第37話 (黒幕サイド)デルゴの思惑
「先日の配信対決から電子界では争いが繰り広げられ……。
ダンジョンポータルのバランスは大きく
すっ
タブレットを差し出すレイニ。
そこには荒れ放題になっているゆゆ公式ちゃんねる、アリス公式ちゃんねるのコメント欄が表示されていた。
「それだけではなく。
ポイッターという魔導通信結界内では、殺人予告による逮捕者まで出ております」
「ふむ、素晴らしいな。
褒めてやるぞ、レイニ」
ぎしり
椅子に深く腰掛けたデルゴは、満足そうに紫煙をくゆらせる。
この有能な部下は、この上なく上手くやってくれた。
いう事を聞かない
「っっ!」
銀髪のダークエルフに流し目を送ると、僅かに頬を染め身体を震わせる。
「……件のダンジョンにレッドドラゴンが出現したのも、君の差し金か?」
「……いえ。
モンスターの調達はクニオに指示しましたが、あれほど高レベルのモンスターが引き寄せられる想定ではありませんでした。
アリスを喪う可能性もありましたので、いささか軽率でした。
予想以上にダンジョンポータルが
「いや、よろしい」
アリスは駒としてはいささか使いづらい。
もし今回喪っていたとしても大勢に影響はないだろう。
むしろあの【特異点】は、さらなるスキルを発現してくれ、深くデルゴを満足させていた。
(レベル70相当効果のレベルドレインだと?)
いやまったく、期待を上回ってくれる。
(いっそ、一度向こうで”試させる”べきか?)
デルゴが密かに進めている計画の最終段階。
それを早めることが出来るかもしれない。
ダンジョンポータルが
そのうちこの世界の探索者や日和見主義のヴァナランド政府の手に負えなくなり、封印されし禁呪の復活が議論されることになろう。
だがその前に、あの【特異点】を使えれば……。
(まあ、焦ることはない)
【特異点】はあくまでボーナスだ。
使えるかどうかをじっくりと見定め、その間に計画を粛々と進めていけばよい。
「ただ、好ましくない事態もあります」
「……ん?」
いささか己の思考に沈み過ぎていた。
レイニの端正な表情が歪んでいる。
あまり良くない報告があるらしい。
「やはり”Takumi”と”Yuyu”が持つ聖属性は侮れず……。
これ
レイニが表示したのはマナのバランスを現したグラフ。
こちらの世界の人間には理解できないだろう文字と内容が並んでおり、デルゴ達にはなじみ深いものだ。
「対策は?」
「先日得た配信動画を編集し、いくつかマスコミに流していますが……そこまで大きな影響は見込めないでしょう」
タブレットには
『新鋭配信者アリスに嫉妬したゆゆ、アリスに暴力をふるう!?』
との見出しで、アリスに掴みかかるゆゆの写真が表示されている。
動画から特定の場面を悪意を持って切り出した記事だが、前後の動画を見ればフェイクであることは一目瞭然なので
「この際、”Yuyu”の排除も視野に入れるべきかと」
「ふむ……」
レイニの提案に考えこむデルゴ。
「……いや、まだ現状維持だ。
それより、トウジら
「……はっ」
ゆゆについては現時点で致命的な影響が出ているわけではない。
今は水面下で動くのが得策だとデルゴは判断していた。
「それより、リアンの件はどうなっている?」
そう考えたデルゴは、先日全権大使として着任した現魔王の事に思考を切り替えるのだった。
*** ***
「もう一度ゆゆと配信対決をしたい、ですか?」
「そう!
てってー的にゆゆをやっつけるの!!」
その夜、レイニはアリスの訪問を受けていた。
彼女がレイニの部屋に来るのは珍しい。
「もう少しで若手No1 Dungeon Seeker(ダンジョン探索者)の座は、アリスのものでしょ!」
アリスのヘテロクロミアが爛々と輝く。
ピンクカーバンクルの夢幻術の影響下にあることが明らかだ。
「………………」
いつになくやる気なアリスだが、好都合かもしれない。
デルゴ様はああ言われていたが、ここでゆゆを排除しておけば、トウジたちだけでも十分にダンジョンポータルを
「いいでしょう、アリス。
貴方の衣装に仕込まれた魔法リミッターを偽装します」
「!!」
「こんどの対決では、モンスターの退治数を競いましょう。
大群を準備しておきますので、貴方の広域破壊魔法にゆゆを巻き込むのです」
「!!!!」
「事故に見せかけるのは簡単です。
大丈夫、貴方は何も悪くありません……」
ずもも
レイニの全身からどす黒い魔力が放たれる。
すっ
アリスの瞳から光が消えた。
ああ、いいわね。
これでまたデルゴ様に褒めて頂ける……。
愉悦に浸るレイニ。
アリスの胸元のリボンに小さなカメラが仕込まれていたのだが、日本の機械に疎い彼女は気付くことはなかった。
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