っているのだ。


「マネージャーさん、ありがとう。マネージャーさんがムリを言うタイプだったら、わたしはやめていたかも」


 実はおばさんには、色々と注意を受けていた。


 その中でも、「エゴサだけは絶対にしない」ように釘を差されている。エゴサで潰れないのは、相当メンタルの強い人だけだという。でなければ、オレも夢希もとっくにチャンネルを閉鎖していただろう。


 それを教えてくれただけでも、おばさんには感謝だ。


「そういってくれると、ナビゲートの甲斐があるってものよ。さて、収益が出たわけだし、なにかご褒美を用意しようかなった思っているんだけど、なにがいいの?」


 オレたちの答えは、とうに決まっている。


「当然、タコパだろ」


 動画を始めて数日後と同じように、オレたちはたこ焼きパーティで過ごす。


「おお。生地を焼くのも、ちょっとずつうまくなっているな」


「たこ焼きって難しいけど、量がちょうどいいんだよね。お好み焼きとか焼きそばだと作り過ぎちゃうし、もんじゃだとお腹が膨れないでしょ?」


 その点たこ焼きなら、生地と具材のバランスがいい。


「実はね。二人の動画で一番再生数が多かったのが、このタコパなの」


 楽しそうなのが、ウケたんだとか。


 タコパで収益を生み、その金でまたタコパを楽しむ。

 永久機関の完成だな。

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