第9話 心当たり

 翌朝、起きると異変を感じた。眠たい目を擦りながら、隣を見ると、銀髪の天使____もといシルが寝息を立てながら、眠っていた。


「なんだ……シルか………」


 ん?シル?

 はぁぁぁ!?なんで!?俺の布団の中にシルがいるんだ!?思い出せ!思い出せ、俺!


 俺が絶賛ベッドの上で葛藤している中、シルが目を覚ました。


「ん……んん〜……あぁ、じーくだぁ〜、えへへ〜むぎゅぅぅ」


 まだ寝ぼけているのか、夢でも見ているのか、隣にいる俺を見つけるとシルは、むぎゅっと抱きついてきた。

 昨日は暖かかったからか、シルの服装はワンピースタイプのもので、シルの腕や太もものシルクのような柔肌が直に感じられる。

 このままでは俺の精神衛生上よろしくない。


「シル!動けないから離してくれ!」


「んぅ……むにゃ?もうぅ〜あばれないのぉ、よしよし〜」


「ちょ、ちょっとシル!寝ぼけてないで起きろ!」


「……ん〜……ふわぁ〜あ、おはよう!ジーク!」


「お、おはよう…………じゃなくて!なんで、俺と同じベッドで寝てたんだ!?」


「え?夜中にジークの布団に潜り込んだだけだけど?」


 は?なんでこいつは、さも当たり前のように言ってるんだ!?


「そんなことより、早く下りようよ。私、お腹空いちゃった」


「う、うん……」


♢ ♢ ♢


 結局、シルに流されてしまった俺は、父さんと母さんも一緒に朝食を取っていた。


「そういえばジーク。お前たち、これからどうするんだ?」


 父さんにこの先の事を聞かれ、俺とシルは、黙ってしまう。

 俺は、冒険者になりたいけど、この魔力値じゃろくに戦うことも出来ない。

 それどころかシルに迷惑をかけてしまう。

 そんな俺の意図を察したのか父さんがこう切り出してきた。


「父さんに一つ心当たりがあるんだが……」


「心当たり?」


「ああ、父さんの古い友人なんだが、ジークみたいに微量の魔力しかないんだが、魔力操作が上手くてな。そいつに教えを請うことが出来れば、ジークでも戦うことができるかもしれない」


「本当に!?」


「ああ、しかしそいつが少々めんどくさい奴でな、素直に教えてくれるかどうか………。それでも、行くか?」


 俺は少し考え、そして決意する。


「それでも、俺は行きたい。父さん、どこに行けばいい?」


「お前なら、そう言うと思ったよ………。

 アトレアの森の奥に小さな小屋がある。そこに行け。俺の紹介と言えば、話くらいは、聞いてくれるだろう」


「わかった。ありがとう、父さん」


「いいさ。それより頑張れよ」

「頑張ってね、ジーク」


「うん、頑張るよ!父さんと母さんみたいな立派な冒険者になるために!」


 俺の言葉に2人は微笑みながらゆっくりと頷いた。応援してくれている2人に改めて感謝しながら、俺はシルを見た。


「ごめん、シル。シルの意見も聞かずに勝手に決めちゃって………」


「別にいいよ。私は、ジークと一緒ならそれでいいの」


「シル…………!」


 シルの言葉に感動していると、父さんと母さんがにやにやしながら、こちらを見ている。


「いやいや、お熱いねぇ〜〜」

「シルちゃん、ジークをよろしくねぇ〜〜」


「はい!任せてください!」


 なんだろう……すごく恥ずかしい……。


♢ ♢ ♢


 最後まで父さんと母さんのにやついた視線を受けながら、俺とシルは、アトレアの森を目指して出発した。


「えへへ〜ジークゥ〜〜」


「こ、こら、やめろって!」


 さっきの一件があってから、こうしてシルが甘えてくる。

 嫌では、ないんだけど………その……胸が…………。

 決して小さくない、むしろ大きい方に入るくらいのがさっきから無意識なのか、わざとなのか俺の腕に当たっている。

 そのせいで、シルの顔を直視できないでいた。


「ねぇ、ジークってば!もう!なんでこっち向いてくれないの!」


「そ、そうは言ってもだな……。健全な男子には、この状況は、中々つらいものがあるんだよ………」


「へ?どういうこと?」


「いえ……なんでもありません……」


「??変なジーク」


 俺は、この時シルがこういう事に関心が無くて心底良かったと思った。

 そうこうしている内に、父さんの言っていた小屋が見えてきた。

 周りには、この森で1番大きいのではないかというような立派な大木が生えており、光が差し込むことで神秘的な雰囲気を醸し出している。


「わぁ、、、!なんか不思議なところだね!

 ジークのお父さんが言ってた場所って、あそこかな?」


「多分な。とにかく行ってみよう」


「うん!」


 絶対に戦い方を教えてもらうんだという決意を胸に俺とシルは、小屋に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る