よし、特殊部隊を上手いこと送り出したぞ……ハレムって何のことですか?





 特殊部隊の皆さんも目を輝かせ、「ハイル!」「ハイル」と連呼してくれているよ。

 この熱気が冷めないうちに――終わっとく!

「それでは任務地に赴いてくれたまえつわものたちよ! 諸君らの健闘を祈る!」

 群衆が歓呼の声を上げ国旗を振りまくる。まだ公式に新国旗がお披露目されていないから、全てポケモンボール国旗だ。

 軍楽隊が勇ましいマーチをかき鳴らす。クラッカーが鳴り紙テープと紙吹雪が飛びかう。

 お祭り騒ぎムードの中、消防隊となった特殊部隊員は隊列を崩さず、華々しく退場していった。

 やれやれ、ひと仕事終わった。

 あれだけ言い聞かせたのだから、よもや戦闘はすまい。

 僕は信じてるぞ君らのことを。フェアリーとキャラクターなびで、逐一チェックはするけどな。



「只今より裁判を始めます。検察官、訴状を読み上げてください」

 で、二日目の裁判傍聴に突入だ。

 今日はもう何が答弁されようと反応しないようにしよう。昨日の不規則発言が一面記事になっちゃってる今、これ以上火に油を注ぐわけにいかない。

 あ、そうそう。もしや心配している人がいるといけないのであえて言っておくと、僕はこの特殊部隊派遣の件を、すでにガルム女史へ伝えている。さっき言った新魔法練習の合間に。

 報告・連絡・相談――ほう・れん・そうの重要性を身をもって思い知った故、事後連絡なんて怠慢は犯せない。

 その際の会話の様子を、改めてここに記そう。


「――ということで、工事関係者と共に、消防隊に偽装させた特殊部隊もそちらへ向かうことになります。害はありませんので、ご安心ください」

 便座に腰かけこそこそ説明を終えた僕は、ガルム女史の返答を待つ。

『あらまあ。随分急な話ねえ』

 声色、難色を示している感じではない。

「すいません、なにしろ僕も知らないうちに、勝手にことが進んじゃってて……で、よろしければこの件、ニューイバングに住んでいる人間の皆さんに教えてあげてくださいませんか? いきなり悪鬼が大量降下してきたら、びっくりすると思うので」

『いいわよ』

 重ねての頼み事も快く引き受けてくれる。こいつはもう、上機嫌と言って過言ではない。

 よかった。やはり大事なことはさっさと伝えておくに限る。

 と思っていたらガルム女史は、驚きの発言をしてきた。

『といってもね、実のところもう、その話知ってるのよ、私』

「えっ!? だ、誰から聞いたんです? オンビキさんですか?」

『いいえ、ヨギよ。あの子の先生になってくれてるマミがね、あいのこたちに教えたのよ。悪鬼ランドTVがどこでも見られるようにするため、明日、工事の人がこの町に来ますよって。もう、子供たち大喜びよ。ヨギも工事を見に行きたいって言っちゃって、困ってるの』

 そうなのか。

 まあ、歓迎ムードで何よりだけど……マミちゃんにその情報を教えたのはどう考えてもガーナだよな。

 ニューイバングにいる娘には、この情報をいち早く伝えなきゃってことなんだろうけど、それならそれで僕に一言くらいあっていいんでないかい?

『そうだ、あなた、早速バスターミナル作ったみたいね。随分悪趣味な代物だそうじゃない? 至る所五色で塗りたくってあって、ごてごてよくわかんない彫刻がついてて』

 その情報については、誰から聞いたなんて聞かない。

 アルフ以外にいるわけないもんね。

 そもそも僕が提案したんだし。ガルム女史からアルフに、バスターミナル建設の話をリークしてはどうかって。

 対悪鬼抜刀部隊の皆さん、どんな顔してあれを見たものやら。

『あのバスターミナル、私と三馬鹿の会談が決まってから、本格運用するつもりなのよね?』

「はい」

『じゃあ、早速明後日からそうしてくれない?』

「えっ、あ、明後日って……もう会談決定したんですか!?」

『ええ。昨日の今日で返事が返ってきたのよ――あなたが作ったもの見て、肝潰したのね。あいつらも仕事が早くなったこと。私の下にいた時より、ずっと迅速に動いてるわ』

 ガルム女史がからから笑いだす。

 腹の底から楽しがってんな、これは。

 うーむ。しかし明後日かあ。僕としてはパレードが終わってからの方がよかったんだけどなあ。事の推移を余裕をもって、しっかり確認出来るし。

 でも決まった話ならしょうがないや。チャンスが来るタイミングはこっちで選べないんだ。受け入れ最大限に生かすべし。

「分かりました。そしたら明後日までに、バスの都合をつけますんで」

『頼んだわよ。ああ、そうそう。カレンのことだけ「カレンちゃんがどうかしたんですかっ」

『……食いつきいいわねー』

 そりゃもう、カレンちゃんのことは24時間、気になって気になってしょうがないです。

『いえ、別にどうもしやしないわよ。ただニューイバングに戻ってきたっていうだけでね。それと、あなたに、寂しいから早く帰ってきて欲しいって伝えてくれって、私に頭下げて言ってきたのよ』

 なにいいい!?

 カ、カレンちゃんが、あのプライドの塊であるカレンちゃんが、ガルム女史に頭を下げただとおおお!?

 そんな、そんな、ことが、この世にあり得るのか!?

「ほほほほ本当ですかそれっ!? なんか話作ってないですか!?」

『あのねー、こんな話、私がわざわざ作る意味ないでしょ? 本当よ本当』

「ふわわわわわ。マジですかマジですかマジですかー」

 こんな、こんな夢のよーな展開が来るとは。

 明日僕死ぬんじゃないだろうか。

 カレンちゃんが、『寂しいから早く帰ってきて』っていう激レア台詞を口にした所ナマで見たかったー。

 カレンちゃん戻ってきたなら、ニューイバングに瞬間移動しちゃおうかなーこんなつまんない式典業務なんてっほったらかしてさあー。

『ボン、ちょっとボン、何馬鹿みたいに浮ついてるの。カレンがそんなこと本気で言うわけないの、分かってるでしょ』

「わ……分かってますよ……」

 だけど刹那の夢を見たいんだよ。いやもしかしたら夢じゃないのではと思えなくもないんだよ。

 だって彼女、ニコラスに対して僕のことほんのちょっぴり擁護してくれたんだもん!

 ガルム女史は知らないだろうけどさ、僕見たんだもんそれ、ファミリアゴーストで見たんだもん!

 嘘じゃないもん!

『何かカレンに言いたいことある? あったら言いなさいよ。私が伝えておいてあげるから』

「うおお本当ですかガルムさんっ。ありがとうございますありがとうございます。じゃああの、その、『君のためにお仕事頑張って早く帰るからね』って伝えていただけますかっ」

『……本当に分かってるのよね? あの子があなたを好いてないってこと』

「わ、分かってますよっ」

『相手の心理を正確に掴むことも出来ないんじゃ、この先振り向かせるなんて、夢のまた夢よ――じゃあね、もう切るわ。お仕事励むのよ』


 回想終わり。

 さて、ファミリアであちこち見て回るか。

「ボン様、ちょっといいかの?」

 話しかけないでくれオンビキ。言いたくないが君は朝から僕の邪魔ばかりしているぞ。

「ガーナの娘についてなのじゃが、あれもハレムに入れるつもりなのかの? わしはあまりお勧めせんのじゃがなー」

 ……は……はれむ?



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