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新しく解放された『花屋』と『薬屋』で購入したものを手にして考える。


この世界の文明ははっきり言えば僕の生きていた世界に比べて文明が劣っている。

塩や胡椒にしても前の世界では気軽に手に入るものでも、この世界では高品質であったり場所によっては手に入りにくいものとなっている。

そしてポーションの材料になるという薬草も入手できた。

今後は薬師さんを探して短期契約を結んだり、依頼をしたりするのもいいかもしれない。

だが薬師を探す前に考える必要がある。


洗剤についてだ。

僕が宿屋で購入している洗濯用の石鹸は、はっきり言って僕にとっては粗悪品としか言いようがないものであった。

これなら某100円ショップで売ってる方が遥かにマシと言えるだろう。

もしもあの石鹸を僕が生きた世界で売ろうものなら悪評が轟くだけで終わってしまう。


いや、それ以前に衛生管理法だったか?よくはわからないがそういった法律に引っ掛かり販売すらできない代物の可能性がある。

この世界で売れば一躍注目商品として脚光を浴びることになるだろう。

庶民からすれば手が出にくいものでも、すくなくとも中規模以上の商人や貴族は求めるだろう。

単純に洗濯の手間が省けるだけではないのだ。

汚れの落ち具合もよくなるだろうし、物によっては心地いい香りをつけることすら可能になるだろう。


しかし同時にこれを売ればその分、貴族や王族御用達しになる可能性が高い。

一部の口の堅い貴族に対してであれば売ってもいいかもしれないが、無暗に売れば出所を探られる。

それは僕にとって好ましい結果をもたらすとは思えない。


そうなると、なるべく仲介を経ずに個人間でやりとりをした方がいいように思えるが・・

冒険者と鍛冶屋が直接やり取りをするとトラブルになりかねないから、商人ギルドを通すようにという法がある。

明確な罰則は無くとも全て自己責任になるという。

このような仕組みがある以上、前例があるということになるだろう。


となると信用できる商人ギルドを仲介した方がよさそうだ。

幸いこの街の商人ギルドのマスターであるエコラックさんは無暗やたらに言いふらしたりはしないだろう。

僕にはこの街が仕入れにくい塩を、安価で仕入れることができるようになるというアドバンテージがある。


しかしそれも現在では少量だ。

塵も積もれば山となるという言葉はあるが、この段階で洗剤を卸し始めては、洗剤の革命とも言うべき未来を優先する恐れがある。

そうなればこの街の商人ギルドとしても利益を優先し、僕の保護などは完全に度外視される危険がある。


そうなればやることは2つだ。


まずは薬草を手に入れる経路を確保したためポーションの作成を薬師に依頼したいこと。

こちらはあまりに安く卸してしまうと現在の市場を破壊しかねない懸念があるため、既存の薬屋などを保護するために、個人での保険の意味合いでの利用や、仮に領主様からの依頼があった場合のみ応えることを条件に依頼しよう。


もう一つは塩の納品量を増やすことだ。

胡椒や貴族向けの塩は現在の納品量のままでも、町の経済には良くも悪くも影響を及ぼさないだろう。

しかし一般市民向けの塩に関しては、市民の生命線ともなりうる。

こちらは納品量を増やせば街としてはありがたみが大きくなるだろう。


それにあたっての問題もある。

大きなリュックを買ったことだし50kgくらいまでに増量する分には、何とかリュックを使って運ぶことができるはずだ。

重いと言えば重いのだが・・・


しかし、安定供給を目指すならば100kgを目指すのがいいだろう。

そうなるとどう考えてもリュックで運ぶには限界がある。

時間経過ありとはいえ水気などが変わるわけでもないしアイテムボックスで運搬することはできる。

しかしこの世界にとってアイテムボックスが一般的とは思えない。


その根拠はお世話になった商人のロッサリーさんだ。

ロッサリーさんは出会った当初馬車で行商をしていた。

彼自身そこそこの稼ぎを得ている商人に見える。

そんな彼がわざわざ馬車での旅をしているのだ。

勿論、アイテムボックスを有しているけど偽装の為にやっている可能性もある。


でも今のところこの世界は、よくあるラノベやアニメの異世界ものと同様の状態であることも事実だ。

そうなるとアイテムボックスは一般的とは言えない。


現在は週に1度のペースで卸しているが、100kgの量を運搬するとなると馬車までは大げさかもしれないが、馬を使うことは避けられないだろう。

1週間に一度のペースで塩を100kgも、馬を使わずに運搬しているというのはいくら何でも無理がある。


ギルドマスターに相談して以降は個室でのやり取りにしてほしいことと、アイテムボックスのスキルを所有していることを伝えよう。

そのうえで一般市民向けの塩の卸量を増やそう。




そこまで考えたところでお腹が減ってきたことに気づいた。

昼食がまだだったし外食しに行くことにした。

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