中継です――カレンちゃんたち、イバングに無事到着したもよう




 要塞都市イバング。足場で覆われた修復現場のすぐ外側。

 山ほど荷を積んだ大型トラックが、舗装道を走ってきた。

 あのトラックは僕が『建設ビルド』で作ったトラック――出現させたはいいが動力部分が空っぽだったので(多分僕がエンジンの仕組みとかイメージ出来ていないせい)、適当な魔法をかけ動くようにしたもの。どういう魔法かは余裕があれば後述する。

 壁外の警備をしていた防衛軍の一団が緊張を漲らせ、トラックに銃口を向けた。

「止まれ! 何者だ!」

 トラックが止まり、扉が開いた。

 出てきたのは――ハルキだ。今しも跳び出しかけたサクラちゃんを押しとどめる形で、降りてくる。武器を持ってないことを示すためまず両手を上げ、警備兵たちに告げる。

「俺は対悪鬼抜刀部隊五番隊隊員、ハルキ・ヨシノだ。こちらは妹のサクラ・ヨシノ――」

 彼が喋っている途中で、カレンちゃんが降りてきた。鼻を持ち上げ胸をそらし、そっぽを向きながら。場にいる人間すべてに興味なし、といったポーズをとっている。

 ハルキは不承不承といった具合に、彼女についても言及する。

「――で、あれが対悪鬼抜刀部隊一番隊隊員カレン・ブラッドベリ。とにかく怪しいものじゃない。そこを通してくれ」

 以上の口上を受け、指揮官らしき人物が顔を歪めた。どうやら悪鬼駆逐主義の人間だったらしい。嫌悪感いっぱいの口ぶりで、こんなことを言い出したからには。

「サクラ・ヨシノにカレン・ブラッドベリ……よくもまあイバングに戻って来れたもんだ。悪鬼王の囲い者に成り下がった身で人前に姿をさらすなど、恥を知らんのか! とっとと帰れ、ここは通さん!」

 ぐぬぬ。カレンちゃんに対しなんて許容しがたい発言。

 おいハルキ、なんか言い返せ――ふおっ! コンマ一秒の居合切りで指揮官のヘルメットと多層マシンガンを唐竹割りしてしまったよ! 死んだ目で詰め寄ったよ!

「……おいお前、今の発言取り消せ。サクラに対する侮辱は許さないぞ」

 ……いや、あのさ、カレンちゃんに対する侮辱だって許されないだろ……?

 つか、ちょっとやり過ぎでは。たちまち兵に囲まれちゃったぞ。

 サクラちゃんが暴走しないための安全弁として派遣したのに、君が先に暴走したら駄目だろハルキ!

「おー! サクラ! ハルキー!」

 ――おっ、この声はアニキ。

「戻ってきたのかお前ら!」

「なんだよ、それなら先に連絡しろよ!」

 そして五番隊の方々。なんていいタイミングで現れてくれるんだ。

 皆さん工事現場の足場を伝って、こちらへ駆け下りてくる。よかった、ひとまずこれで乱闘騒ぎとならずに済みそうだ。

「たいちょー!」

 サクラちゃんが嬉し気に飛び跳ね、アニキたちのもとへ走っていく。

 並みいる警備兵は誰も彼女を止めなかった。いや止められなかった。アニキたち五番隊が彼らを押しのけまくって、その動きを阻害していたから。

「いやあ、久しぶり――っつても、まだ二日しかたってなかったっけか? お前ら変わりはねえか?」

「うん、ないよ、たいちょー!」

 飛びついてきたサクラちゃんを抱きしめ屈託なく笑うアニキ。

 ハルキもまたアニキに駆け寄っていく。笑顔で。

「はい、変わりありません。でも、俺たちが向こうに行ってからもう三日目ですよ、隊長!」

 イーサンが脇から出てきて、相槌を打つ。

「そうそう三日。気づけば大晦日なんですぜ、たいちょ――で、ハルキ、どうしたわけ? お前ら、もしかして揃いも揃って悪鬼王から、早々暇を出されちまったんか?」

 『お前ら』にカレンちゃんが含まれているのは間違いない。イーサンの視線は明確に、彼女にも向いているのだから。

 ハルキは憂いを帯びた顔で首を振る。

「いえ、そうじゃないんです。実は、その悪鬼王から使いを頼まれたんです」

 と言いながら、懐をごそごそ。一通の封筒――グニパヘリル重工業の社章がついたもの――を出してくる。

「このグニパヘリル社長の書状を、今の経営陣に届けてくれないかって。それに加えて、俺たちにカレンを同行させてやってくれとも言われまして……」

「は?」

 イーサンが目をぱちくりさせ、頭を掻いた。

「んー……そりゃ……一体どういう次第なんだ、ハルキ。もちっと詳しく説明してくれないか?」

「あ、はい。えーと」

 ハルキは口ごもり目を泳がせる。どのように説明を続けたらいいか、思案しているのだろう。

 そこに、カイとその部下たちがやってきた。どうも騒ぎを聞きつけたらしい。

 カイは当然のようにアニキの傍に陣取り、ハルキに問う。トラックの荷を指さしながら。

「おい、お前。あの大荷物はなんだ?」

 急な部外者の乱入に戸惑った様子のハルキだったが、質問にはきちんと答えた。

「あ、えーと、あれは砂糖です。全部。悪鬼王がカレンに持たせたもので……なんでも、手土産にって」

 そこに二番隊の、ロドニー、パフさん、ビンセントが来た。

 関係者続々大集合って感じだ。

(うーん……僕としては五番隊が来てくれるだけでよかったんだけどなあ)

 今のカイとハルキのやり取りを聞いていたらしい。ビンセントが舌打ちをした。続けてカレンちゃんに、嫌味たらたらな賛辞を述べた。

「へえーっ! 大したものですなお嬢さん。これが全部砂糖? いやあ、破格の扱いで。一体どうやって、悪鬼王のハートをがっちりお掴みなされましたかな?」

 カレンちゃんはそれに反応を示さなかった。内心は僕以上にムカついているはずなのに。

 偉い。すごく偉いぞカレンちゃん。褒めてあげたい。

 アニキが腰に手を当て、呆れたように首を振る。

「へえ。大した大盤振る舞いするもんだ。まあそれはそれとしてカレン、お前も大事ないか? 慣れないところに行くと、しんどいだろ」

 悪意も底意もない響きが、頑ななカレンちゃんの心をほんの欠片だけ溶かしたようだ。驚いたようにアニキを見て、再度顔をそむける。

 そこに、冷たいひと声が。

「戻ってきたのか、カレン・ブラッドベリ」

 一番隊隊長ニコラスが、部下を率いて現れた。氷のような威圧感を周囲にまき散らしながら。

 カレンちゃんの唇がわなないた――。



 どら声が呼びかけてきた。

「ボン様! そろそろ会議室に行かねばならんぞ!」

 ああもう、いいところなのに。

 思いながら僕は、それに答える。

「分かってるよ、今行くから!」

 僕が今いるのは悪鬼ランド・シンデレラ城の塔。以前ここに秘密潜入した際、出現しちゃった場所。

 ちなみに例の防護服姿だ。悪鬼ランドに来るときは、なるべくそうするようにしている。こっちの姿のほうが安全だし、悪鬼たちも馴染みやすいみたいだから――何しろこの格好で即位式したわけだし。

 待て。お前今の今までイバングの実況中継してたんじゃなかったのかって?

 ああしていたよ。でも実は僕、現場にはいないんだよね。この没アイテム『みえみえ望遠鏡』で覗き見しているだけなんだよね。

 これを使えば、遠くにある事物をリアルタイムで自由に見られるんだ。音声付きで。高度な遠隔監視カメラ+盗聴器ってとこかな。

 ……まあ本当は直にイバングへ行って、こっそり様子を確かめたかったんだけど、どうしてもそれが出来なくなったんだ。オンビキから、なんでもかんでも悪鬼城へ出てくるように言われちゃってさ。

 即位パレード、年が明けると同時に開催されるらしいよどうやら。王様はその開催宣言をしなきゃいけないんだって。


 






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る