僕VSメフィストIN法廷






 やだよ。全員死刑なんてことしたら、わざわざ裁判した意味がなくなるじゃないか。これは僕の公平性と正当性を印象付けるための茶番劇だってこと、忘れてもらっちゃ困るよ。

 あ、弁護人がなんかこっちに話しかけてきた。

「新王様におかれましては、どうかどうかお腹立ちをお収めいただき遊ばされますようお願い申し上げます! 被告人メフィストがあいのこに対し、誤解を招くような発言をしたことは認めます! しかし、それは検察官とマスコミが悪意を持って前後の文脈を無視し一部を切り取った結果なのであります! 被告人はけして差別的な意図をもって発言を行ったのではないのであります! 関係者の皆様を不快なお気持ちにさせてしまいましたこと慎んでお詫び申し上げますと共に、二度とこのようなことがないようあい努めますので、どうかどうかお見捨てなきようにお願い申し上げます!」

 おお……炎上発言した政治家の謝罪会見みたい。前後の文脈確認したらなおひどかったってパターンだよな、これ。

 こっからどう持っていくのか逆に気になってくる。

「前王様があいのこを迫害していたとお思いかもしれませんが、それは大いなる誤解であります! 前王様はあいのこを迫害するどころか、保護、教育、育成していたのであります! ただそれを世間の耳目にさらすことを良しとしなかった故、知られていなかっただけのことなのでございます!」

 法廷がざわついた。

 僕の心もざわついた。

 思わずオンビキに聞き確かめる。

「え? 二王そんなことしてたの?」

 オンビキは即座に否定した。

「するわけなかろう」

 だよね。僕もそう思う。実際戦った経験から踏まえて。

 あいつらあいのこについて『汚らわしい雑種など、人間と共に滅ぶが分相応の存在』ってはっきり言ってたし。

 ……でも考えてみたら、僕が遭遇した二王って、肉団子にされて百年たった後の二王なんだよな。

 ああなる前はもしかして、いくばくかは、ましな性格だったということはないかな。あいのこに目をかけてやろうという優しい気持が、雀の涙ほどでもあったということはないかな。

 もしそうなら――あえて言う。僕的にボーナスチャンスだ。

 だってあれだよ、そういうこであれば、今推進してるあいのこ保護政策に対して、内心旧体制を支持してる層が文句言えなくなるじゃないか。ほかならぬ二王だって同じことしてたんだから問題ないって、言いくるめられるじゃないか。

 ……よおし、今日だけは黙っていようという己への戒め撤回だ。

 不規則発言、解禁。

「あー、裁判官。弁護人に少し確かめたいことがあるのだが、いいかな?」

 カメレオン顔の裁判官は緑色の顔を青にしたり黄色にしたりしながら、首振り人形みたいに頷いた。

「は、はい、仰せのままに。なんなりと弁護人にお聞きくださいませ陛下」

 許可を得た僕は、早速弁護人に――ハリネズミ型の悪鬼だったが――尋ねる。

「君は今、二王があいのこを保護していたと言ったね?」

 弁護人は丸まり震えながら答えた。

「は……はははははい。確かにそう申しました」

「それは一体どこから得た情報なんだ?」

「……ひ、被告人からであります、陛下……二王様はご子息様たちにのみ、あいのこの保護育成について話をされていたのでございます……」

 なるほどそういうことか。

 だったら本人に聞いてみるしかない。

「裁判官、被告人へ直に事の真偽を尋ねたいのだけれど、かまわないかな?」

「は、はい、陛下。どなたにご確認を取られますか……?」

 そりゃもう、この一択。

「おいボン様、余計なことは止めておいた方がええ!」

 とオンビキが耳打ちするが無視だ。

「メフィスト・シェオル」

 ネームド悪鬼が入った鳥籠が自動的に開いた。

 そこからメフィストがぺっと吐き出される。地面に落ちる。

 相変わらず丸めたティッシュ状態である彼だったが、士気は失っていない。偉そうな口を叩いてきた。

「フ……私から話を聞き出そうなどと、随分愚かなことをするものだ、まがい者の王よ……真実がさらけ出されれば出されるほど、お前の立場が不利になるというのに」

 なんだこの自信。

 え。待って。マジで僕が知らない大スクープ握ってるのこいつ。聞いたら民が『やっぱり二王の方がよかったー』とかなっちゃうような?

 まずいなそれ。

 僕もしかして下手打った?

 ええい、後悔したって遅い。

 いいさ、いざとなれば美声マイクで百曲ばかりメドレーやって、全てをうやむやにしてやろうじゃないの。メフィストの発言内容を全部忘れさせてやろうじゃないの。

「前置きはいいよメフィスト。それよりも今弁護人が言った、二王があいのこの保護育成をしていたとかいう件、詳しく聞かせてくれ」

 メフィストはフハハと笑った。とうとうと語りだした。どこに口があるのかさっぱりだが。

「問われたのなら答えてやらねばなるまい。いいかよく聞け、二王様は野に散っている無知な薄汚いあいのこどもを極秘に狩り集め、極秘裏に特殊施設にぶち込み」

 しょっぱなから弁護人の弁護を台無しにする物言いだが、流そう。

「特別に教育を施し、人間への化け方を教えてやっていた。何故か、それは人間どもの中へ潜り込ませ、内側から破壊工作を行わせるためだ! 二王は純粋なる悪鬼の中から犠牲が出ることをことのほか厭うておられた!」

 明白な歴史歪曲だがもう少し待とう。

「二王様は子息たる我々に対しそうであったように、民を、兵を、愛しておられた!」

 あかん駄目だもう突っ込まざるを得ない。

「ちょっと待てメフィスト」

「何だ。まだ話は続くのだぞ」

「ああうんそれは分かってる。でもさ、あの、君は今、二王は子息たる我々に対してそうであったように、民と兵を愛していた――って言ったよね」

「ああそうだ」

「僕さっきオンビキから聞いたんだけどさ、二王は子供を卵の時塩水につけたり、孵化したてのところをピラニア池に放り込んだり、その他色々してたんだって? 愛してたらそういうこと出来なくない? 普通」

 僕は感じ取った。メフィストが次の言葉に映る前に、一秒にも満たない間を置いたのを。

「笑止! 愛あればこそ二王様は、そういうことをされたのだ。我々のためを思って、我々を鍛えようとされたのだ!」

「その結果5000弱のうち6人しか生き残らなかったってところに、疑問は感じない?」

 あ、今度はきっちり一秒間を置いたぞ。

「感じないね! ああ感じないね! 王の期待に応えられぬものは、たとえ我が子とて、いや我が子だからこそ、生きながらえる資格などないのだ!」

「本気でそう思ってる?」

「思ってるって言ってるだろうるせえ馬鹿!」

 口調が断然荒れてきた。

 こりゃ自分が言ってる言葉を自分で信じてないな。

「とにかく二王様は存在する価値もないガラクタどもを拾い上げ食わせてやってたんだよ! ありがたく思えこの汚らわしいあいのこ野郎が!」

 わー、断然差別意識むき出しになってきた。

 ここまで来たら、いっちょ軽く煽ってみるか。そしたらもっとぺらぺら喋ってくれそうだ。

「……フーン。証拠は?」

「は? 証拠?」

「うん、証拠。あいのこを保護してたっていう施設とか、あるいは記録映像とか、資料とか、そういうちゃんと残ってる? どうも君の話、信用しきれないんだよね。なんかつじつまの合わないところもあるような気がするしぃ。命が惜しくて作り話してんのかなって疑いも拭えないしぃ」

「あるわ! 証拠ならあるわ! 施設は王城の最下層、地下牢の下にまだちゃんとあるわ! 二王様が封印されてからずっと閉鎖したままだがな!」

 よし、ひとまず最重要情報は聞き出せた。

 さてここからは、施設の存在の真偽を確かめなくてはならない。

 メフィストに案内させて現場へ行く、というのが最も自然なやり方ではある。しかし法廷からむやみに被告人を連れ出すわけにはいかない。僕自身この場を離れるわけにはいかない。

 と、くれば……施設の方をこちらへ持ってくるか。地下牢で使ったあの魔法を利用して。

「取り出し《テイクアウト》!」




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