第16話

「マジかよ!お前もSランク!!?」

「おう。今さっきなった。ほら」

「ホントだ!すげーじゃん!!」

「おめでとうございます!」

「おー、ありがとなー」

ケニス達と合流してよく行く飯屋に入った俺達はスミスが今日Sランクにランクアップしたことを報告した。

三人は驚きながらもスミスがカードを見せると笑顔で祝ってくれる。

彼が妹の無念を晴らすためにこの2年半絶えず努力をし続けていたと知っているからこそ、自分のことのように喜んでくれたのだ。

「じゃあ、いよいよドライガと…?」

だが同時にそれは因縁の決着をつけるということにもなり、エレリックは喜んでいいのだろうかと複雑な顔を見せる。

そして彼の言葉でそれに気がついたケニスとバートンもはっと目を見開くが、

「そうだな。あと三ヶ月であの日から10年だ。ギリギリまで修行することにはなるだろうが、奴との再会も近いんだな…」

言われたスミスも「そういえばそうだった」程度の顔だったので、俺達は揃って苦笑した。

2年前のように追い詰められている感じがないのはいいことだが、力が抜けすぎている感も否めない。

「ま、いずれにせよ戦うことは決まってんだし、今日くらいはぱーっと騒いでもいいだろ」

「そうだな。まずは飲み物頼んで乾杯しようぜ!!」

「なら一緒に定番の食事物も頼んでしまいましょうか」

よし、と三人は空気を変えるようにそう言ってメニューを開く。

その早すぎる切り替えが俺は不得意だから、チームを組んだのがこの三人で本当によかったと思う。

「あ、俺から揚げ頼むわ」

「ふ、レィヴァン君、から揚げ好きですよね」

「悪いかよ」

「いえいえ。子供らしい一面が見られて安心します」

「あ、わかるわー。俺は砂肝と軟骨もほしい」

「…逆に君はもう少し若者らしいものを頼んでは…?」

「好きなんだから別にいいだろ」

食事のメニューを持つエレリックに俺とスミスが希望を伝えれば、正反対のメニューにそんな反応をされた。

前世で小さい子供が多い施設で育ったからか俺は今でも割と子供舌で、スミスは逆に貴族の家でこってりしたものを食べて育ったせいかあっさりした軽めのものを好む傾向にある。

「なーなー、お前らはジュースと果実ソーダとフレーバーティー、どれがいい?」

「俺ソーダ」

「俺も」

「僕はお茶で」

「はいよー」

しかし飲み物のメニューを持ったケニスには同じものを頼むあたり、食事の好みが真逆なのか似ているのかわからない。

それでも気は合うのだからいいだろう。

この世界の成人である18歳になったのに酒が飲めないところも一緒だし。

ちなみに俺とスミスとエレリックとバートンは成人済みでケニスだけが未成人だが、酒を飲めるのはバートンとケニス(何故わかるのか聞いてはいけない)だけのため、成人済みで酒が飲めるバートンはいつも周りに合わせて果実ソーダを飲んでいる。

こいつはたまにこういうことをさらっとやるので、実は密かにモテているらしい。

尤も、スミスやエレリックには及ばないが。

なお、俺やケニスのことは聞かないでいてくれるのが優しさです。

「そういや三人は今何ランクなんだ?」

俺は悲しみを水で飲み込みながら三人を順に眺める。

この飯屋は水がセルフサービスで置いてあるので、注文品が届くまではそれを飲めるのだ。

「俺達はCになったぜ!」

「マジか!おめでとう!」

「やったな!」

「へへへっ」

「ありがとうございます」

俺がそう尋ねると待ってましたとばかりにケニスが言い、バートンとエレリックは俺とスミスの言葉に照れくさそうに笑っている。

この調子なら彼らは引退時にAランクになれているかもしれない。

本来Sランクは各ギルドの長レベルの人か、先生のように何かしらの武功を挙げた人がその経験値でなれるランクで、一般の冒険者はもちろん、金級ですら絶対になれるというものではない。

つまり実質Aランクが一般的な意味での最上級であるため、そこまで行ければ引退後もその経験を活かして暮らせるだろう。

そもそも冒険者はCランクで大成功レベルであり、すでにそこまでランクが上がっている彼らはもう勝ち組であると言える。

実にめでたい話だ。

「ほら、ちゃんとCって書いてるだろ!?」

だからこそケニスは浮かれ切っており、俺の顔面に自分のギルドカードを押し付けてくる。

「ちょ、近すぎて見えない!!」

「あはははは、すまん!」

満面の笑みを浮かべて謝るケニスから「ったく」と言いながらカードを受け取れば、その真ん中には確かに『C』の文字があった。

ああ、本当に頑張ったんだなと俺も笑ったところで目に入った文字に「ん?」と首を捻る。

「なあ、ケイニアス・ウィズビナーズって、誰?」

カードの、本来なら『ケニス・ウィナーズ/銀級の剣士』と書かれているはずの場所にあった『ケイニアス・ウィズビナーズ/銀級の剣士』という文字に疑問を持ったのだ。

何故ケニスがケイニアスという人物のカードを自分のものとして俺に見せてくるのかと。

「ああ、そっか、レィヴァンは知らないのか」

バートンは俺の疑問にポンと手を打つと、

「ケニスは元々アンフィージオ国の貴族だったから、今はこの国に合わせて名前を変えてんだよ。ケイニアスが本名」

「へっ!?」

なんでもないことのようにそう言って教えてくれたが、俺は驚きすぎて声が裏返ってしまった。

アンフィージオ国というのはドライガのいる山が国境となっているくらいに近い隣国の名前である。

理由は知らないがケニスの家はそこからこっちへ移って来て、その時に名前をこの国に合わせて変えたということなのだろう。

なんだその変なシステム。

俺は再び首を捻った。

「ほら、この国の貴族ってけっこうあっさりした名前が多いだろ?バートンもエレリックもさらっとしてるし。でもアンフィージオの名前って、なんかこう、長ったらしいんだよ。だから大抵こっちに移ってくる貴族は通りのいい名前として普段はこっち風の名前を使うんだ。だから本名は隠し名とか言われてるんだけど」

「へー?」

よくわからないが、日本でも珍しい名前の人は仕事上で通りがいいようにビジネスネームを使うと聞いたことがあるし、それと似たようなものだろうと考えながら俺はケニスにカードを返した。

「ってことは、ケニスはケイニアスだけど、今まで通りケニスって呼んでいいんだよな?」

「むしろそうしてほしい」

「なら俺には影響ないから別にいいや」

俺がそう言うとケニスは一瞬面を喰らったような顔をして、すぐに破顔した。

そして何故か周りで聞いてた二人も。

「うん、お前はそのままでいてくれ」

そう言ったケニスがあんまりにも嬉しそうで、俺はやっぱりよくわからなかったけど自分の行動がケニスにとって喜ばしかったならよかったと笑みを返した。

「お待たせしましたー。果実ソーダ4つとフレーバーティー1つです」

「横から失礼します。ロック鳥の唐揚げと砂肝と軟骨とオムレツ、ケイブクラブとマンドラゴラの炒め物は真ん中に置きますね~」

その時タイミングよく店員さん達が注文していた飲み物と食事を運んできてくれ、俺達は待ってましたとばかりにいそいそとグラスを手に取る。

「んじゃあスミスの誕生日とSランク昇格と、ケニス達のCランク昇格も全部一緒に祝って、カンパーイ!」

「カンパーイ!って、なんで俺達も!?」

「一緒にしちゃっていいのかよ!?」

そう言った俺の乾杯の音頭にケニスとバートンはグラスを上げたまま固まったが、

「別にいいんじゃね?めでたいことが重なって悪いことないだろ」

と、当のスミスが気にしていないと言って飲み物を呷ったので、彼らもそれに合わせてグラスに口をつけた。

その日は五人で馬鹿騒ぎしながら日付が変わるくらいの時間まで語り合った。

それは何か予感があったわけではないが、なんとなくこうして騒げるのはこれが最後だと思ったからかもしれない。

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