第5話

「ライハイツ君を救うという選択をしなくて、よかったのかい?」


「うん、それでいいの。


俺が前へ進むためには、お別れが必要なこともあるから」


「そうかい。


お主は、本当に天然だな。


予想を上回る答えばかり出す」


「俺、天然とかじゃないって。


いつも、真面目に頑張っているし、天然がやるようなことをしていない」


「そうか・・・・。


自覚がなかったのか。


まあよい。


途中で気が変わったとか、言わんようにな」


「言わないよ。


俺が今までそんなこと言ったことある?」


「言ってはないけど、急な方向転換とかあるぞ」


「方向転換?


俺はスクイアットロとは短い付き合いだから、できようがないよ。


急にどうしてそんなことを言うのさ?」


「これだから、無自覚天然はほんとこわいな」


 俺は中国で過ごした。

 家の中でしか過ごせない。


 死に寄せの魔力があるから、ホテルに行けばホテル内で事件が起こるし、外食先に行けば毒殺事件も普通に起きた。


 こんな生活を送っていけば、次第に俺は他人の死に対する恐怖すらも感じなくなってきた。

 俺は、近場では「歩く死神」として有名にもなる。

 仕方がない。

 俺のいる場所で、必ず事件が起こるから。


 中国語は読めないし、書けないから、スクイアットロに翻訳してもらってばかりいた。

 スクイアットロは、中国語をどこで覚えたのだろうか?


 中国にはいるけど、中国語は一切わからないし、話せない。

 それをスクイアットロが「無謀」って言うんだけど、それはどういうことなのか俺にはよくわからない。


 家の前に、フードで顔を隠している人が現れた。


「そなたが、歩く死神なのですね?」


「歩く死神?


それは否定も肯定もできません。


俺は何もやってませんから」


「質問の答えになっとらん」


「そなたには、ライハイツと名乗る権利があります」


「え?


俺、名前を持っていいの?」


「許します。


そなたに、名前を持つ権利を与えます。


ただし、その名前は選べません。


ライハイツがいない今、そなたが英雄として、ライハイツの名を語るのです」


「よくわからないけど、俺は名前を持ってしまうと、その名前が呪いをかけるための呪文になるって聞いたので」


「普通なら、そうです。


ですが、そなたはこれから、英雄となろうとしていることをスクイアットロから報告を受けました。


ですので、そなたは今日から、ライハイツです」


「俺が、ライハイツ・・・?」


「そうです。


受け入れられないかもしれませんが、納得してください。


英雄は、自分の使命を選べません。


それと同じです」


 こうして、俺は「ライハイツ」という名前をもらうことになった。


「自身の名前は、大切にしてくださいね。


そして、ライハイツは能力をすべて解放しきれていないという報告もありました。


1パーセントという、無駄な電気属性を研究員の誤認により、覚醒させてしまったみたいですが、潜在的な2パーセントだけなら、わたくしの魔法で目覚めさせてあげることができます。


どうしますか?」


「します!


ですが、その能力はどんなものですか?」


「雷属性です。


ですが、それは電気ほどではないですが、非常に効率が悪いです。


そなたには3つの属性があって、そのうちの1パーセントが電気、2パーセントが雷、残りの97パーセントがすごく協力な能力ですが、あまりにも強すぎて、わたくしには解放ができません」


「俺は、これから戦わなくちゃいけないんです。


ですが、今のままだと戦うこともできません。


ですので、解放させてください」


「よかろう」


 俺は、フードをかぶった人からの雷を浴びて、体から力がみなぎることを感じた。


「すごい・・・・。


これが新しい力・・・・」


「そうです。


その魔法で、これから戦ってください。


世界の悪と」


「はい。


戦います。


戦わせてください」



 俺、ライハイツはこうして雷属性の魔法を解放させることができた。



 ここから、俺はいじめ殺しの首謀者を見つけるための冒険が始まった。


 下級のいじめ殺しだったら、俺の力で倒せそうだった。

 

 何もこわくない。

 あとは、もうひとつの強大と言われる力を目覚めさせるだけだった。


 

 俺は、いじめ殺しと出会う。

 怪物の姿をしていた。


「ほほう・・・。


下級しか倒せない、自称英雄のライハイツか」


「失礼な。


これでもくらえ」


 怪物に雷を浴びせてもだめだった。 

 諦めるしかないかもしれないけど、諦めたくないのが俺。


「いじめ殺しを倒すことが正義だと思うか?」


「それって、どういうこと?」


 スクイアットロは今、俺の近くにはいないので、わからないことを質問できない。

 なぜかいつも姿を消すけれど、一体どこに行っているのだろう?

 

「いじめを人間が行っている。


この世界にいじめがある限り、いじめ殺しは何度でも再生をする。


それがわからないか?」


「わかる・・・ような、わからないような」


「自身のやっていることが、無駄だと気付かないのか。


なら、世界を滅ぼす以外に、いじめ殺しを滅亡させる方法はない」


「世界を滅亡・・・?」


 言われてみると、そんな気がした。

 世界を守り切れないし、いじめ殺しがいなくなっても、いじめなんてなくならない。


 ここで、俺は呟く。


「そうだよね。


いじめがある、この世界なんてなくなってしまえばいいかも」


 こうして、俺は世界を、地球を魔法で氷漬けにした。


 寒い、寒い。

 冷たい、冷たい。


 俺は、今、氷の中にいる。

 どうして、この中にいるのかわからない。

 事の経緯を憶えていないから。


 動けないし、話すこともできない。

 俺は、自分が誰なのか知らない。


 目の前で空飛ぶリスが現れたかと思うと、氷がとけた。


「あれ?


君は、誰?」


「おいらは、スクイアットロ。


上司からの命令で、いやいや助けることになった」


「俺のこと、知ってるの?」


「ライハイツ。


それがお主の名前だ」


「俺は、そんな名前いや」


「英雄の名だ。


ありがたく思うんだな」


「それでも、いやなものはいや。


俺、この名前が嫌いだった気がするんだ。


よくわからないけど」


「ふうん。


感覚は残っておるのか。


たった今、氷の卵から生まれたばかりで」

 

「氷の卵?」


「そうだ。


お主は転生を果たし、氷の卵から生まれた赤ちゃんだ」


 俺は生まれてすぐに話せる、歩ける幼い赤ちゃんとして生まれた。

 年齢は0歳で、名前はまだない。


 髪の色は薄茶色だ。


 しばらくしてから、服を着た。

 水色と白のボーダーの服の上に、黄色のジャケット。

 ズボンもはいた。


「あのさ、俺は君と前に出会ったことある?」


 スクイアットロに問いかけた。


「そこまで、教えられん」


「どうして、俺には過去の記憶がないの?」


「パラレルループして、転生も果たしたからだろ?」


「パラレルループ?」


「何回も、同じ説明をさせるな。


自分で答えを導き出すことはしないのか?」


「そんなこと、俺はできない。


君の言う、俺ってなんなの?」


「さあな。


どうせ教えても、また忘れる」


「忘れるって、俺はそんなに忘れん坊?」


「そうゆうわけではないんだが、お主の魔力は計り知れない。


世界を、地球を、全平行世界を、氷にしてしまったからな」


 俺には、何のことだかさっぱりわからなかった。

 何の話をされているのだろうか?


 パラレルループだの、氷漬けになっている理由など、過去の記憶がない以上、何もわかりやしない。


「氷じゃない世界ってあるの?」


「異世界転移したり、宇宙に飛びだったりしない限りないな。


この地球そのものが氷の世界だからな。


まるで、雪男だ。


宇宙人も来て、驚いていたぞ」


「宇宙人なんて、いるの?」


「話せば質問ばかりだな。


とにかく、お主が要注意人物だということは、会議でも証明されておる。


これから、お主を牢にぶちこむ。


それなりの罰を受けてもらうぞ」


「罰なんて、俺、何のことだかわからないよ。


それに俺は過去の記憶がないのだから、自分が何の罪を犯したとかわかんないよ」

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