第16話 捨て子
「………別にたまたまよ。私もこの時間から1人で訓練してるからここに来たら貴方が先にいただけ」
セレナさんも俺と同じように早朝に訓練をしているらしい。
それでたまたまこの場所に来たら俺と出くわしたということだった。
「そうなのか………」
「そうよ」
話すことが無くなり、無言の時間が流れる。
「じゃ、じゃあ俺は別の場所に行くから、セレナさんはここ使ってください」
初日の修行終わりの時以来、避けられていてセレナさんと話していなかった俺は、気まずくなってしまい、その場を離れようとする。
すると、彼女から呼び止められる。
「………ちょっと待って」
「え………?」
「………どうして貴方はそこまでして強くなりたいの?」
「………」
突然呼び止められたことに思わず驚いたが、質問を聞きしばらく考えて答えを出す。
「自分の魔力値が100だって分かったあの日、俺は絶望してもう終わったなって思ったんだ。
目の前が真っ暗になって、周りの向けてくる目はみんな冷たくて、もういっそ消えてしまいたいとさえ考えた」
「………でしょうね」
「そんな時だった。あの日、暗闇の中居た俺にシルが光をくれた。シルがあの時くれた言葉に俺は救われた。
だからかな、こんな俺についてきてくれるシルを守れるように、後悔することがないように強くなりたいって思ったのは」
「そう………。貴方達は、互いに助け合って信頼しているのね。………羨ましいわ」
俺の話を聞いてセレナさんが助け合っていて羨ましいと言ってくる。
確かに俺はシルに助けられたけど、本当に俺はシルの助けになれているのだろうか。
冒険者には危険が付きものだ。その危険からシルを守れるように俺は強くなりたい。
その気持ちを改めて自覚する。
「セレナさんは?………あの時弱い人は嫌いだって言ってたけど、どうして強さを求めてるんですか?」
あれほど弱い人を毛嫌いするのには、何か理由があるはずだと思い、俺は尋ねた。
「………私は才能が無くて捨てられた、捨て子なのよ」
その言葉を聞いて俺は、言葉が出なかった。
「人間と違って、私たちエルフは生まれた瞬間にスキルを授けられているの。そして、エルフは魔法に愛された種族。
エルフの森では、魔力値よりも魔法系スキルが重視される。魔法系のスキルを3つ以上持っているのは当たり前、それに加えて闇魔法、光魔法を持っている人だって珍しくないわ」
「セレナさんだって魔法は使えるはず、それなのにどうして………!」
「私のステータスを見てみれば捨てられた理由が分かるわ……」
そう言われて俺は鑑定を使い、セレナさんのステータスを見る。
名前:セレナ
種族:ハイエルフ
HP:100/100
魔力:15000/15000
筋力:25
耐久:25
敏捷:35
《スキル》
【上級】風魔法・・・風属性の魔法
【上級】弓術・・・弓の扱いが上手くなる。
【王級】空間拡張・・・不明
【王級】魔力操作・・・不明
彼女のステータスを見ると、魔法系スキルは風魔法のみで他には弓術に王級スキルが2つもあった。
それ以外にも気になるところが1つ。
「ハイ……エルフ……?」
「そう。私はエルフより上位の種族のハイエルフ。それなのにもかかわらず、私が持っている魔法系スキルは風魔法の1つだけ。
本来エルフの上に立つはずのハイエルフが風魔法しか使えないだなんて、親の立場からしてみればこんな無能はいらないってことよ」
「そんなはず………」
「貴方に私の何がわかるって言うのよッ………!」
そんなはずないと言葉をかけようとしたら、セレナさんの言葉に遮られた。
「スキルに恵まれ、親に恵まれ、シルヴィに恵まれた貴方に!
………ずっと1人で生きてきた私の何が分かるの?」
「それは………」
涙を浮かべ、声を震わせている彼女の訴えを聞き、俺は黙ってしまう。
確かに、俺にはセレナさんの気持ちを全て分かってあげるのはできないのかもしれない。
「………私を拾ってくれたマー爺には感謝はしてるわ。でも私は独りだった。私が弱いから、才能が無いからなんだって思った。
だから私は……!強くなって!誰よりも強くなって!私を捨てた奴らを見返してやるのよ……!」
彼女の話を聞いて強さを求めていた理由がわかる。
そうか、この人はただ認めてほしいだけなんだ。
自分は弱くない、独りじゃないってことを。
そう考えて俺は、彼女に言う。
「俺には、セレナさんの気持ちを全部分かってあげることはできないかもしれない。だけどセレナさんは弱くないよ。
だってこんなにも努力をしてるじゃないか。恵まれない環境や境遇でそれでも折れずに頑張ってるそんな人が弱いわけないよ……!」
彼女は一瞬はっとした表情を浮かべ、こちらをじっと見つめている。
「それにさ、セレナさんはもう独りじゃないよ。師匠やシル、俺だっている。
みんな、セレナさんの味方で仲間じゃないか。これからは1人で全部背負い込まないで、俺たちを頼って欲しいな」
そう言って俺は手を差し出す。
「………どうして貴方は、そこまでしてくれるの………?あんなにひどい事だってたくさん言ってしまったのに………」
「うーん………セレナさんが俺と似てるからかな……?」
「似てる………?」
「諦めずに努力してるところとか………?」
思わず口に出してしまったが、自分で言ってて恥ずかしい………。
「………ふふっ、あははっ、なにそれっ」
俺の言葉を聞いてセレナさんが笑い出した。
師匠の家に来てから初めて彼女の笑顔を見た気がする。
「セ、セレナさん、そんなに笑わないで下さい!」
「セレナ」
「え?」
「セレナでいいわ、敬語もやめて。その代わり私もジークって呼ぶわね」
急に呼び捨てで、しかも敬語も不要だと言ってきた。
「でも………」
「いいのよ、それに私ジークと同い年だもの」
「え!?ほんとに!?」
まさかのセレナさ___セレナは俺と同じで15歳だった。
驚きのあまり、大声を出してしまう。
「ええ、そんなに老けて見えるかしら?」
「い、いやそういう訳じゃないんだけど」
てっきりこの見た目でエルフだから、かなり歳が離れているもんだと思っていた。
「………その色々言ってしまってごめんなさい。
こ、これから仲良くしてくれると助かるわ」
「ああ!これからもよろしくな!セレナ!」
もう一度俺は手を差し出した。
「こちらこそよろしく!ジーク!」
そう言って俺の手を取り、セレナは微笑む。
昇ってきた朝日に照らされながら彼女は言う。
「私ね、弱い人は嫌いだけれど、努力する人は好きよ」
俺はこの時のセレナの笑顔を忘れることはないと思う。
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