第35話 5つ目のスキル
「……う」
泥のような眠りから、ゆっくりと覚醒する。
まず目に入ったのは、病院の天井。
すぅ……すぅ
胸元から規則正しい寝息が聞こえる。
頭を少し起こすと見えたのは、ベッドに突っ伏して寝ているユウナの姿だった。
「良かった……ユウナが無事で」
レイドボスを倒した後に出現したレッドドラゴン。
無茶をしようとしたアリスを庇い、レッドドラゴンの爪が腹に刺さった所までは覚えている。
俺がこうして生きているという事は、救援部隊が間に合ったという事だ。
「ふふっ」
シーツによだれを垂らして寝ているユウナの姿に思わず口元が綻ぶ。
これだけ熟睡できているのなら大丈夫だろう。
なでなで
ユウナの頭を優しく撫でてやる。
「……ふにゃ?」
おっと、起こしてしまったらしい。
ユウナの愛らしい瞼がゆっくりと開いていく。
「あ……」
「ユウナ、おはよう」
ユウナの目が大きく見開かれ、あっという間に大粒の涙があふれた。
「ああああっ!?」
「タクミおにいちゃん!!
よかった、よかったよおおおおおおっ!!」
「おっと」
ぎゅっ!
泣きじゃくりながら抱きついてくるユウナを、優しく抱き返してやるのだった。
*** ***
「俺は3日間も寝ていたんですね」
数時間後。
身体的には何の異常もないという事で、退院した俺は自宅へ戻ってきていた。
「へへ~、タクミおにいちゃん♡」
病院からずっと、俺の右腕にはユウナが抱きついたままだが
可愛いのでこのままにしておこう。
「ダンジョン庁の即応部隊が間に合い、レッドドラゴンは退治され、ゆゆもアリスも無事だった」
「あたしもアリスちゃんも大慌てで。
アリスちゃんが泣きながらすんげぇ回復魔法を使ってくれたから、タクミおにいちゃんのケガはすぐ治ったんだけどね」
「なるほど」
ユウナの話を聞く限り、アリスも正気に戻ってくれたらしい。
という事はあれはやはりキャラづくりだったのか、それとも……。
「だがタクミ君が目を覚まさなくてね。
慌てて病院に運んだという訳さ」
シャツをめくっても、腹には傷一つ残っていない。
レッドドラゴンの爪はヘタをしたら内臓まで届いていたはずだ。
アリスの回復魔法に感謝だな。
「というか、なんで俺は無事だったんです?」
いくら高性能なだんきちの着ぐるみを着ていたとはいえ、たかだかLV10そこそこの俺がレッドドラゴンの攻撃を受けたのだ。
下手したら最初の一撃で死んでいてもおかしくない。
「あ、それはね!
タクミおにいちゃんの”5つ目のスキル”が効いたんだって!」
笑顔で手を合わせるユウナ。
5つ目のスキル……無我夢中で使った”クリーナー・フンフ”のことか。
俺はスキルツリーを展開する。
======
■基本情報
紀嶺 巧(きれい たくみ)
種族:人間 25歳
LV:14
HP:281/281
MP:45/45
EX:6,733
攻撃力:22
防御力:61
魔力:7
……
■スキルツリー
☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。
↓
☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。
↓
☆クリーナー・ドライ 支援対象の”無駄”を消去し、行動を最適化する。
↓
☆クリーナー・フィーア 発動した魔法を消去(イレイズ)する。消費MP10
↓
☆クリーナー・フンフ 対象のレベルを一時的に下げる(効果は消費MPに比例)
……
======
「へ?」
表示された5つ目のスキル効果に目が点になる。
これって”レベルドレイン”スキルか?
レベルドレインとは相手のレベルを吸い取り自身を強化する超高ランクのデバフスキルだ。
「タクミ君のは自身の強化機能はないみたいだけどね。
そのかわり効果は段違いだぞ。
ダンジョン庁即応部隊の推測では、レッドドラゴンのレベルは90→20まで下がっていたらしい」
「マジですか」
レベルドレインスキルの効果は、最高クラスの探索者を以てしても5~10くらい下げるのが精々だ。
レベルを70も下げるなんて、聞いた事もない。
それならば、俺がレッドドラゴンの攻撃を受けて生き残ったのも頷ける。
「恐らく、初めて使ったから消費MPの加減が出来ておらず。
MPの使い過ぎで昏倒してしまったのだろうというのが、医者の見解さ」
「なるほど」
それにしても、俺のクリーナースキルはいよいよチートじみて来たな……。
一度しっかりダンジョン研究機関などで調べてもらった方がいいかもしれない。
ぴんぽ~ん!
そんな事を考えていた時、玄関の呼び鈴が鳴る。
「あ、俺が出るよ」
ユウナは部屋着で頭に寝癖がついてるし、マサトさんは巨漢で初対面の人によくビビられる。
消去法で来客の相手は俺がすることになっているのだ。
「あっ、タクミおにいちゃん、無理しちゃダメ!」
「大丈夫大丈夫」
数日間寝ていたからか、むしろすこぶる体調はいい。
リビングの壁に設置されたコンソールで正門の開錠操作をし、玄関のドアを開ける。
「おっ」
「…………くすん」
みきゅん……
そこにいたのは、目に涙を溜めながらしょげ返っているアリスと、まったく同じポーズを取っているマジェだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます