ソフィー

永富福八

プロローグ(騎士バッジョの回想)西暦525年

 冷たい風の吹き荒れる丘陵をめざして、続々と集結する民衆の姿があった。民衆の塊はいつしか大群衆となり、緩い勾配を下り領主の城へ流れ込もうとしていた。


 アーテリー王子よ、あの日、貴方の頬はうっすらと頬紅を塗った少女のように、美しいお顔をしておりました。鎖帷子を纏い銀色の甲冑に身を包まれ、静かに騎乗するその姿に私の心は躍ります。そして塵一つの疑いもなく、我等に訪れるであろう栄光と貴方の頭上にそそがれるべき栄誉を信じていたのです。


 しかし真上あった陽がわずか西に傾くだけの時間の経過で、我等に与えられるべき栄光は落ち、地を覆わんばかりに集まった民衆の姿も今はない。


 今、ここに一人たたずむ事になろうとは、まさか王子の残したマントを胸に抱き一人佇む事になろうとは… 


 王子よ、あの世で私を叱責してください。そして我が友ジェリドよオーツよ許しておくれ、私も直ぐにそこに行く。お願いだ。それまで王子を、そこで全てのものからお守りしていてくれ。


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