第130話 仕立て
料理とワインを堪能していると、店主が戻ってきたようだ。
「お待たせいたしました。マコト様、仕立て屋を連れて参りました」
「この町で仕立て屋を営んでいるサリフと申します。この度はお声がけいただき、ありがとうございます」
「いや、こちらこそわざわざ来て貰って申し訳ない。それで私の服を一着手に入れたいのだが売ってもらえるかね?」
「もちろんでございます。どの様な物でも仕立てますので、何なりとお申し付けください」
そうか、俺は日本の様に彼の店にいい服がないか見に行くつもりだったが、こっちの上等な服は注文して一から作る事になるのか…………。オーダーメイドって奴だな。
そんな大げさな服じゃなくても良いと思うが、服屋で服を選ぶのが苦手な俺にはそっちのほうがいいのかもしれない。
以前、親に自分で着る服くらい自分で買って来いと言われてデパートに見に行ったら、店員に変な形のシャツを売りつけられた事がある。今思えば、あれはきっと売れ残りだったのだろう。もちろん1回も着ていない…………。
俺の為に作ってくれるなら、わざわざ変な服は作らないだろうから、やっぱりオーダーメイドの方がいいな。
『お似合いですよ~』とか言って、売れ残りを押し付けられることはないのだ。
しかも、全身コーディネートしてくれるのではないか? このズボンには、このシャツとか面倒な事を考えなくて良いのは素晴らしい。よし、お願いしよう。
「このレストランに着てきても、おかしくない服を頼みたい。ただあまり派手なのは好みではないのでシンプルな服で頼む。それと靴も頼めるなら服に合わせて一足お願いしたい」
「かしこまりました。派手なものはお好きでないとの事なので、ダークスーツに同系色の刺繍を入れるのはどうでしょうか? まったく飾りがないのもこういう場には相応しくありませんので、それに合わせて革靴もご用意させて頂きます」
「ああ、それで頼むよ」
本当は刺繍なんて要らないけど、任せてしまったほうがいいだろう。高級店に着て行っても恥ずかしくない服を買うのが目的なのだ。
恥ずかしいくらいならまだしも店に入れて貰えないなどがあっては困る。
「護衛の方はどうなさいますか? 鎧の上からでも着れるマントなどが一般的ですが」
「マコトよ! 余は赤がいいぞ」
確かに陛下には赤マントが似合うだろう。そういえば、このサリフさんもスケルトンにもオークにも反応しなかったな。あらかじめ聞いていたのだろうか?
「それでは2人に揃いのマントをお願いします。色は赤で、なるべく上質な素材でお願いします」
「かしこまりました。それでは採寸させて頂きたいのですが、こちらの部屋でおこないますか? 別室もご用意できるとは思うのですが」
「いや、ここでいい。俺は食事も終わっているから」
それから各自採寸してもらい。出来上がったら孤児院に届けて貰えることになった。ガレフやカレンのマントは要らないだろう。ユウのはあっても良いが、ユウはマントよりも服の方がいいかもしれない。また今度必要なら注文しよう。
それよりも――。
「ところで、この町で布団を頼むとしたら何処だろうか? 実はスリーピングシープを狩って羊毛を手に入れたので、それで布団を作りたいのだが」
「私どもの所でも寝具は扱っておりますが、布団となると大量の羊毛が必要になります。スリーピングシープの様な高級な羊毛は普通は使いませんが、どれくらいお持ちなのですか?」
「今、ここに出して見せてもいいが、部屋の中が羊毛でいっぱいになってしまうな」
モモちゃんがまだ、お食事中だ。部屋が埃っぽくなってしまうので、辞めておいた方がいいだろう。
「そんなにあるのですか? それなら布団一組くらいは十分作る事ができますし、他の物も作れるでしょう」
「いや、一組だけでは無くもっと大量に必要なんだ。例えば彼女用に大きいのも必要だし、陛下は必要ないが、子供用の小さい布団も必要だ」
「ど、奴隷にも与えるのですか…………。失礼しました。護衛の方にも布団を用意するのですね。それとスリーピングシープの毛は大変上質な素材でありますので、加工してウール生地にしますと、大変素晴らしいスーツを仕立てる事ができます」
「そうなのか? 普通の羊とは違うのか?」
「もちろんです。スリーピングシープの毛は軽くて丈夫で耐久性にも優れた素材です。正直に申しますと布団の中綿にするのはもったいないです。私どもに任せていただければスリーピングシープの毛からマコト様のスーツを作ってみせますので、そちらを一度お試し頂いてから、どうするか考えてはいかがでしょうか?」
「一般的な布団の中綿は何になるんだ?」
「やはり普通の羊の毛が一般的ですが、羽毛を好まれる方もいらっしゃいます」
「おお、羽毛布団もあるのか。それでは羊毛の敷布団と羽毛の掛け布団を試してみようかな。とりあえず1式孤児院に届けてくれ。試しに寝てみてから、また考えよう」
「かしこまりました」
「あとは、孤児院で使う家具が必要なんだが、このテーブルを作った職人を紹介して貰えるか?」
俺は仕立て屋の後ろに控えている店主に話しかけた。
「それでしたら、私どもの方から家具職人に孤児院に行くように伝えておきます」
確かに家具は実際に孤児院に来て貰った方が話が早い。これぐらいの大きさのテーブルに椅子が何脚必要かなど、実際に家具を置く部屋で注文できるなら楽だろう。
とりあえず、こんなものか。今すべてを揃える必要はないだろう――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます