笑う壺、沈める壺

目の前に広がるこまかな格子状こうしじょうの黒、そしてそれに包まれた肌に手を伸ばす。

指先に感じるザラつきだけが俺を現実に引きめている。

声、天上から降り注ぐ一筋の光の様に仄暗ほのぐらい部屋を満たして、

それはさながら深い森の中に迷い込んだ旅人の羽を休める宿木やどりぎみたいで。


「私には」


その声を聴くだけで、


「何も無い」


その眼で見つめられるだけで、


「だからこそ欲望のままに」


誰からも忘れ去られて透明になれる。


「愛を唄おう」


そしてアナタは悲しそうに笑うんだ。

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