第46話 未知なる世界へ

「よし、行くぞ」


 ブロロロッ


 入念な車体チェックとボディの清掃を受けた後、俺はクルマを車両用のエレベーターに進める。

 エレベーターが目指すのは第24層、日本とヴァナランドを繋ぐゲートダンジョンの中で最大のゲートが設置されているフロアである。


 ゴウンゴウン


 エレベーターから車を出し、ゲートダンジョンの前で待機する。

 俺たちの荷物は、マサトさんが後続のワンボックスカーで運んでくれる予定だ。


「うわぁ、ドキドキするねタクミおにいちゃん!」


「ああ!」


 もちろん俺もヴァナランドへ行くのは初めてだ。

 胸の高鳴りを抑えきれない。


「大きいゲート! 乗用車だけじゃなくトラックも通れるのね!

 どうしてこんなに大きいの?」


「ふふ、ヴァナランドと日本国の貿易の80%はこのゲートを通して行われていますからね」


「へぇ~!」


 にこにこと笑いながら、アリスの疑問に答えてくれるリアン様。

 ……そう、なぜか俺の車の後部座席にリアン様が座っているのだ。


「はああぁぁ……」


 大きなため息をつくミーニャさんと共に。


 リアン様自ら観光大使に就任した俺たちを案内するというコンセプトの企画なので、共に行動するのは予定通りだ。


 だが、すぐ後にヴァナランド大使館の公用車(魔改造ク○ウン。防弾、防魔法加工済み)が付いてきているというのに、なぜ俺の車に乗っているのか。


「ふふ、ドライアドの幼木を隠すなら世界樹の中に、ですよ!」


 なんかヴァナランドのことわざっぽい言葉でごまかされてしまったが、絶対リアン様の思い付きである。

 そうでなければ護衛のミーニャさんの眉間に皺は寄っていない。


「ご心配なく。

 ふとどき者が出現したとしても、いざとなれば魔王の力で……!」


「周囲が灰燼に帰しかねませんので、ご自重ください」


「え~?」


「……いやホント、ガチですからね?」


 ぶあっ!


 一瞬、物凄いプレッシャーがミーニャさんから発せられた。


「はいっ!」


 さすがにリアン様もおふざけは辞めたようだ。


「はわわ……」


「アリス、耐防御姿勢!」


 思わず背筋が伸びるユウナとアリス。


「…………(汗)」


 妙な緊張感を孕みながら、俺たちはゲートが開くのを待つのだった。



 ***  ***


 ガラガラガラ……ガチャン!


 入り口の扉が開き、俺の車を含めた3台の車列はゲートダンジョンの通路を進む。

 10トントラックがすれ違える通路なので、幅はとても広い。


「お!」


「ひゃう?」


「あらっ?」


 通路の中ほどまで来た時、俺たち3人は同時に声を上げた。


 空気というか魔力というか……いつも暮らしている世界とは別の世界に来たという感覚があった。


「ヴァナランドの大気中にはマナが豊富に含まれていますからね。

 探索者をされているタクミさんたちならお判りでしょう」


 つまり、ヴァナランドの領域に入ったという事か。


 ゲートダンジョンの通路の先は、大きく左にカーブしており……。


 ゴウゴウゴウン


 車列が通り過ぎたことを確認すると、通路が回転していく。


 いつの間にか地面はアスファルトから石畳に変わり……一気に視界が開けた。


「うおっ!?」


「ふおおおっ!!」


「わあああっ!」


 俺たちの眼前に広がったのは、青と緑、そして薄紫の色に染まる美しい世界だった。


 うっそうとした森の中にぽっかりと浮かぶ青い湖。

 森に生える木々は日本のものよりはるかに巨大で、飛行型のモンスターが悠々と空を飛んでいるのが見える。


 だが何より目立つのは、はるか上空を流星のように流れる紫色の魔力のハレーション。


 異世界に来たんだ。

 今さらながらに俺は実感していた。


 ***  ***


「……行ったな」


「監視対象の魔力反応消失……ヴァナランド領域に入りました」


 青い肌を持つ無表情な女性が淡々とデルゴに報告する。


「くくっ」


 このエビル族の女は新たに派遣された秘書。

 レイニに比べ地味で能力も劣るが、その分仕事に私情を挟むことはなくある意味扱いやすい。


「さっそく本日1700より悪霊の鷹を始め、子飼いの配信者たちの特別配信を開始します」


「ああ、問題ない」


 今日から20日間ほど、Yuyuたちはダンジョン配信をすることが出来ない。

 その間に自分が雇っている配信者たちにカオス・キャストをさせるのだ。


「連中の魔導通信に対する偽装も、明日以降開始しろ」


「承知しました。バックアップを含め業者に依頼済みです」


 秘書の女に指示をし終えると、満足げにタバコをふかすデルゴ。


「ああそうだ。

 ヤツにも連絡を取っておかねばな」


 それだけ言うとデルゴは、とある相手に通話を繋ぐのだった。

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