第23話 後編06 那須与一②

「すると信太朗は俺より4つ上か。若様と俺は同い年だから……、信太朗と若様は4つ違いか。」




 与一は、当たり前のことをつぶやく。


 那須神田城を出て3日目。ようやく3人旅にも慣れてきた。




「何が言いたいのです、与一。」




「いや若様。信太朗と若様は契りを交わしてるのでしょう。ちょうどいい年の差だなって。でも俺は年上の方がいいな。なんかちょっとあこがれるなぁ。」




 敦ちゃんの顔が赤く染まる。




「ち、契りって……与一!信太朗様と私は、別に……まだそういう関係では……ないぞ」




「え!?そうなのか?……信太朗、こんなきれいな若様とずっと一緒にいて、何もしてないの?」




「何もって、そう、そういうんじゃないんだ。俺は、敦ちゃんの運命を変えちゃった責任を取らなくちゃで……。」




「うん?まあいいや。それよりこの前の、またもらえるかい信太朗。」




 俺はリュックから茶色の小瓶を取り出すと、与一に渡す。


 与一は、瓶のキャップをキュッと外すと、中の液体を一気に胃に飲み干した。




「ぷはー。効くね。元気になった気がするわ。」




 俺は持ってきた栄養ドリンクの分量を確認する。




「与一殿。この秘薬は効果が長いのでそんなに何本も飲む必要はありませんよ。」




「殿って……与一でいいよ。信太朗の方が年上だろ。それにしてもこの秘薬を飲めば、俺の寿命も延びるんだろう。信太朗は時々秘薬を俺に飲ませる。その代わり俺は若様の手助けをする。俺は長生きがしたいんだ。それでいいんだろ。」




「ああ、私は源義経を討ち、平家一族を滅亡から救いたい。それにはお前の弓の腕が必要なんだ。」




「御意!なんか楽しくなってきた。それに平家が勝てば兄上たちも喜ぶだろうしな。」




 与一の思考は単純だ。


 本当に家督とか領地には興味がなく、長生きして刺激的な人生を送りたいようだ。




 平家物語のイメージとちょっと違うような気がする。




「それで、信太朗、若様。まずはどこへいくんだっけ。熊谷直実殿のところへ戻るんだっけ?」




 3日前にあれだけ説明したのに、もう忘れている。




「与一殿。我らの次の目的は相模国です。そこに住むある兄弟を仲間に引き込みます。」




「与一でいいってのに。まったく信太朗は固いなあ。」




「信太朗様は礼儀を重んじるお方なのです。私だって、敦ちゃんと呼んでもらえるのに3月つきもかかりました。」




 別に俺は礼儀を重んじているわけではなくて、単に人見知りなだけなんだけど。


 敦ちゃんと与一は、もうすでに打ち解けていて、少し羨ましい……。




 まあいいか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る