049:その後、彼を見た者はいなかった

「うぅ……ここは……ひぅ!?」


 目覚めたジルは恐怖で妙な声を上げるが、そんな事など知るかと優男が話す。


「お前たちがここへ来た理由は知っている。だから問おう……伯爵はどこだ?」

「そ、それは……知らない」

「そうよ! お父様の指を持っていながら、知らないはずがないじゃない!?」


 マリーナが怒りながら、ジルの胸へと指をさす。

 そこはジルが伯爵の指だと言っていた物が入っているはずだし、それを指摘されて「うぅ」と言葉にジルは詰まる。


 それを見たタン爺は、「恥晒し者めが」と言いながら、ジルの懐へ手を入れて箱を取り出して中を見る。


「こ、これは!? お嬢様ご安心ください。確かに旦那様の指でございますが、これは精巧に作られた偽物・・です」

「え、本当なのセバスタン!? 本当だわ、これは魔法で作られた偽物の指……ッ、そうか。お父様の指を精巧に作り出し、それを使って泉にして、水と神聖力を採取してたのね?」


 その話が当たっていたみたいで、ジルは「ぐぅ」と低く唸ることしか出来ない。

 それを見た優男はジルの髪の毛を掴むと、「伯爵はどこだ?」とまた無表情になる。


「ひぃ!? わ、わかった言うよ。言えばいいんだろう! 伯爵様は……本邸の屋敷に幽閉されている」

「嘘おっしゃい! わたしやセバスタンが気が付かないはずがないじゃない! 適当な事を言うと――」


 マリーナがすごい剣幕でジルを責めるが、そこにタン爺が「お嬢様お待ちを」と言いながらジルへとたずねる。


「ジル。まさかと思うが、旦那様は隠し部屋にいるのか?」

「そ、そうだ! 隠し部屋に幽閉しているから、お嬢様もアンタも気が付かなかったのさ」

「なんという事だ……」


「隠し部屋? セバスタン、うちにそんな場所があったの?」

「はい。七代前のご当主様が作った、裏切り者を折檻せっかんするために作られた、いわゆる拷問部屋です。もう使われなくなって久しいので、その存在を忘れていましたが……まさかそこに捕まっていたとは……」


 ショックを受けたマリーナは「そんな……」と足元より崩れ落ちる。

 そりゃそうだよね。自分の父親がそんな場所にずっといたなんて。

 しかも自分の屋敷だったのだから、これまでの苦労を考えるとますますショックなのが痛いほど分かる。


「話は理解した。マリーナ嬢、ここは一刻も早くお父上を救い出すために貴女の家へもどろう」


 優男の話にうなずくと、そのまま馬車へと乗り込みマリーナの屋敷がある、ローゼンスタインの領都へと急ぎ戻ることにした。


 ちなみにジルはどうなったのかと言うと、木に縛ったまま放置しんだけど、あの男くらいの技量ならそのうち抜け出てきそうで心配でもあるかな……まぁいいか、それより今は屋敷へ急がなきゃ!



 ◇◇◇


 ――アネモネ達が去っていく姿を見ながら、ジルは唾を吐き捨てる。

 そのまま袖に仕込んだ金属の棒を何とか取り出すと、恨みがましく独り言をいいながらロープの切断を始めた。


「クソ、まずは一刻も早く脱出してフートテル様に報告しないと。覚えてやがれ、この礼は必ず――誰だ!?」


 ふと見れば、先ほど殺したはずの商人の夫婦がおり、それが真っ赤な血にそまった顔でジルを見つめていた。


「私たちだけじゃ飽き足らず……まだ人を殺すのか……」

「ゆるせない……お前も道連れに……」

「ひぃぃ!? アンデッドか!! ま、まて、話せば分かる!」

「だったら全て知ってることを話せ……じゃないと……」

「わ、わかった! だから頼む、殺さないでくれえええ!!」


 顔面蒼白のジルは、洗いざらい全て知っていることを話す。それがこの世で最後の言葉とも知らずに……。



 ◇◇◇



 ――アネモネたちが領都へと向かっている頃、マリエッタを迎えたジハードは、ローゼンスタインの領都へと到着していた。

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