拝啓、嘘つきな神様へ。

春戯時:-)

第1話 君のヒーローになりたい。 Ⅰ

「じゃあ俺は君のヒーローになる。」


 そう強気つよきに言ってみると彼女は照れくさそうに、はにかんだ。











 これは二人の少年少女の長いようで短い、思い出のお話。苦しいけど大切な、思い出の一部始終だ。





















 これは俺が高校二年生の夏休みのこと。坂上さかがみ春都はるとは吹奏楽部に所属していた。春都は夏休みにある大会のメンバーになるために、ひたすら課題曲の練習をしていた。当然、ずっと練習をするのも疲れがたまる。

 そんな疲れきった春都のいやしは、同じ共通の趣味で出会った八神やがみ綾花あやかという同い年の女の子だった。春都と綾花は漫画や小説、アニメなど色々な分野、好きなものでも気が合った。九州の方に住んでいる綾花は、春都と遊ぶためにわざわざ東京にやってくるほどに、二人は仲が良かった。

 今日はそんな綾花とゲームのフェスに行く日だった。春都は白いティーシャツにジーパンというラフな格好かっこうをし、いつも待ち合わせで使う駅の前で待つ。まだかな……。予定時間よりも二十分も早く着いてしまった春都は、綾花が来るのが待ち遠しかった。


「よーし、一番乗り……って、春都もう着いてたの?!」


 明るい声がした方に視線を向ける。ふわりと舞う短い黒い髪の毛。そこには白いワンピースに身を包んだ綾花がいた。


「……それ綾花の推しの着てるワンピースに似てるな。」

「あ、でしょー。ネットで探すの大変だったけど、これも推しのため……てことで奮発しちゃいました~。」


「似合ってる。」と言いたかったが、喉に言葉がつっかえる。てへっ☆、と効果音がつかんと言わんばかりの綾花の表情に、自然と微笑ほほえんでいることに春都は気付かなかった。


「てか、それ以外に何か言うことあるんじゃないんですかぁー。」


 ねた顔で春都が素直に言えなかったことを率直そっちょくに聞いてくる綾花に、春都は少しドキッ、とした。その跳ねた心臓を誤魔化すために、棒読みで綾花が期待する言葉を言ってみる。


「はいはい、似合ってるよー。」

「えー、嘘っぽい。」

「……、…ぁってる。」

「えー、何なにぃ。」


 綾花が春都の目の前に来る。春都は思わず手で顔をおおう。

 指の間から見える綾花は、ニヤニヤして、どこか楽しそうだった。


「~~っ、似合ってるって言ってんの!!」

「はーい、よくできました。」


 俺の母さんかよ!いや落ち着け、落ち着くんだ俺。五、四、三、ニ、一……。

 五秒間だけ深呼吸をして、ツッコミたい気持ちを抑えて自分を落ち着かせる。


「早いにしたことはないし、行こっか。」


 余裕そうに、どんどん前に進んでいく綾花。その綾花に何かやり返したいと思った……、が。今はゲームのフェスを優先ということで、その気持ちを抑え付けた。


「ほーら、何してるのっ。」


 春都は綾花に手を引かれて改札を通り抜け、電車に乗る。

 春都はそこで、ふと本で読んだことを思い出した。


「変なこと聞くけど綾花って、死ぬことって怖い?」

「え、春都さん急にどうしたの?変なものでも食べたのかしら?」

「なんだ、その急な金持ちそうな母さん口調。違うよ、この前読んだ本が"死とはなにか"っていうテーマでさ。」

「あー、そゆこと。別に怖くはないかな。」


そう答えた綾花は何処かへいってしまいそうなほど、はかなかった。


「まぁ、まだ電車降りるのには時間あるし、椅子座ろ。」


 綾花にうながされるまま、二人は空いている椅子に座る。二人がいる電車の車両には人は春都たち以外いないみたいで、とても静かだった。


「さっきの回答だけど、うん。やっぱり死が怖いわけではないかな。それよりも大切な人を失うことの方が怖い。」


 綾花は真っ直ぐ春都を見つめる。だが、綾花のその視線に耐えられず春都はつい視線をそらす。


「それに、生物は皆等しくいつか死ぬ。それが少し早かっただけかー、って思う。」

「……漫画の推しの活躍が見れなくなるけど、いいの?」

「いや、それは駄目だわ。てか推しのためなら死んだとしても生き返るわ。てか、私はそう簡単に死にはしないよ。」


綾花は今にも消えてしまいそうだった。「心配性だな~。」という綾花の声に少し春都は安心する。


「じゃあ俺は君のヒーローになる。ヒーローになって綾花を蘇生する!」

「……。」


 綾花がこちらを驚いた顔で見る。しばらくの沈黙の後、綾花がこう言った。


「なら私は君の神様になる。」


綾花は真面目な顔でそう言ったが、すぐにいつもの顔に戻る。


「それで春都を色んな困難から救ってやる。どうだ?凄いだろう。」

「あー……。ハイハイ、スゴイネー。」

「結構、真面目に答えたんだが?!」


綾花は少し涙目になった。そんな綾花を春都は愛おしく思った。


「あー、てか。私が春都の神様になったら一緒に歌手デビューできるんじゃない?!神様と歌ってみた、とか!」

阿保あほか。」


 春都と綾花の夢は歌手だ。春都が演奏して、綾花が歌う。そしていつか二人でライブをする、それが二人の夢だった。


「次はー。」


 電車のアナウンスが静かな車内に響く。椅子を立って扉の前に立つ。


「じゃあ、いざ!!我らの戦場へ!」

「切り替え早。……あんま、はしゃぎすぎるなよ。」

「はい!隊長!!」

「うむ、よろしい。」


二人は顔を見合わせて笑い合った。そんな二人を見つめる、一つの影……。

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