第44話 観光大使の打ち合わせ
「先ほどはリアン様が大変お騒がせを。
わたくし、こういうものでございますにゃ」
(!?!?)
(にゃ!?)
「これはどうもご丁寧に」
内心の動揺を抑え、名刺を交換する俺。
思いっきりアホ毛を動かして反応しているユウナに軽く蹴りを入れておく。
「申し訳ない、どうしても里の訛りが出てしまうもので」
スーツをぴしりと着込み、苦笑する女性の名前はミーニャさん。
リアン様を警護するSPのリーダーで、今回の案件のプロジェクトリーダーも務めているらしい。
ふわふわとした緑髪にネコミミと尻尾。
年上の女性に対して失礼かもしれないが、大変可愛らしい。
「ミーニャ! あとでお耳、触らせていただけない?」
「む、そんなものいくら触ってもらっても構わないが……」
「ほんと!?
ふわふわ~」
「ふふっ」
相変わらず物おじしないアリスを優しい表情で見つめるミーニャさん。
「羨ましい……」
「あれはアリスだからこそ許される行為だぞ?
ユウナは一応大人なんだから」
「一応!?」
「ははっ! リアン様が気に入られたのも分かりますね。
皆さまとても可愛らしい。
広報活動、期待しております」
俺たちのやり取りに、ついに笑い出したミーニャさん。
こんな俺たちだが気に入って頂けたようだ。
「宿泊先など実務的な段取りについては、わたくしの部下とマサト殿が詰めている」
ミーニャさんの言葉に頷く俺。
こういう細かい作業はマサトさんに任せっきりだ。
「わたくしの方からは大まかな日程を説明できれば」
会議室の大型モニターに日程表が表示される。
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・関西周辺にてヴァナランド向け広報映像と土産サンプルの調達(3日間)
・ヴァナランドへ移動、ヴェスタ山地、ヴァナ湖など自然名勝案内(2日間)
・ヴァナランド皇都へ移動。市内観光の後、陛下に謁見(2日間)
・皇宮で日本国の紹介。夜は皇立歌劇団鑑賞(2日間)
・ヴァナランドの聖地であるヴェーナー神殿へ移動、周囲の観光紹介(4日間)
・「魔窟」を遠望にて紹介、ダンジョンポータルの成り立ちなどを紹介(3日間)
・撮影完了後、自由時間。リアン様別邸にて静養(3日間)
・日本国へ帰還、解散
=======
「うわわ、すっごい!」
「これだけたくさんヴァナランドに滞在出来るなんて……楽しみね!」
「観光パンフレットのサンプルなんだが、参考にしてくれ」
「「おおお!?」」
真面目なミーニャさんらしく、きっちりとしたフォントで書き込まれた日程表に歓声を上げるユウナとアリス。
「ミーニャさん、この”土産サンプルの調達”とは……」
まだ見ぬヴァナランドの観光地にはしゃぐ二人とは違って、俺は日程表の一番上に書かれている内容が気になっていた。
「ああ」
「もちろん日本国にもヴァナランドから観光客を受け入れてもらうのだが、広報用の映像と、魅力的な土産のサンプルを用意してくれと向こうの担当者からせっつかれていてね。わたくしたちはリアン様の警護任務や日常業務も多くてなかなか手が回らないんだ」
「なるほど……」
見る限りヴァナランド駐日大使館に勤める職員は10名ほど……観光案内の調査をしろと言われても大変だろう。
「なあアリス」
「なんですの?」
「ぶらありす。の配信を兼ねてミーニャさんの仕事を手伝わないか?」
「!! いい考えね!」
移籍による権利関係の変更で、ぶらありす。のアーカイブが使えなくなったので映像を撮り貯めたい。
その映像をついでにヴァナランドで広報に使ってもらえればと考えたのだ。
「タクミおにいちゃん、それめちゃめちゃいい案だよ!
あたしも行きたいとこたくさんあるしっ!!」
「ユウナは食べ歩きがしたいだけだろ」
ぺしっ
「へへっ」
口の端に少しよだれを垂らし、食べる事しか考えてなさそうなユウナに軽くチョップを食らわせる。
「それは物凄くありがたいが……いいのか?」
「ええ、もともとまとめて撮る予定でしたので」
さっそく出発しよう、俺はソファーから腰を浮かせかけたのだが。
ばーん!
「はいはいは~いっ!
わたしも行かせていただきま~す!」
入り口のドアをぶち破らんばかりに勢いよく入室してきたのは、爽やかな水色のワンピースに着替えたリアン様。
「え、あの? リアン様?
いったい何をおっしゃって?」
耳と尻尾を逆立てたミーニャさんがソファーから立ち上がる。
「本日の予定はこれだけでしょう?
本来なら午後はオフですが……」
「ヴァナランドの皆様に日本国の魅力を伝えるため……わたしリアンが自ら動くことが大事! これこそ第三皇女の務めです!!」
「いやその、SP陣は今回の案件の準備と折衝で本日の午後は不在になるのですが……公邸にいて頂かないと」
「第三皇女の務めです!!」
「ええっと」
押しの強いリアン様にたじたじのミーニャさん。
「もちろんわたしも変装しますし、警護役なら頼りになる方がいらっしゃいます!!」
ずびし!
「……え?」
キラキラと輝くリアン様の金色の双眸が俺を捉える。
「……はあぁぁあ」
「大変申し訳ないのだがタクミ殿。
リアン様のお守り、お願いできないだろうか?」
全てをあきらめた表情のミーニャさんが、ぽんと俺の肩を叩いたのだった。
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