第24話 アリスと対談しよう

「……ということで、先日開設した公式ちゃんねるの登録者数は50万人を突破!

 ただいま飛ぶ鳥を落とす勢いの、クロフネ・アリスことアリス・ブラックシップさんにスタジオに来ていただきました~!」


 ば~ん!


 派手なスモークと共にスタジオに飛び込んでくるアリス。


 空中にキラキラと輝く光がいくつも出現する。

 光はビッグ・ベンやロンドンバス、ティーカップなどイギリスのシンボルに形を変え、アリスの周囲を舞い踊る。

 あの光は魔法で出しているらしい。


「ニッポンのたべものは最高ね!

 アリス、食べ過ぎちゃうわ!!」


 手にはスタジオ近くの屋台で買ったと思わしきたこ焼きを持っている。


「はむっ」


 おもむろにたこ焼きをつまようじに刺すと、小さな口を開いてぱくり。


「んんん~♡

 でりしゃすぅ~♪」


 幸せいっぱいの笑顔でぷるぷる震えるアリス。


 ”アリス可愛い!!”

 ”これがイギリスのクロフネか……”

 ”はぁ、癒される♪”


 アリスの公式ちゃんねるに沢山のコメントが書き込まれる様子がモニターに映る。


 まだダンジョンデビューしてない彼女だが、来日したばかりのアリスが関西の名所を巡る「ぶらありす。」という企画が大当たりし、1日当たり数万人のペースでフォロワーを増やし続けていた。


「アリスの”使徒”は今日もベストコンディションね!!」


 にっこりと微笑むと、カメラの前でポーズを取るアリス。


「本日はそれだけではありません!!」


「先月の記者会見でアリスさんが勝負を申し込んだ相手……現在フォロワー180万人超! 若手トップのダンジョン配信者、ゆゆさんもスタジオにお呼びしていますっっ!!」


 ばば~ん!!


「へへっ!!

 まだまだわけぇもんには負けないし!!」


「ゆゆちゃん登場っ!!」


 しゅたっ!


 その身体能力を生かしてパルクールを披露したゆゆは、片手逆立ち状態からくるりとアリスの隣に立つ。

 ぱちんとカメラに向けてウィンクする事も忘れない。


 ”うおおっ、今日も可愛いよゆゆ!”

 ”さらに動きに磨きが掛かったよね!”

 ”アリスとのダンジョン配信対決、楽しみだなぁ……絶対ゆゆが勝つけどね!”


 ゆゆ公式ちゃんねるのコメントも大盛り上がりだ。


「うわ、数分で3000コメントですか、凄い!」


「あえてあまりテレビに出してこなかったからね、この機会を最大限に利用させてもらったわけさ」


 年配の人たちにはまだまだテレビの影響は絶大だ。

 ゆゆのファン層を広げるためにもいいタイミングかもしれない。


「リアルではじめましてね、ゆゆ!」


 身長はゆゆより頭一つ分くらい小さいが、挑戦的な視線でゆゆを見上げるアリス。


「アリスの登場で使徒の増加ペースが鈍っているようだけど。

 大丈夫かしら、ゆゆおねえさま?」


(おねえさま!?)


 ぴくん、と嬉しそうにゆゆのアホ毛が動く。


「にひ♪

 人気王道の食べ歩き配信で天下とった気になるとか……甘いぜ☆彡

 アリスちゃん?」


 対するゆゆも、余裕たっぷりにアリスの視線を受け止める。


「……今度一緒に行こ?」


「もちろんよ!」


 ぐっとこぶしを合わせるふたり。


 ”さっそく仲良しさん!”

 ”尊い……”


「ふふ、目にモノを見せてあげるわ、ゆゆ!」


 精一杯対決感を煽っているアリスだが、どこか微笑ましさが漂う。


 何故ならば……。


 俺は収録前の楽屋を思い出していた。



 ***  ***


 コンコン


「今日はよろしくお願いするわね、ゆゆ」


 収録の1時間くらい前、ゆゆの楽屋にアリスがひとりで訪ねて来た。


「こちら、お土産のカップケーキよ。

 ロンドン・チェルシーの有名店から取り寄せたんだから!」


 にこにこと楽屋のテーブルにお菓子の包みを置くアリス。


「わ! むっちゃ美味しそう!

 ありがとうアリスっぴ!」


「どういたしまして♪」


 スイーツに目のないゆゆは、キラキラと輝くカップケーキに釘付けだ。


「ありがとうアリス。

 さっそくお茶を淹れるよ」


 せっかくのお土産だ。

 みんなで美味しく頂こう。


 お茶を淹れるために立ち上がる俺。


「ふふ、ゆゆの実物は動画よりも素敵だし、付き人さんもカッコいいわね」


「お? 分かる? やるねアリスっぴ!」


 先日の記者会見とは打って変わって無邪気な様子の彼女に、ゆゆもすっかりアリスのことを気に入ったようだ。


「移動中にあなたの動画は研究済みだもの……って、あら」


 ドヤ顔で頷くアリスだが、何か気にづいたのかてててっと壁に向かって走り出す。

 そこにはフォロワー有志から贈られた花輪が。


「お花さんが落ちているわよ。

 贈り物は大事にしないとね」


 どうやら花輪の花が一輪床に落ちていたらしく、拾って元の位置につけなおしてくれるアリス。


(いい娘だ!)


(超かわよ!)


(素晴らしいな!)


 期せずして、俺たちの心がシンクロした。


「さあ、ゆっくり頂きましょう♪」


 俺たちは和やかなティータイムを堪能したのだった。



 ***  ***


「にひ、ウチの格闘術について来れるかな!」


「アリスの魔法に度肝を抜かれない事ね!!」


「日本とイギリスの誇るアイドル配信者の対決の行方はいかに!!」


 お互いのプロフィールを紹介するVTRが流れた後、不敵な笑みを浮かべて対峙するふたり。


「先方からの急なオファーには驚いたけど、結果的には良かったようだね」


「ですね」


 公式ちゃんねるのコメント数は5万を超え、ご新規さんも大勢来てくれたようなので

 今回のテレビ出演は大成功だったと言えるだろう。


「OK! それならさっそくショウブしましょう。

 このアリス、探索者装備は準備ずみ!!」


 ドヤ顔のアリスはくるりと一回転。

 基本は魔法使いの制服だけれども、右手に持ったマジックロッドと頭に乗せたティアラが目を引く。


「……え?」


 突然、リハーサルには無かったアドリブを始めるアリス。


「玄関にクルマを回すわ!

 Dungeon Portalに向かってさっそく対決を……」


「……あの~」


 鼻息荒く出口を指さすアリスに向かって、司会者の女性が遠慮がちに声を掛ける。


(あ~)


 この後の展開が読めてしまった俺。

 なぜなら……。


「日本の法律では、ダンジョン探索が許可されるのは12歳からなんです」


「みぎゃっ!?」


 やっぱり。


 才能とスキルが発現すれば誰でもなれてしまうので、近年加速するダンジョン探索者の若年齢化に歯止めをかけるために制定された法律だ。


 アリスはただいま11歳。

 12歳の誕生日を迎えるまではダンジョンに潜ることはできないわけで……。


「ふえ~ん!」


 さっきまでの強気な態度はどこへやら。

 涙目になって座り込んでしまうアリス。


(ちょ、可愛すぎるんだが!)


(かわいい。ユウナの妹に欲しいな……絶対に尊い!)


(あのピュアな可愛さは、ユウナには真似できんな)


 ”か、かわいいいいいいいっ!!”


 俺たちとスタジオ、視聴者の心が一つになった瞬間だった。

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