アステラ
九条 夏孤 🐧
第1話 アステラ様
「アステラ様って知ってる?」
「知らない」
「なんか動画投稿サイトで人気らしいよ」
「ふーん……」
「そのアステラ様なんだけどさぁ……」
「…………」
学校帰りに同級生の実久と歩きながら話していた。
この子は小学校からの幼馴染だ。
今はアステラについて話している。
『雑談系のアステラ様』これはあるユーチューバーである。
数年前から実久がハマったようだ。
…俺なんだけどね。アステラ様って。
俺は学校でアステラとして動画を投稿している事は隠している。
理由は単純。
バレたら面倒くさいからだ。
高校の方針として「SNSに関してのトラブルを抑える」と掲げられたもんだからバレたら終わりだろう。
そもそも動画投稿サイトで動画投稿してる奴なんて大抵はろくでもない人間が多い。
まともな人間はYouTubeとかニコニコ動画で動画投稿したりしない。
そういうやつは大体炎上する。
だから俺はアステラというハンドルネームを使ってひっそりと動画投稿をしているわけだ。
「 寺島くんって動画投稿してるの?」
「してるわけないだろ」
「だよね~♪」
「当たり前だろ」
「でも、もししてたら見てみたいなぁ……なんてねっ!」
ほんとに実久は明るいな…。
「あぁ?見るほど面白くならないだろ」
「えぇ!?なんで!?」
「どうせロクなものじゃないからさ」
「そうかなぁ?」
「そうだ」
「じゃあさ!私がアステラ様の魅力を語ってあげる!」
なんでそうなるんだ…。
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
「別にいいよ」
「遠慮しなくて良いんだよ?」
「遠慮してねぇよ」
「むぅ……」
不満げな表情をする実久。
そんなこんなで家に帰ってきた。
部屋に入ってパソコンを立ち上げる。
起動するまでに時間がかかる。
その間スマホを開く。
Twitterを確認する。
フォローされているフォロワーは6人。
意外と多い…気がする。
ちなみにこのアカウントでも『アステラ』と名乗っている。
俺の本当の名前は寺島 雑談系ユーチューバーのあだ名がアステラ様。
高校二年生。男子。
俺はベッドの上で寝転びながら呟いた。
「おつかれさまです!今日も一日頑張りましょう!!」
アステラ様のツイートだった。
自分で言うのもなんだか気持ち悪い。
しかし、これが俺なのだから仕方がない。
いつものように、ネット上の知り合いたちと他愛もない会話をしながら一日を終えるはずだった。
―――ピコンッ 通知音が鳴る。
誰かからのダイレクトメッセージが届いたようだ。
「誰だよ……」
ダイレクトメッセージをクリックした。
差出人は匿名さん。
『こんにちわ^_^ アステラ様ですか?』……やっぱりか。
俺は頭を抱えた。
もうここまできたら誤魔化す事はできないだろう。
観念しよう……。
「はい。そうですよ」
返事を送った。
するとすぐに返信が来た。
『初めまして^_^』
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を交わす二人。
そこからしばらくやり取りが続いた。
「あなたの名前は何と言うんですか?」
『私は匿名希望と言います(笑)』
「どうして俺にコンタクトを取って来たんですか?」
『それはですね……』
そこで文章は止まってしまった。
何か言いにくい事情でもあるのだろうか? 少しの間沈黙が流れる。
そして、再び文字が表示される。
『あなたの動画を見たからです!』
「えっ……?」
驚いた声が出てしまった。
まさか本当に自分以外にアステラのファンがいたとは……。
しかも動画を見てくれたらしい。
素直に嬉しいと感じた。
それからしばらくやり取りを続けた。
匿名さんのハンドルネームは「クロ」と名乗った。
お互い自己紹介を終えたところで本題に入る。
「それで……僕に何か用があるんですよね?」
『はい。実はアステラ様の動画を見て私も同じことをしてみようと思ったのですが、やり方がよく分からなくて……』
「なるほど……」
つまりクロさんは俺と同じように動画投稿をしてみたいということか。
確かに初めてだと何をすればいいのか分からないかもしれない。
「良かったら教えてあげましょうか?」
俺は提案をした。
『良いんですか!?』
食い気味で反応してきた。
よっぽど興味があったんだろうな……。
「もちろんです!」
こうして俺はアステラとして動画投稿を教えることになった。
まずは動画投稿サイトにログインする。
次に「動画作成」を選択する。
『もしよければ私の家でどうですか?そっちの方が教えやすいでしょ?』
急にクロからダイレクトメールが届く。
そしてなんと住所も同時に転送されてきた。
「まじか……」
思わず独り言が出る。
心臓がバクバク鳴っているのを感じる。
「大丈夫なのか……?これ……」
俺はただひたすら不安な気持ちになるだけだった。
『流石にネット上の人と会うことは遠慮したいです』
俺は申し訳なさそうに返した。
というか、この住所。見覚えがあるような、無いような…。
「とりあえず後で考えればいいか」
深く考えることをやめることにした。
『そうですか……。ではまたの機会にでも……』
『すみません……。機会があれば是非ともお願いします』
『いえいえ!気にしないでください!それじゃあ続き教えてください!!』
そうして時間が過ぎた。
「おっと、生配信する時間だ…」
俺の雑談配信をする時間が訪れていた。
今日はどんな話をしようかな? 俺はコメント欄を見ながら考えていた。
「よしっ!今日も始めていきます!」
「こんばんわー」
「今日もよろしくおなしゃす」
「おなしゃす」
コメントにはたくさんの人が来てくれている。
みんな俺の配信を楽しみにしてくれているんだ。
「今日は恋愛相談とか受け付けたいと思います~。明日を照らすための動画、アステラ様をお願いしま~す」
今日の相談内容と自己紹介を終わらせる。
恋愛は一番人が食いつくタイプだから再生数のために行っていた。
「さぁさぁ!早速質問コーナー行ってみよ~♪」
「はい。最初の方~」
「はい!」
「はい。えっと……『アステラ様は今付き合ってる人いるんですか?』だってさ。残念ながらいないんだよねぇ……。」
俺の恋愛事情を話さなきゃいけねえのかよ。
…コメントが少し荒れた気がする。
気のせいか。
他人の恋愛事情に深入りしたいな。
「次の人―」
その後も似たような内容の質問が飛んでくる。
「はい。次は……『好きなタイプの女の子を教えてください』だってさ。う~ん……そうだねぇ……。俺の理想は明るい子が良いかもな。一緒にいて楽しいし、こっちまで元気になってくれるから」
コメントを眺める『!!』
何だこのコメント、やっぱコメント荒れてない?
いや、俺が疲れてるだけだな。
「はい。えっと……『友達から告白された場合どうすれば良いですか?』って言われてるけど……これどういう意味?」
好意を大切にすべき。と答えた。
「はい。『アステラ様は辻井君をどう思いますか?』
辻井…あぁ、同級生の奴か…。
「まあ、自分勝手だけど、面白い奴だと…」
ん?
ここで違和感に気付いた。
なんで辻井君を知っているんだ?
視聴者さんは辻井という男を知らないはずなのに……。
「あれ……?どうして知って……」
俺は底知れぬ恐怖感に苛まれる。
ふう、気を取り直そう。
俺は次の質問に無理矢理目を移した。
…だからこそ見過ごしていたコメント
『やっと会えるね。アステラ様』
これに俺は気付かなかった…。
次の日、
勿論登校日だ。
教室に入ると、いつも通り挨拶してくるクラスメイト達。
「おはよう、寺島君!」
「おう、おはよう。」
挨拶を交わす二人。
昨日のコメントはあれ以来無視した。
今は学校生活に集中しよう。
「ねぇ、寺島君。最近、なんか浮かない顔してるよね?」
「そ、そうか?」
「うん。何かあったの?」
「い、いや、何も……」
「ふぅ~ん……」
実久に話しかけられる。
しかし、上手く返事ができない。
俺は一体どうしてしまったのだろう。
「ちょっといい?」
「ん?」
実久は思いっきり寺島の顔に彼女自身の顔を近づけた。
整った顔。
艶のある髪に、少し湿っている唇。
内心、ドキッとした。
「私と一緒に来てもらえる?」
「あぁ……。分かった。」
俺は彼女の後について行く。
一体どこへ行くんだろう? 疑問を抱きつつ俺は彼女に従うことにした。
「ここ。」
連れられた場所は体育館裏だった。
そして彼女は壁際に手をついた。
「私とキスをして」
「はっ!?」
思わず声が出てしまった。
いきなり何を言い出すんだ?
「あのな……そういうのは好きな人とするものであって……」
「私はあなたが好き」
「……!?」
言葉が出ない。
こんなにも真っ直ぐに好きだと言ってくれたのは初めてかもしれない。
「ねぇ、早く……」
「いや、でも……」
「私の事嫌いなの……?」
上目遣いでこちらを見てくる。
昨日までの関係とは全く違う。
完全に異性を見る目をしていた。
「そ、そんなわけ無いだろ……」
「じゃあ、してくれる?」
「それは……」
「やっぱり私の事が嫌いなんだ……」
目に涙を浮かべる。
俺はこの表情に弱い。
「い、いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、して……」
俺の肩に手を置く。
心臓の鼓動がどんどん速くなる。
「ちょっ!待って!訳が分からない!昨日までの実久と落差がありすぎる!」
頭の仲もグルグルとこんがらがってしまう。
「私は…アステラ様を…ずっと前から好きだったの!!」
「っ……!」
その言葉で頭が真っ白になった。
バレていた…?
「初めっから寺島君はアステラ様に似てると思ってたの!でも、昨日の配信で確信が持てた。『クロ』って私の事だよ!!」
「……っ!」
アステラ様を知りたい。
この言葉は俺にとってとても重く感じた。
やっぱりあの住所には見覚えがあった。
「ねぇ、アステラ様……。キス……しよ……?」
潤んだ瞳で俺の事を見つめる。
ここまでされて、断れる男がいるだろうか?
「あぁ……」
ゆっくりと唇が近づく。
互いの吐息が聞こえる距離。
俺の心臓の音が聞こえているのではないのかと思うくらいドキドキしていた。
「ん……」
触れ合う二人の唇。
柔らかい感触が伝わる。
「アステラ様…アステラ様…寺島様ぁ」
この声だけが俺の耳に残り続けた。
多分、数分間ぐらいずっと唇を重ねていた。
そしてゆっくりと唇を離す。
…最後に俺の耳元で甘い声を出した。
「…もう、他の女にはバラさないようにしないとねっ♪」
作者より
怒られないようにしないとねっ♪
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