1-2-2
ロッサリー・ハンクと名乗った商人さんは、僕の名前を聞いてきた。
「僕は西門 蓮司といいます」
「ニシカド レンジさんですか。変わった響きの名前ですね。レンジというのが家名ですか?」
あ・・・そうか。
しまった。つい日本にいたころと同じ感覚で自己紹介をしてしまった。
日本にいたころも多くの国が、家名が後にきていたな。
「すいません。レンジが名前で、ニシカドが家名になります。僕の生まれ故郷では家名を先に名乗る風習があったので・・・」
とっさのいいわけでこう答えた
商人さんは納得したような顔をしながら
「なるほど、そうでしたか。
それであなたはここで何をしていらっしゃるのですか?
ここは先ほども言った通り魔物の類も出ますし、冒険者でもなければ危険な場所ですよ。
それであなたの故郷はどちらの方にあるのですか」
どう答えればいいのか分からない僕は
「それが・・・わからないんです」
と答えてしまった。
「わからない、とは?」
「ここが何処なのか、僕がどうしてここにいるのか、前後の記憶が全く思い出せないんです。故郷の風景を思い浮かべることはできても、気づいたらここに居たとしか言いようがなくて」
我ながらもう少し上手い言い訳ができないのだろうか・・・と思う答えだ。
とはいえ馬鹿正直に、こことは異なる世界で生きて、召喚されて、王女から王都を追放されたなんて言えるはずもない。
「そうですか・・・記憶を失っているのですね。それに気づいたらここに居たというのであれば迷い人かもしれませんね」
「迷い人?」
「迷い人というのは何年かに1度全く違う地域から次元の穴を通って見ず知らずの場所に転移してしまう人のことです。
その穴を通る影響なのか、それとも別の理由なのかはわかりませんが、記憶の一部あるいは全てを失っています。
また、この世界のどこかから転移してきたパターンもあれば、全く異なる世界から転移してきてしまうパターンもあるという話です」
ほー・・・と呆けながらその話を聞き、同時に今後出身を聞かれたらこの設定で通そうと決めた。
どのような形であるにせよ王都から追放されたのと、迷い人としてしらない土地に来てしまったというのであれば、後者のほうが聞こえはいいだろう。
「ここに居るだけというのも危険ですし、よければ私と一緒にデミウルゴス公国に行きませんか?
必要でしたらある程度の知識は教えることができると思いますよ」
とロッサリーさんは言った。
右も左も分からない僕はその提案を受けることにした。
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