もう一度言う、Nooooー! やめてそういうスプラッタ展開やめてー





 今このタイミングしかなさそうなので、レギオン艦隊所属のネームド悪鬼たちがこの世の果てに飛ばされた後どうなったか、皆さんに事後報告しよう。

 ニューイバングに移住者を案内した後僕は、彼らのもとに向かった。事態が落ち着いたら、迎えに来てやるって約束してたし。

 そこはあい変わらず一面の海だった。さすがに嵐は収まっていたが、発生した水があまりに大量過ぎて、地面が吸収出来なかったらしい。

 メフィストが乗っていた旗艦『ガダラ』と、バフォメトたちが乗っていた戦艦は、砂丘の名残らしき砂の島に仲良く難破していた。

 どちらも風雨に揉まれまくったことで完全大破。飛行能力どころか航行能力さえ失っている有様。悪鬼の皆々様も相当きつい思いをしたのか、遭難者と言うに相応しいボロボロぶりであった。

 しかしバフォメトたちネームド悪鬼は、そんな有様になってもなお、戦意を失っていなかった。僕の姿を見た途端敵意むき出しで攻撃してきた。防護服に遮られて、どれもこれも不発に終わったけど。

 メフィストは薄くなったのに加えて水分が抜けていた。炙られたスルメさながらに反り返りながら、動くことさえ出来なかった。それでも悪態だけはついてきたのだから、ある意味あっぱれというべきだろう。(ちなみに乗組員であるモブ悪鬼たちは、総じてすぐ降伏してきた。自発的にではなく否応なく場に連れてこられただけだから、当然かもしれない)。

 とにもかくにも僕は、彼ら全員を悪鬼ランドまで連れ帰るとした。

 いくら反抗的態度を崩さないといっても、放置は出来ない。あたり一面なんにもないから餓死するかもしれないし、万一死なないとしたらどうにかして悪鬼ランドまで戻ろうとか、この場に反新王の本拠地を作ろうとか、余計なことをするかもしれないし。

 ……でも、そうしようと思ったところで重大な問題にはたと気づいた。

 彼らを、一体どこに置いておいたらいいのだろう?

 一旦隔離施設的なところに入ってもらわなければいけないのは確かだが……悪鬼ランドのどこにそういう場所があるのか、よく分からない。

 ということで僕は、悪鬼ランドに取って返し、オンビキに相談した。

 するとオンビキは、王城の地下牢が最良だろうと言ってきたのだ。

 地下牢と聞いて僕は、通常連想されるような――湿っぽく、暗く、鉄格子があって、鎖で繋がれてといったものを連想した。

 だけど実際見てみたら、全くそうではなかった。ただの巨大な冷凍倉庫だった。

 オンビキによると、特に危険そうな犯罪者は、ここで急速冷凍させておくのだそうだ。

 大丈夫なのかよとも思ったが、悪鬼だから問題ないのだろう。サクラちゃんも悪鬼化した際ニコラスから凍らされていたけどどうってことなかったし。

 凍ってれば意識も眠っているから、本人たちにとっても楽かもしれない。改めて時間が出来たら、なるたけ穏便な処理の仕方を考えよう。

 そう思って僕は、一旦メフィストたちに地下牢入りして貰ったのである。

 ――であるのにいきなり処刑とか、確定事項のように吐かれても、困ったとかいうレベルじゃないですぜ!?

「ま、まままま待って、五体粉砕機とかどういうこと、僕この段階に至るまで全く聞いてないんだけど! よくないんじゃないかなそういうの!」

 僕が問い詰めてくる理由についてベルカは、ずれた方向に解釈したようだ。『あちゃあ』と言わんばかり己の額をヒレで叩き、言い訳だか弁解だかをしてくる。

「こ、これは失礼いたしました新王様。そういえば新王様には、いまだ王城の宝物庫についてご視察していただいておらず。なにしろその、度々地上にお泊りなされますゆえ、なかなかその旨申し上げる機会がございませんで」

 続いてプロジェクターを鼻先で押す。

「五体粉砕機とは、まあこのようなものでございまして」

 3D映像が切り替わった。

 出てきたのはどの観点からも、馬鹿でかいジューサーにしか見えない代物である。

「処刑の記録映像がございますので、お見せいたしましょう。このように使います」

 黒頭巾を被った死刑執行人らしきものが出てきて、ジューサーの中に、ハムスター型をした悪鬼を多数放り込んだ。

 蓋を閉めスイッチを入れるや否や、悪鬼たち、一瞬でスムージー。モザイク必須の放送事故。

 今網膜に映ったものの記憶を全削除してえ。

 切実に願いつつ僕は、声を張り上げる。

「あかーん! ダメ、これはダメ! こんなもん却下ァー!!」

 ベルカが先ほど同様、見当はずれな返答をしてくる。困惑気味に。

「そ、そう申されましても、煮込み鍋の破壊は完膚なきものでございまして、修復するとしてもパレードには間に合わないのでございまして……」

 そこでオンビキが咳払いした。

 気を利かせたつもりなのか、ベルカに輪をかけたぶっとび発言をしてくる。

「ベルカ殿、煮込み鍋については確かに言われる通りじゃが、蒸し鍋と寸胴鍋は健在じゃろ。フライヤーもある。あれを転用することも出来るのではないか?」

 なんでいちいち処刑具がキッチン用具みたいなんだ、悪鬼ランド。

 そんな疑問はさておき、ベルカはますます困惑したらしい。でこっぱちの下にある顔が、梅干みたいになってきた。

「それはそうですが、あれらはもう何代も前の悪鬼王が使用していたもので、宝物庫の奥の奥にしまわれているのですよ。探して持ち出すだけでも一苦労です。五体粉砕機でよいではありませんか。速やかに処理出来ますし、見た目も派手ですし、何より映えます」

 映えるってこういうシーンで使う単語じゃない。

 大汗をかく僕の前でオンビキは、おお、と嘆かわしげな詠嘆を挟んでから、僕のお気持ちをねつ造し始める。

「分からぬかベルカ殿、ボン様はのう、反徒どもを始末するのに五体粉砕機では手ぬるいとお考えなのじゃ。それ相応の時間をかけて刑の執行をしたいとお考えなのじゃ。そうでなければ、悪鬼王に盾着いたという大罪に釣り合わぬではないか?」

 僕は大急ぎで、オンビキの言葉を打ち消す。

「違う違うそうじゃないから! 処刑とか言い出すこと自体がおかしくないかって言ってるんだよ、僕は!」

 円卓の席が凍り付いた。

 悪鬼たちは総じて唖然としている。何を言われたのだ、といった具合。

 オンビキが恐る恐る僕の顔を覗き込んでくる。正気を疑うように。

「いきなりどうしたのじゃボン様。反逆には処刑。これすなわち、王として、法を司るものとしての義務であるぞ。それなくして民の安寧は維持できぬ。まさかそのことが分からぬわけではあるまい?」

 僕は、はっと我に返った。

 そうだ、この世界は僕が以前いた世界とは常識が違うのだ。人権尊重とか生命尊重とかいう考えが存在しないのだ。脳内戦時下なんだから。人間も悪鬼も、疑わしきは罰して骨も残さないのが普通のやり方なのだ。

 ましてここにいる閣僚全員、かつて二王に反逆したかどで、消されそうになったのである。今地下牢に入っている連中の手によって。

 であれば、そいつらをここで確実に消しておかねばという気持ちにもなるだろう。

 ……事実そうした方が、この先すらすら事が運んでくれる気はする。

 だけどそれじゃあこの悪鬼ランド、いやこの世界全体を覆う殺伐とした社会システムを追認することになってしまう。

 それじゃあいかんと思うのだ。程よく生ぬるくことなかれな世の中にしたいと願う僕として。



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