第112話 冷蔵庫

 俺は慌ててガレフを探し回るが、なかなか見つける事ができない。いったい何処にいるのだろうか? 陛下が知っているかもしれないので、陛下の部屋に行ってみる事にした――。


「陛下。ガレフを見ませんでしたか?」

 陛下の部屋のドアが開いていたので、外から声をかける。


「おお、主人よ。ワシに何の用じゃ?」


 ガレフは陛下の部屋に居たようだ。この2人は仲が良いな。よく地下で2人で居る所をみかける。今日は何をしていたのだろうか?


「ここにいたのか。陛下の部屋で何をしているんだ?」


「マコトよ! ガレフが余の部屋に冷蔵庫を作ってくれた。これでエールも冷やせるぞ!」


 何っ!? もう冷蔵庫まであるのか、エアコンに続いて展開が早すぎてついていけない。もしかしたらヒエヒエ茸を使ってエールもヒエヒエに出来るのでは? と思ったが、もう冷やしてあるとは仕事が早い。


「このヒエヒエ茸で室温を低く調整すれば冷蔵庫なんて、簡単に作れるのじゃ」


「凄いよ、ガレフ。まさに俺が求めていたものだ」

 照明にエアコンと冷蔵庫が揃うとは、これで現代日本にまた一歩近づくことができた。これだけ快適なら俺も地下に引っ越した方が良さそうだな。


「娘のキノコは凄いんじゃ。まだ他にもあるんじゃぞ」

 リーナは自慢の娘なのだろう、ガレフのドヤ顔が凄い。


「そうなのか? どんなキノコがあるんだ?」


「あとは爆発するキノコとかじゃな」


「それは当孤児院では栽培禁止だぞ…………」

 他のキノコは出てこなかったので、ガレフもそんなにキノコに詳しい訳ではなさそうだ。


「俺も地下に引っ越すかな」


「それなら、主人の為にいい部屋を作っておくぞ。冷蔵庫付きじゃ」


 俺とガレフと陛下の3人で俺の部屋をどうするか相談していると――


「ご主人様、お風呂が空きましたよ」

 モモちゃんが風呂から出たのを教えに来てくれた。


 そうだった。俺はあまりの地下の変貌ぶりに署長を接待するというミッションを忘れかけていたようだ。

 俺は陛下とガレフにバウンティーハンターギルドの署長が来ている事、この町の治安を守るギルドのトップと仲良くなっておく事の利点を伝えた。


「そういう事なら余に任せておくがよい。国賓クラスの対応でもてなしてみせよう。まずは冷えたエールだろうか。マコトよ。晩餐会のメニューはなんだ? メニューによってドリンクも変えなければならないぞ」


「今日の夕飯はレッサーバイソンステーキにしようと考えている」

 署長は肉食系女子だから、きっとステーキとか好きだろう。


「ふむ、それならエールで喉を潤してから、赤ワインに移るのが王道だな。しかしもう少しエールを冷やしたいぞ。まだそれほど冷やし始めてから時間が経っていない」


「まだ食事の準備ができるまで時間があるから。その間になるべく冷やしておこうか。俺はこれからロレッタを手伝いに行って来るよ」


「冷蔵庫の温度ならもう少し下げられるぞ。ワシがもう少しヒエヒエ茸を持ってこよう」


「ご主人様、私も何かしたいです。食事ができるまでの間は私が署長をマッサージしておもてなしするというのは、どうでしょう? 」


 珍しくモモちゃんが気の利いた事を言っている。しかしモモちゃんのマッサージってめちゃくちゃ痛かった気がするけど大丈夫だろうか……。まあ、あの署長ならたぶん問題ないだろう。


「それじゃあ、モモちゃんは署長の所に行って料理ができるまでマッサージで時間を稼いで、ガレフは急いでエールを冷やしてくれ、陛下は赤ワインの選定をよろしく。俺は台所に行きます」


 それぞれが自分の仕事へと取り掛かる。俺はロレッタを手伝うために台所へと向かった――。


 台所に着くと、どうやらすでにパンとシチューはできている様だ。ロレッタも仕事が早い。

「今日は署長をもてなす為にさらにレッサーバイソンステーキを追加しようと思う」


「マコトさん。それは少し贅沢が過ぎるのではないでしょうか?」

 孤児院の家計を預かるロレッタの財布のひもはかたいようだ。


「署長をもてなすのにシチューだけとは寂しいじゃないか。明日のジレット捕獲作戦の為にも奮発して英気を養ってもらおう」


「そうですね。院長がいいなら、それでいいでしょう」

 もしかしてロレッタは俺が署長をもてなすのをあまり良く思ってないのか? やきもちを焼いている可能性もある。あまりギスギスされると面倒だが、俺のスキルでは有効な手だてがなさそうだ。


 ここはどんかん系主人公のふりをして華麗にスルーしよう。


「それじゃあ、マジックバッグからレッサーバイソンの肉を出すから、ロレッタはじゃんじゃん焼いてくれ。ロレッタの焼くステーキは美味しいから、きっと署長も満足するよ」


 ロレッタは何も言わずにステーキの準備をはじめる。特に機嫌が悪そうな感じはしないので大丈夫だろう――。


 焼きあがったステーキを皿に盛り付け食堂へと運んでいると、署長とモモちゃんが現れた。


「マコトくん! とっても素敵なお風呂だったわ。鍾乳洞のお風呂なんて贅沢よね。泉質も申し分ないわ。見て! お肌もツルツルよ」


 署長がグイっと自分の頬を指さしながら近寄って来る。なんだ? 自分の頬っぺたを触れって事か? さすがにそれは恐れ多い。


「それにマッサージも凄く良かったわ。何回か挑戦したこともあるけど、くすぐったいだけで全然効かないのよ。でも、モモちゃんのマッサージはとっても体がほぐれたわ」


「凄く署長の体は硬かったです」 

 モモちゃん、きっとそれは署長の防御力が高かったんだよ。レベルが高いのも大変だな。


「それは何よりです。さあ署長座ってください。ちょうど料理もできあがった所です。飲み物もお持ちしますね」


 はたしてエールは冷えたのだろうか? 俺が地下に向かおうとするとガレフが樽をかかえてやってきた。


「主人よ。地下でよく冷やしたエールを持ってきたぞ」


「あらあら、お風呂上りに冷えたエールなんて最高じゃない。さっそく頂くわ」

 樽から木のジョッキにエールを注ぐとジョッキから冷気が漂っているのが見える。これはいい予感がするぞ。


 ガレフからエールを渡された署長はジョッキをあおると一気に喉に流し込む――。


「クーーッ! キンキンに冷えているじゃない! どうやってこんなに冷やしたの? 信じられないわ。おかわりを頂戴!」


 おぉ、ガレフが苦労して冷やしてくれたのが間に合ったようだ。俺も早く飲みたい。が、まずは署長を満足させねば。


「さあステーキも冷めないうちにどうぞ。どんどん焼いてますから、たくさん食べてください」


「うんうん、このお肉も美味しいわ。コショウが効いててエールとよく合うわね」


 さすがロレッタ。エールに合わせてスパイスを効かせた濃い目の味付けにしてくれたようだ。これは署長も大満足といった所だろう。


 ユウやカレンや子供達も騒ぎを聞きつけて集まってきた。そろそろ俺たちも頂くとしよう。


「それじゃあ、みんなも子供たちも夕飯にするよ。席に座って、いただきます!」


 盛大な宴が始まる――――。




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