第28話 ゆゆとアリスの配信対決(後編)
「も、もふふふっ(マジかよ!)」
なかなかお目に掛かれないレアボスモンスターの姿に、動揺を隠し切れない。
クリスタルゴーレム。
全身が特殊な魔力を帯びたクリスタルで構成された傀儡型のモンスターで、ヴァナランドの”怨霊”がクリスタルの鉱脈に憑りつくことで発生する。
その身体はほとんどすべての魔法を弾き、剣や打撃のダメージも通りにくい。
ハンマーやモーニングスターなど、破砕系の武器が弱点で、”浄化”系の聖属性魔法で攻撃すればあっさり倒せたりするのだが……。
「むむ……厄介そうじゃね?」
高分子ブレードを使った切れ味重視の剣技と格闘術を中心に戦うユウナと。
「アリス、念のために聞くが浄化系魔法を使える?」
「使えないわ!」
「……了解」
浄化魔法は神官系スキルツリーの上級魔法である。
神官系スキルツリー自体発現率が低く、アリスが使えなくても不思議ではない。
(つまり……)
この二人にとって相性が悪いボスという事だ。
(ていうか、なんでこんな低層フロアにクリスタルゴーレムが?)
基本的に中層より下のダンジョンに出現するモンスターだ。
もしコイツが下層から迷い込んでしまったのなら、この辺りに潜る初級レベルの探索者が遭遇してしまわないように退治しておいた方がいいだろう。
幸い、俺にはコイツを倒せるスキルがある。
「ゆゆ! アリス!
打撃技と爆裂系魔法でコイツのHPを削ってくれないか?」
「そうすれば、俺の”クリーナー・ツヴァイ”で!」
ここからは本気モードだ。
ボイスチェンジャーを切り、二人に指示を出す。
「!! りょ! タクミっちの切り札だね!」
「何か隠し玉があるのね? 分かったわ!」
俺の言葉に頷くと、クリスタルゴーレムの左右に展開するゆゆとアリス。
「よし!」
ぽむっ
だんきちの両脚がダンジョンの床を踏みしめる。
こうして、最後のボス戦が開始されるのだった。
*** ***
ゴウウンッ
ブンッ!
「へへ、当たらないしっ!」
クリスタルゴーレムのパンチをひらりとかわすゆゆ。
クリスタルゴーレムはその巨体が災いして動きが鈍く、ゆゆクラスの身のこなしをもってすれば攻撃をかわすのは難しくない。
「ゆゆ、左脚を狙うんだ!
”クリーナー・ドライ”!」
ゆゆに向かってクリーナースキルを発動させる。
ヴンッ
クリスタルゴーレムの左脚に向かって表示される、一番無駄のない攻撃コース。
「りょ!
行くぜ☆ ゆゆスペシャル!」
空中でクルリと一回転したゆゆは、ガイドに従い右脚のかかとをクリスタルゴーレムに向かって振り下ろす。
ぶんっ
ソールに内蔵された魔法の効果により、超硬化されたローファーのかかとがクリスタルゴーレムの左脚を捉える。
バキンッ!!
ゴゴーム
衝撃でクリスタルゴーレムの巨体が揺らぎ、僅かにクリスタルの脚にひびが入る。
よし、次だ!
「アリス! いちばん強い爆裂系魔法を頼む。
ただし、直撃させるのではなくヤツの背中ギリギリで炸裂させるんだ!」
「”クリーナー・ドライ”!」
ヴンッ
クリスタルゴーレムの背中に表示される攻撃ポイント。
「!!
精神集中がしやすくなったわ……すごいわねだんきち!」
最適化された目標と魔法の発動モーションに一瞬驚きの表情を浮かべるアリスだが、すぐににこりと笑顔になると、強力な爆裂魔法を発動させる。
「あるかいっくばーすと!」
ズドンッ!
クリスタルゴーレムの背後で大爆発が起き、爆風でバランスを崩すゴーレム。
直撃させると優れた魔法防御力によって無効化されるため、爆発の衝撃力を至近距離からぶつけたのだ。
ビキッ
クリスタルゴーレムの背中に、1メートルほどの亀裂が入る。
「ゆゆ、アリス!
いまの攻撃を繰り返してくれ!」
「おけ!」
「わかったわ!」
ゆゆとアリスは連携して、クリスタルゴーレムにダメージを与えていった。
*** ***
「ふぅ、ちょい疲れた~」
「はぁ、はぁ……そうね」
10分後、15回目の攻撃を終えたゆゆとアリスが俺のところに戻ってくる。
ゴ、ゴゴーム
クリスタルゴーレムの全身にはあちらこちらでひびが入り、動きも鈍くなっている。
だが、見た目ほどのダメージはない。
傀儡系のモンスターは身体の中心部に”コア”を持っており、そこを破壊するか浄化しないと時間がたてば再生してしまう。
「だけど」
俺のスキルなら。
「はああああああああっ!」
だんきちの肉球が青白く光る。
活動状態のモンスターを一定確率で魔石に昇華させる”クリーナー・ツヴァイ”。
相手を弱らせることで確率が大きく上昇するのだ。
「これで……終わりだっ!!」
ぽみゅっ
右手にすべての力を込め、全力で床を蹴る。
着ぐるみに組み込まれたアシスト機能が、俺を神速まで加速する。
ごおおおおおっ
だんきちの肉球がクリスタルゴーレムに迫り……。
パッキイイイイイイインッ!
……かつん
クリスタルゴーレムの巨体は、一抱えほどもある魔石に昇華したのだった。
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