これは、サービス終了したB級ゲームの世界に転生し、バッドエンドを回避させ悪鬼王となったさえない男子大学生が町を建設し軌道に乗せるまでのお話である
八方収まりそうな秘策を思いついた!――えっ。僕そんなひどいこと言ってないと思うんだけど……
八方収まりそうな秘策を思いついた!――えっ。僕そんなひどいこと言ってないと思うんだけど……
う、ううーむ。
こんだけ腹決めちゃってる相手にさて、どういう処分を下したものか。
死刑はもちろん回避の方向だが、無罪放免もなしだろう。今の状態で彼らを野放しにしたら、早速不満分子と合流して、強力な反体制運動を展開するだろう。
そもそも、これだけはっきり新王への敵意を露わにしているものを放置したら、僕を支持してくれた民への示しがつかない。
(一定期間刑務所に入ってもらうっていうのが、一番いいんだけどな……)
でも、とはいえ、この悪鬼ランド内に彼らを押し込めておけるような刑務所ってあるんだろうか。全員AAAクラスだから、よっぽど警備が堅くないと、すぐ脱獄されちゃいそうなんだけど。
(というか、そもそも刑務所っていうものが存在してるか怪しいな。さっきの会議の時、オンビキたち、その手の話全然してなかったんだけど)
もしないとするならば新しく建設しなければならない。脱獄不能と謳われたアルカトラズ級のごっつい奴を。
作ること自体は僕にとって簡単なことだ。
建設場所は地上だろうなやっぱり。前王に忠誠を誓い続ける遺臣なんて微妙な存在、悪鬼ランドには置いておくのはちょっと無理。
(せめて僕に対する敵対的姿勢を引っ込めてくれればいいんだけど、殺されてもそうしないって言ってるしなあ。であれば危険度は減らないしなあ)
思案投げ首してる最中にふと、カレンちゃんとサクラちゃんの姿が浮かんでくる。
故郷のため与えられた正義を信じ頑張ってきたのに、その故郷での居場所をなくしてしまったというただその一点においてだけ、彼女たちとメフィストたちの立場は似ている(ガルム女史については、またちょっと別問題だ。最初から『故郷のために』という発想はないし、そのように行動もしていない)。
(二王の手による悪鬼へのクラスチェンジを脱し人間に戻ったというのに、受け入れてもらえないというのは、実に理不尽だよなあ)
悪鬼化した人間と悪鬼は同じものではない。言うなればあれは、強制的な『変身』だ。メルヘンなんかによくある、魔女が王子様に魔法をかけ蛙にしてしまう、という現象に近い。だからこそ悪鬼王が死んだ途端、元に戻れたのだ……。
……ん?……ちょっと待てよ。
クラスチェンジって、人間→悪鬼の一方向しかないのか?
理屈からすれば逆の現象、悪鬼→人間があってもおかしくないような。
もしそれが可能なら、メフィストたちを人間にしてしまうことが出来たなら、こちとら大いに助かる。
刑務所を新設する必要はなくなるし。反体制運動も出来なくなるし――人間と化した彼らと組もうなんて、不満分子も思わなくないだろうから。
(……そもそも悪鬼は、自分の意志で人間に化けることが可能なんだ。その状態を寝ても覚めても24時間維持させ続けるようにすればいいだけのことで……いけるんじゃないか? 多分。やれるはずだよな)
希望的観測を胸に秘めつつ、僕は、メフィストたちをたしなめる。
「大丈夫だって。とりあえず八つ裂きなんかにはしないから。とにかくね、君たちが考えを改めてくれればそれでいいだけの話なんだ。ひとまずは僕を王だと認めるくらいはしようよ、動かしがたい現実なんだからさ。そんで無意味な武装蜂起を止めると誓ってくれさえすれば、情状酌量もありうるかも知れ」
「やかましい、汚らわしいあいのこめ!」
「たとえどのような責め苦を味わうとも、魂までは汚されんぞ!」
「この身が引き裂かれようと、貴様を呪い続けてやるわ!」
うーん困った。相変わらず聞く耳持ってくれない。
折れない心も時と場合によりにけりだなあ。モブたちはこの通り、続々降参してくれてるというのに。
「新王様、私どもはあなた様を悪鬼王として認めます! どうかどうかお許しを!」
「私には年老いた両親が家に!」
「私には妻と孵ったばかりの子が!」
「私の腹にはまだ孵らない卵が!」
言ってることがどこまで本当なのか怪しいところもあるけど。
「ボン様!」
お、聞き覚えのあるどら声。
「やっぱりここにおったかの!」
振り向けばオンビキだ。五体粉砕機仕様の記録映像で見た黒頭巾の群れを、背後に引き連れている。
「あんまり一人で気ままに動かんでくれ。物事なんでも手続きというものが入用なのじゃからして」
こちらへ苦言を呈した後彼は、閉じ込められたメフィストたちに向き直り、両手を揉み合わせた。楽しくてしょうがないって感じに。
「さあて、お前たちにはこれから大法廷に移動してもらわんとな。きっかり24時間後に開廷じゃ。それまでは控室にいてもらおう――いやいや案ずることはない。あそこもそうそう悪いところではないぞ。何よりここよりは温かいしのう――では連れて行け」
命令を受けた黒頭巾たちは無言で頷き、解凍したての一同を取り囲んだ。閉じ込められたままのネームドもそれ以外も軽々担ぎ上げ、にぎやかに運び出していく。悲鳴も怒号も何のそので。
「わっしょい!」
「わっしょい!」
「わっしょい!」
つつがなく運搬が終わったところで、オンビキがうきうき聞いてくる。
「さて、ボン様よ。連中にどういう刑を与えるかもう決めたのかの?」
「いや、まだ……」
「そうかの。まあ、裁判の結審は、パレード最終日に調整したからの。考える時間は十分ある。宝物庫から蒸し鍋と寸胴鍋、フライヤーを引っ張り出す時間もな」
……まだそこにこだわってるのか。
「わしとしてはフライヤーがいいと思うのじゃがな。低温からじっくり揚げていけば、聴衆を満足させるに十分な時間が稼げるぞい」
だからそういうドン引き発言やめてくれよ。グロとかスプラッタとか猟奇とか、その手のものはたとえ文であっても読みたくないんだよ。メンタルやられるに決まってんだから。
「……いや、そういう刑具は使わない方向で行こうかと」
「なぬ? じゃあどうするのじゃ」
「魔法でどうにかしようかと」
「ほほう! まあそうじゃのう。新王の権威を見せつけるためには、手ずから連中を駆逐して見せた方がいいかもしれぬ。まあしかし、そういうことなら、力の調節には気を付けねばならんぞ。大法廷ごと吹き飛ぶようなことになると困るでな」
オンビキには裁判→死刑という既定路線以外の発想がないらしい。他の閣僚も間違いなくそうなんだろう。
多少気が重くなりつつ僕は、そのつもりはないんだと伝えることにした。『王自ら反逆者を処分!』と民に向け事前アナウンスされでもしたら、僕、身動き取れなくなる。
「違うって、そうじゃないって。僕はだね、彼らを粉砕するんじゃなくて、無害化させたいんだ。平たく言えば、人間化させようかと思ってるんだ。そうすれば何も殺すことは」
オンビキが突然、アフリカオオコノハズクのように細くなった。
僕はびっくりして、台詞の続きを飲み込む。
「フホォオオオオオオ……」
何、どういう意味の鳴き声なのそれ。
「な、なんと恐ろしい……ボン様よ、そんな血も涙もないことを考えておったのか……」
えぇ? どういう言い草だよ。血も涙もあるからこそこの穏便な処置を考え付いたっていうのに。
「おおお……恐ろしきお方だべえ……」
えっ、牢番までもがそう言うの!?
悪鬼の感覚ずれてない? ねえ!
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