第81話 ワイン
ワインを持ち帰り、夕飯時――。
陛下が次々とワインのコルクを抜きグラスに注いでいく――。
ワインとは1本づつ飲むのではないのか? 見ているとどうやら一通り全部味見してみるつもりのようだ。
なんて贅沢な…………。
個人でやる事ではないと思うのだが、さすが元王様…………。
ガレフと2人で一通り味見し終えると、そのまま2人で話し込み始めてしまった。どうもガレフもワイン好きらしい。2人の会話は知らない単語が飛び交っていて何を話しているかよく解らない。
俺も1杯いただいてみるか――。
近くにあったボトルから自分のグラスに少し注いで飲んでみる。
うん、渋い。口の中がキュッとなる。やっぱりワインはあんまり好きじゃないな…………。
「お、マコトもワイン飲むのか?」
陛下は俺がワインを飲んでいる所を見ていたらしい。
「試しに飲んでみたけど、俺はワインがあんまり好きじゃないみたいだな」
「今マコトが飲んだのはタンニンが強めの品種だから、こっちの軽めのピノとかガメイを飲んでみるといい」
そう言いながら陛下に渡されたワインを見てみると、先ほど自分で注いだワインよりも色が薄くて香りもイチゴの様な爽やかな匂いがする。飲んでみると渋みはあまり感じず抵抗なく飲めた。
「おお、これならいけるかも。さっきと全然違うぞ。最初に飲んだのは安物だったのか?」
「値段は一緒だが、ブドウが違う。ワインを飲みなれてないと味も香りも感じられないでタンニンの渋みばかり気になってしまうからな。逆に飲みなれるとガメイみたいな軽いのでは物足りなくなってくる。どちらが上等という話ではないな」
「そういうものか。俺はこっちの軽いのが好きだな。良い匂いするし」
「うむ、みんな最初はそういうのだ」
「それがだんだんもっと重いのも飲んでみようかなとなるんじゃ」
ガレフも重いのがいいのか
「私はご主人様と同じのが美味しいです。酸っぱくも甘くもないブドウジュース。不思議な味ですね」
ブタちゃんは瓶ごとグビグビいってるが大丈夫なのか? まああの体格なら酒に弱いって事もないだろう。
と、思っていたが、みるみるとブタちゃんの顔が赤くなる。目つきも怪しい…………。
これはまずいかもしれない、ブタちゃんに暴れられたら誰も止める事ができない。周りを見渡すと俺と同じことを皆考えているのか、不安そうにブタちゃんを見守っている。
『ドンッ』
ブタちゃんが持っていたワインの瓶をテーブルに置く。中身は入っていない様だ。
「ごしゅじんさまぁ?」
あ、これは絡まれる奴だ。そしてターゲットはやっぱり俺か…………。皆が安心したように俺から離れていく、しょうがない俺がなんとか暴れださないようにしなくてはならないようだ。
「ブタちゃん、大丈夫? お水持ってきてあげようか?」
このまま水を取りに行くふりをして距離をとるという作戦もありかもしれない。時間を稼げば寝てしまう可能性もある。
「ひどい! 私のご主人様はひどすぎる!」 ブタちゃんはいきなり号泣しだした。
これは泣き上戸という奴か…………。
暴れはしないようなので今の所はまだ大丈夫そうだ。どうやら水を取りに行くのはダメらしい。
「どうした? 何か嫌な事があったのなら、ご主人様に言ってごらん?」
「ご主人様はひどい! 私にはモモカという名前があるのにブタブタ呼んでひどすぎます!」
えーー! ブタちゃんって呼ばれるの嫌だったのか…………。これは予想外だ。自分でブタって呼べって言っていたのに…………。
「そ、そうなんだ。モモカって言うんだ。かわいい名前だね。じゃあこれからはモモカって呼ぶね」
「そうなんですよ。かわいい名前なんですよ」
えへへとブタちゃんは笑うとそのままバタンと寝てしまった。
これは明日起きたらブタちゃんは覚えてないパターンかもしれないが、名前がモモカだというのは間違いない。このまま呼び名を変更してしまった方が良いだろう。
「みんな聞いてたな。これからブタちゃんはモモカだ。間違えないように!」
「モモカって名前だったのか、知らなかった。ブタの姉ちゃんって呼びにくかったから助かったぜ」
「主人よ。奴隷とは言え女性をブタなどと呼ぶものではなかったと思うぞ」
「違うんだガレフ。ブ……モモカは俺の奴隷になる時に名前を教えてくれなかったんだ。オークの奴隷は人間にブタと呼ばれているから、私もブタと呼ぶようにとお願いされたんだ」
「そうであるか、彼女も奴隷である前に1人の女性という事だろうな。大事にしてやれよ」
「はい……」
俺はモモカの事を大事にしているつもりだが、ブタブタ呼んでいたらとてもそうは見えないか…………。
「お、俺も院長に話しておきたいことがあるぜ」
ど、どうしたケイン。お前も何かカミングアウトするつもりか?
まさか『俺って実は最強なのでは?』って気が付いてしまったか?
辞めてくれ、そこに気が付くとお互いに良くない事が起きる気がする。子供に持たせるには教育上良くないスキルだったかもしれない。努力の大切さを忘れないで欲しい。
「実は俺はケインじゃなくてカレンって名前で、本当は女なんだ…………」
なんだそっちか…………。
「余は解っておったぞ。女の身で男の振りをするのも大変であろう。余の城にも男の跡継ぎが生まれなくて、苦労して男装しているものがおったからな」
陛下は解っていたのか、俺はどうするか? 俺も解っていた事にした方がいいかな。
「ケイン! じゃなくてカレンか、良く言ってくれた。いつか俺たちを信用して打ち明けてくれると思っていたぞ」
「じゃあ院長も俺が女だって気が付いていたのか?」
「そりゃあカレンはロレッタそっくりで可愛いからな。口調だけ変えてもわかるぞ」
「か、かわいくなんてねえ!」
カレンはそう叫ぶと部屋から出て行ってしまった。
あー、どうやら選択を間違えてしまったか? どうも昔からこういう選択肢がいくつかあると良く間違える。
特にギャルゲーは苦手だ。あいつら常人ではあり得ない様なワガママを要求してくるので、俺が常識的な選択をするとそれが間違えた事になっていて攻略できたことがない。
「カレンは照れているだけだから、院長は気にしないで下さい」
ロレッタは俺にそういうとカレンの後を追って部屋を出て行った。
カレンの事はロレッタに任せておいた方が良さそうだ。
そしてモモカはここに寝かせておこう――――。
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