第48話 ヴァナランド皇都へ
「うわっ、凄い!」
「これは凄いな……」
「バッキンガム宮殿もかくや、ね!」
ヴァナ湖から車で半日ほど。
小高い丘を越えた台地にその街はあった。
ある意味一番「異世界」を感じる光景かもしれない。
白い壁の石造りの建物の屋根は、ほぼ例外なくクリスタルで出来ており、ふたつの太陽の光を反射してキラキラと光っている。
空中にはホウキに跨った魔法使いたちが縦横に舞い、街道にはエルフ族、獣人族、ドワーフ族などファンタジーRPGでしか見たことのない様々な種族の人たちが行きかう。
ブロロロロ
その街並みを、市内でよく見るふ○うのバスが走っているのが可笑しい。
「ふふっ、日本からの技術供与で急速に発展していますからね。
ヴァナランドが誇る水晶の都、ですよ」
確かにこれは絶対見ておくべき光景だろう。
にっこりとドヤ顔を浮かべたリアン様の笑顔も、とても印象に残るのだった。
*** ***
「ここが皇都のメインストリート、ヴァルノラ通りです」
滞在先の高級ホテルにクルマを置いた俺たちは、リアン様の案内で皇都に繰り出すことにした。ふたつの太陽は天頂を少し過ぎており、うららかな日差しの中たくさんの人々が通りを歩いている。
「すっげ! ねえねえアリスっぴ、あれってホログラムかな?」
「魔法で空中に投影してるみたいね!」
通りの両側に立ち並ぶ街灯には、のぼりが取り付けられそよ風にたなびいている。
だがよく見れば、のぼりの内容はデジタルサイネージのように刻一刻と変化しており、ある意味未来的な光景だ。
”あっ、ママ! あそこにいるのYuyuちゃんだよ!”
”まあ凄い、本物ね!”
ホテルを出たばかりの俺たちを見つけ、エルフの親子が歓声を上げる。
”うわ、ホントだ!”
”Aliceもいるぞ!”
”ふたりともかわいい~”
”リアン様が案内してるのか~、凄い!”
「もふふっ?」
あっという間に人だかりができる。
「ふえ? みんなウチらを知ってんの?」
「ええ、事前に皆さんが来ることは陛下から布告されていましたから。
皇宮前の広場でゆゆさんアリスさんの配信の、ぱぶりっくびゅーいんぐも開催されたそうですよ」
「マジっすか!? いつの間にかウチらヴァナランドデビュー!?」
「ふふ、アリスたち人気者ね。
Nice to meet you!」
「うぇ~い! イケてるヴァナランドのフォロピ、よっろしくね~☆」
”わあああああああっ!!”
ポーズを取る二人に、大歓声が上がる。
「皆様がた、こちらに並んでいただけるようお願いする」
ミーニャさんの仕切りで、即席のサイン会が始まった。
「ゆゆおねえちゃん、はいしんがんばってね!」
とてとて
もふもふの耳と尻尾を持つ犬耳幼女がスズランのような花で作った花輪をゆゆの首にかけてくれる。
「うっは!? 可愛すぎなんだが!!
うし! おねーちゃんキミのために頑張るぜ☆
あとこれお土産♪」
大量に持ってきた温泉まんじゅうを幼女に手渡すゆゆ。
「わ~い!」
「ほんじゃ、映える一枚とろっ!」
ぱしゃっ!
犬耳幼女を抱き上げてポーズを取るゆゆをファインダーに収める。
尊い一枚は、大バズリ間違いなしだろう。
「もふ?」
ゆゆとアリスは子供たちに人気なのだが、なぜか冒険者らしき一団が俺の方にやってきた。
「みたことのないモンスターね?」
「ワーウルフにしてはずんぐりむっくりだな?」
「しかもマナの動きを内部から感じるな……これはいったい?」
にぎにぎ
彼らはだんきちの着ぐるみが気になるようだ。
リアン様と同じ反応である……こちらには着ぐるみという文化が無いのかもしれない。
「もふふっ(だんきちです)!
もふ、もふふふふっ(可愛いだけでなく、防御力にも優れ、身体能力を大幅に強化してくれます)」
「うおおおっ、頭の中に解説が!?」
「魔法技術も使われているというの!?」
「もふっ(それだけではないですよ?)」
ぴょーん!
俺はだんきちのアシスト機能を全開にし、空高く飛びあがる。
「な、なんと!?」
「もふもふ(クリーナー・ドライ)!」
3つ目のスキルを自分に対して使う。
しゅんっ
無駄な動きが限界までそぎ落とされただんきちは、オリンピックで10点満点間違いなしの軌道を描き大地に降り立つ。
しゅたっ!
「うおおおおおっ!? なんだ今の動き!?」
「まさに伝説の剣聖のような……!」
「バフ系のスキルか? 見たことないぞ!」
「ていうかこの子、超カワイイわね!!」
「この装備、売って欲しいぞおおおおお!!」
屈強な冒険者に囲まれ胴上げされる俺。
「……なんかだんきちだけ方向性が違くない?」
「ふふ、だんきちですもの。
人気になるのは当然だわ」
「みなさま、試作中のもふもふだんきちキーホルダーはいかが?
少しですが、MPの回復効果もあるのよ!」
「「うおおおおおおっ!?」」
……いつの間にか作っていたグッズを売り始めるアリス。
「アリスっぴ、抜け目ない子!?」
「ふふっ、日本国への旅行も解禁されますので、ぜひ皇宮主催のツアーに参加してくださいね~」
「「うおおおおおおっ!! リアン様までっ!?」」
チラシを配り始めるリアン様。
昼下がりのヴァルノラ通りは大騒ぎになるのだった。
*** ***
「なんか結局だんきちに持ってかれた感じ~」
「だんきちは可愛いから当然ね!」
「なんで得意げなんだよアリスっぴ。
ウチらはアイドル配信者だぜ? だんきちに負けて悔しくないのか~!」
「やれやれだ」
即席のサイン会と即売会が終わり、俺たちは皇宮に向かって歩いていた。
見物人をぞろぞろと引き連れながら。
「皆さんの皇都デビューとして上々でしたね!」
「……警備するわたくしの身にもなって頂けませんか?」
ウキウキのリアン様に疲れた表情のミーニャさん。
俺がミーニャさんにねぎらいの言葉をかけようとした時……。
『魔族と分かり合うことなど、本当に出来るのだろうか!?』
『現に、反対派のテロは完全になくなったわけではない!!』
「……お?」
ヴァルノラ通りは大きなお堀を渡り、キラキラと輝く皇宮に繋がっている。
その手前にある門の前、小さな広場で数十人の人々が集会を行っている。
『この状態でさらに、異世界の人間を我らがヴァナランドに招くのか!?』
ギイッ
その時、門がわずかに開き鎧を身に着けた数十人の兵士が現れた。
「もうすぐ客人が到着される。
撤収するように」
『くっ、我々の主張はまだ終わっていない!?』
兵士たちは集会を解散させようとするが、人々は抵抗する。
「……手荒に扱ってはいけませんよ?」
「「リアン様!?」」
揉み合う兵士と群衆を見かねたのか、指揮官らしき兵士に声を掛けるリアン様。
『くっ……”魔王”がっ』
リアン様の顔を認めた群衆たちは、苦々しい表情を浮かべると撤収していった。
「貴様たち! 失礼であろう!!」
「リアン様、申し訳ありません」
「良いのです。 ですが、理解を示していただけない事に憤ってはなりません」
「…………」
反対派の魔族は平定されたと聞いていたが、人間族の中にも反対派がいるのかもしれない。それに俺たちは魔族どころか異世界人である。
「……お気になさらず。
さあ、皇宮に参りましょう!!」
一転して笑顔を浮かべ、皇宮を指さすリアン様。
だが案内された皇宮の中で、ヴァナランドの現実をより強く実感させる出来事が起きるのだった。
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