第172話 ダンジョン60階 準備 2

 驚いてみたものの、これは予想通り。

 むしろ予想通り過ぎて怖いくらいだ。陛下はレベル20で上級職にジョブチェンジしたので次は40かなと思っていたのだ。


 さて、次の職業だが――。


 1、スケルトンセージ

 2、スケルトンアークメイジ

 3、スケルトンビショップ

 4、スケルトンアークナイト

 5、スケルトンサマナー     の5種類。


 セージは賢者だったと思う。俺のゲーム知識から想像すると賢者とは僧侶の魔法と魔法使いの魔法と両方使えるハイブリッドなイメージなのだが、この世界ではどうなのだろう?


 ガレフは土魔法しか使えないし、アナは光魔法しか使えない。

 もし全属性の魔法が使えるなら相当強そうだけど、その分なにかしらのデメリットがあるのかもしれない。考えられるのはどの属性も上級までしか魔法を覚えられないとか、もしそうなら中途半端な職業になりそうだ。


 アークは上級的な使われ方をしてたと思うから上級魔法使いという事だろう。

 陛下が今から魔法使いルートに行くと、どうなるのだろうか?


 あまり良い予感はしない。もしかしたら闇魔法ともう一つ違う属性の魔法を覚えるのかもしれないが、他に賢者と言う職業がある以上は闇魔法が使えなくなって、違う属性の魔法を覚えるだけの可能性もある。


 ビショップは司祭だったと思うので、これはプリーストの上位版だ。陛下の進化先としては真っ当な選択だろう。ただ、闇魔法のレベルが上がっていくだけな気がするので面白みは薄いかな。

 人様のスキルなので、あまり面白がってはいけないのだが…………。


 アークナイトは騎士の上級職という事だと思う。名前がかっこいいので陛下にあってる様な気もするが、いまさら物理職にいくのは違う気がする。闇魔法が使えるままなら良いのだが、使えなくなる可能性を考えると選択しにくい。


 スケルトンサマナー、これが一番気になる。召喚士という事だろう。

 インプとかレッサーデーモンを召喚していたので、そっち方面に能力が伸びていくのだと思う。闇魔法では召喚できないような上位の奴を召喚できるのではないかと期待してしまう。


 ただ俺とちょっと被るか? 

 陛下に配下が増えていくのを見てみたいが、俺もせっかく魔物を奴隷にできるようになったので、俺も配下を増やしたい。


 増やしすぎて孤児院が魔物と悪魔で溢れたら…………。

 それはマズイかも――。


 しかし、今の所はビショップかサマナーが有力候補だ。この2つならデメリットなしで進化できると思う。

 もしサマナーになって闇魔法が使えなくなっても、召喚した悪魔が闇魔法を使えそうだし、ビショップになっても新たな召喚魔法を覚えるかもしれない。


 どちらにするか悩むが、ここは陛下の意見も聞いておくべきだろう。


 陛下の部屋に行ってみると珍しく扉が閉まっているが、隙間から明かりが漏れているのが見える。まだ夜の散歩の時間ではなかったようだ。部屋でワインでも飲んでいるのだろう――。


「陛下、いますか?」


「おお、マコトよ。入るがよい」


 *ガチャ*


 レッサーデーモンが扉を開けてくれた。こいつもどんどん執事にみたいになってきたな。今度、燕尾服でも買って着せてみたい。


 部屋の中に入ると――、

 また模様替えしたのだろうか? 


 以前に来たときは怪しい儀式をおこなう集会場の様だった部屋が、いつのまにか家具などが揃って、ちゃんとした部屋になっている。

 むしろ貴族の部屋だと言われても解らないくらいに調度品が豪華だ。


 俺が様変わりした部屋をキョロキョロと眺めていると、それに気づいたのか陛下の方から声をかけてきた。


「ああ、これらの家具はリシュリューの奴が送ってきたのだ。我々がダンジョン遠征に行っている間に送られてきたらしいぞ。ゴーレムが余の部屋に運び込んでおいてくれたらしいな。まあ安物だが、使えなくはない。特にこの椅子は悪くないな」


 そういいながら陛下は自分が座っている、ひと際立派な椅子の肘掛けをポンポンと叩く。


 いや、絶対その椅子高い奴だよ! 

 王様とかが座っているやたら背もたれが高い奴だし、彫刻もびっしりと細かいのが彫られている。値段を聞くのが恐ろしい…………。


「はぁ、リシュリュー卿にお礼を言いに行かなくてはいけませんね」


「そうか? この程度のものは黙って貰っておけばいいだろう。まあ確かに椅子とテーブルはちょうど必要であったからな。なかなか気が利く奴ではある」


 うむうむと陛下は満足げに頷いているが、俺はそんな悠長に考えられない。


 今、俺の目の前にあるでっかいテーブル。これも送られてきたのだろう。重厚な一枚板で作られ、見事な彫刻が施されている。


 よく見れば陛下の椅子とこのテーブルは彫刻が似ているじゃないか、おそらくセット品なのだろう。あ、他の椅子やワイングラスなどが並んでいるキャビネットも同じ装飾だ。


 怖い…………。まじで幾らするんだ。


「まあ、とりあえず座るが良い。余に何か相談事でもあるのだろう?」


 スッとレッサーデーモンが静かに俺の椅子を引いてくれた。こいつはやたらと教育が行き届いているのだが、どうやって教えているのだろうか? 

 陛下が自ら実践して教えているのだとしたら笑える。ちょっと見てみたい所ではある。


「そうなんですよ。良く解りましたね。今後の事を相談したいのですが、その前に陛下自身の事を聞いてもいいでしょうか。陛下は以前のように大勢の配下を従えて、王の様に暮らしたいと思いますか?」


「ふむ、余はもう王になるつもりはないな。配下なども居ない方が自由に行動できる。マコトもなってみれば解るが、王など何の自由もないぞ。その日にやるべき事などは全てあらかじめ決まっているのだからな」


「一番偉い王様なら、好き勝手にすればいいのではないですか?」


「余も最初はそう思ったが、結局は皆に言われた役割をこなす事になる。誰かしらが王の役目を果たさなければならず、それを一番うまくできるのは王なのだから仕方がない。だが、転生したおかげで王の義務から解放された。今生はゾ=カラール様の元で余は自由に生きたいと思うぞ」


 陛下のライフスタイルは自由と言うのがキーワードらしい。一応陛下は俺の奴隷なのだが、忘れてしまっているのかもしれない。奴隷って一番自由からかけ離れてると思うのだが、そこは気にならない様子だ。陛下の中では王様よりも奴隷の方が自由なのか?


 まあ、国の奴隷よりは俺の奴隷の方が自由度が高いのだろう。俺は何も束縛してないからな。


 どうやら陛下はあまり配下を持ちたくない様だ。その割にはレッサーデーモン達を使いこなしていると思うが、その辺は前世の名残なのだろう。


 となると、スケルトンビショップ一択だな。個人的にはサモナーが気になるのだが、陛下の意思も尊重したいので仕方がない。ビショップとなって闇魔法を極めて頂こう。


 では、ポチっとな――――。




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