#02 - 降誕
CDショップで
確かに
数年前に流行った
「ねぇ、
ポスターを見ていたアタシにエプロン姿の女性が話しかけてきた。
「あ、いえ、あ、そうかもです……」
と、答えにならない返事をすると女性は「店に入りなよ」と言って喫茶店の中へと案内してくれた。エプロンの
「その制服、私も同じ高校出身だよ。安心して」
と、彼女はアタシに笑いかけた。
6席ほどのカウンターに年季の入ったビロードのソファがあるテーブル席が5つ、薄暗いけど居心地がよくノスタルジックな喫茶店。夜はスナックとして営業しているらしい。彼女の両親がこの店を切り盛りしていて、彼女も手伝っているという。
隅のテーブル席を1人の常連客らしいたたずまいの男性が新聞を広げて占領し、別のテーブル席にはサラリーマンと思わしきスーツ姿の男性2人組がタバコを吸って休憩していた。
アタシはカウンター席に通されて、カウンターの中の彼女と向かい合った。
「何飲む?1回目はご馳走するよ」と言われ、アイスティをお願いすると彼女は手際よくグラスに注ぎコースターと共にアタシの前に置くと、続けざまに
「あ、これ」
と、言って彼女は名刺をアイスティの横に差し出した。
そこには“
「私、
「え、そうなんですね。だからポスターが」
「そう、私彼らと同級生で、昔からツルんでたんだよね」
アタシより7歳年上の彼女と
高校を卒業した頃にはもう地元では人気があって、ファンも多かったことからファンクラブをシステム化し管理する人員が必要になり、
アイスティーを飲みながらひとしきり彼女の話を聞いていると
「そういえば、名前聞いてなかったね」
と、彼女は笑いながらアタシの名前を聞いた。
「鈴木です」と、返すと「バンギャならもっとかわいい名前つけなくちゃ」と、笑った。バンドを追いかける女の子のファン──バンギャルではまだないアタシは“
今度はアタシの番になった。どうしてこの店の前を通りかかりポスターに見入っていたのかを話した。
「ライブは全然違うから、今度連れてってあげる」
と、半ば強引に
「ぜひ……」
と、つぶやいてライブに連れて行ってもらう約束をした。連絡先を交換しアイスティーを飲み干して
「それまでにかわいい名前考えておいて!」
家に帰ったアタシは買ったCDをインポートして
バンドの追っかけをしているバンギャルの子達は好きなメンバーから1字もらったり、バンドにちなんだものを使ったり、普段の自分とは違う自分を演出するためだったりと理由や由来は様々だが、そのコミュニティで使う名前を自分に付けている場合が多いらしい。
もちろん本名のままの人もいるが、
アタシが自分を嫌いな理由のひとつが鈴木と言う苗字だ。どこにでもいる代わり映えのない名前。同じ学年やクラスに他の鈴木がたいていいて、だいたい慣れ慣れしく下の名前で呼ばれるハメになる。鈴木と言う苗字が嫌いだった。
そして母が名付けたという下の名前もアタシはキライだった。その名を呼ばれると母からの血が活性化し欲望に取りつかれるような
しばらく考えた後、アタシは自分に
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