これは、サービス終了したB級ゲームの世界に転生し、バッドエンドを回避させ悪鬼王となったさえない男子大学生が町を建設し軌道に乗せるまでのお話である
この盗聴騒ぎの責任は、ぜんっぶニコラスにある、僕はそう思うっ
この盗聴騒ぎの責任は、ぜんっぶニコラスにある、僕はそう思うっ
うん知ってる。カレンちゃんに全然そういう気持ちがないっていうのは百も承知だ。悪鬼王が支配する地に移住するなんて、事実上の流刑に他ならないんだから。ニコラスから言い含められなければ、絶対来ようなんて思わなかったはずだ。
ガルム女史は自分の欲望を追及出来れば後はどうでも良しという人間。サクラちゃんはお兄ちゃんさえいれば無問題という人間。両者追放されたことには、さほどの精神的ダメージを受けていない。
だがカレンちゃんは違う。
過剰なほどのエリート意識と意地悪さを除けば、繊細なお嬢様なのだ。下ネタ話に赤面するかわいいお姫様なのだ。あんだけ冷たいニコラスを、それでも慕い続ける一途な乙女なのだ。
だけど、マミちゃんは彼女がそんな子だって知る由もない。一度も直に会ったことないんだから。カレンちゃんたちがイバングに帰還したタイミングで、ニューイバングに降りてきたんだし。
だから、ガルム女史が言うことをストレートに受け止め、このようにぷんぷん怒っちゃう。
「まあ、なんてことでしょう。命も危ないところを救っていただいているのにも関わらず、そのような忘恩の言葉を吐くとは……陛下のご温情を何と心得ているのですか。何故にその人間は、そうも心がねじくれているのですか」
「人間の中では上流の生まれなのよ、カレン。だからどうにも世間知らずで。悪鬼王というのがどれほどの存在なのかよく分かってないの。ボン様相当よくしてあげてるんだけどね。家も用意してあげたし、毎日様子を見に行ってあげてるし。ここに来るときには荷物持ちまでしてあげたくらいよ。何を持ちこんでるのか全くノーチェックでね」
突然マミちゃんが前足で――もとい手で顔を覆った。くすんくすんと泣き始めた。
ノリノリで暴露話を続けていたガルム女史は、いったんそれを止める。
「……どうしたの?」
「……陛下がお可哀そうで……そんなにまでしているのになついてもらえないなんて、あんまりです……」
や……やさしいなあこの子……。
『なつく』って表現はいかがなものかと思うけど、普通にいい子だよなあ……。
でも、この手の純な反応に慣れていないガルム女史は、マミちゃんを少々もてあましてしまったようだ。天井を仰いでぐるりと目を動かす。どうしたものかという風に。
「……いや、そこまで深刻にならなくていいのよ。ボン様もボン様で、そういうのを楽しんでる節があるし。ほら、よく言うじゃない? 馬鹿な子ほどかわいいって」
お言葉ですがガルム女史、表現がズレてるのです。カレンちゃんはけして馬鹿ではないのです。文武両道のデキる子なのです。ただ悪役令嬢でとして運命づけられているがため、それらを発揮する機会がことごとく打ち消されているだけなのです。むしろそういった言い回しは、サクラちゃんに対するハルキの偏愛にこそ相応しいと思われるのです。ハルキは怒るだろうけど。
「そもそもね、盗聴はあの子が自分で考えてやったことじゃないのよ。あの子の一存で使えるほど安いアイテムじゃありませんからね、これは。大方上司からの指示を受けてやったことでしょう。上の言うことはよく聞く子だから」
そう、そうだ。僕もそう思う。悪いのはカレンちゃんじゃない。カレンちゃんに命じた上司、すなわちニコラスが悪いのである。
あの野郎今何をしているのか。フェアリーが破壊されたことは即伝わったはずだが。
(今頃大騒ぎになってんじゃないか?)
僕は、再びイバングにいるファミリアに意識を同調させた。
案の定場は騒然となっている。公安職員が色を失った態で、チマキさんに報告している。
「……全フェアリーが沈黙しました。恐らく潜入が感づかれたものと思います」
「……なんらかの電波障害が起きたという可能性はないか」
「仮に電波障害が起きたとしても、あれだけの数の機体が一斉に通信不能になるなど、絶対にありえません」
カレンちゃんはというと、真っ青。
「……そんな……」
と声を詰まらせ、すがりつくように二コラスを見やる。
だがニコラスときたら、なんということか、またしても瞳孔から光を消しているではないか。殺す目になっているではないか。
なんだおい。
まさかこの状況が、カレンちゃんの失態によって引き起こされたと考えてんじゃないだろうな。
違うからな、盗聴器が見つかったのは別にカレンちゃんがポカしたわけじゃないからな。彼女に腹を立ててるとしたら筋違いだからなっ。
「……カレン、今すぐニューイバングに戻れ。悪鬼王は恐らくこの件にまだ気づいていない。なにしろ、今聞いた通り、遠く離れた悪鬼の本拠地で勝利の美酒に酔いしれ、、反乱分子の抹殺にうつつを抜かしているのだからな」
こらこらこら僕の気苦労も知らないで勝手な憶測連ねんじゃないよ。
むしろ抹殺をどうにか回避しようとしてんだぞ、僕は。
「恐らくフェアリーは、何らかの警戒網に引っかかったのだろう。お前は悪鬼王が戻ってくるまでの間に、その警戒網がどのようなものか調べるのだ。そして、我々に報告するのだ」
おいおいおい、曖昧な希望的観測でカレンちゃんに危ない任務を押し付けんなお前。
もし仮にその見方が正しいとしたってだな、調査の途中で僕が戻ってきたらどうすんだよ。
「万一悪鬼王に訝しまれたら、どんな手を使ってもいい。全力で気をそらせろ。それが叶わないときは……」
時は?
「奴の息の根を止めろ。そうすれば悪鬼どもの内乱を引き起こすことが可能だ。奴らの流儀では、王冠を得たもの即ち王なのだからな。そうなれば、連中は弱体化する。人類勢力が巻き返すことも可能だ」
えっ、えっ、えーっ!?
違う違うから!
仮に僕がいなくなったら悪鬼弱体化どころじゃないから、先鋭化するから!
またぞろ二王支持派が息を吹き返して今度こそイバング壊滅するっての!
もう……もう、この殺伐たる世界に愛を吹き込み平和をもたらそうとしているこの僕の血のにじむよーな努力が分からんのか、このすっとこどっこい!
しまいにゃ頭から袋に突っ込むぞこの野郎!
「……わ、分かりましたチューダー隊長。必ず仰せの通り、任務を果たして見せます」
やだーもうカレンちゃんその気にならないでー。こいつ絶対良からぬこと企んでんだって。顔ちゃんと見て、顔を。善良なキャラにあるまじき影の多さだよ。
「うむ。頼むぞカレン・ブラッドベリ。イバングの安寧はお前の肩にかかっているのだ」
「はい!」
僕の心の叫びもむなしく、カレンちゃんは部屋を出て行ってしまった。悲壮な決意を滲ませた表情で。
彼女がいなくなった後、チマキさんがぼそりと言う。
「……いいのかニコラス。悪鬼王に挑ませるなど。あの娘、確実に殺されるぞ」
そしたらニコラスは、いとも平然とこう言いやがった。
「そうなったらそうなったで仕方ない。スパイというのはそういうものだ」
カレンちゃんはそもそもスパイじゃねー対悪鬼抜刀部隊隊員だ!
お前が無理やりスパイの役割押し付けたんだろ!
「もし悪鬼王があれを殺したなら、こちらにとって好都合だ。人間との共存など、所詮言葉の上でのまやかしだと、証明する材料になる。イバング市民も気を引き締め直すだろう。やはり悪鬼は悪鬼でしかない。我々の敵なのだと」
ぐああああ悪どいっ。なんて悪どさだっ。僕の善意を意図的に亡き者にしてやろうって魂胆なのか文句なしにクズ野郎だなこん畜生。
ようし分かった、そっちがその気ならこっちも対抗措置を取ってやるからな。ここまでカレンちゃんをいいように使い捨てにしようってんなら、古い表現だが、ぎゃふんと言わせてやるからな!
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