第16話






 ユキナさんとマキナちゃんの二人と別れた僕は、家で一休みした後フィリアさんの家まで来ていた。例の召喚魔法らしき現象が戦闘中に起きたことを相談するためだ。



「それで相談というのはなんだ? というか体は大丈夫なのか? 戦いの経験も浅いのにワイルドベアの変異個体なんぞと出くわしたら無事じゃすまないと思うが。現にマキナは一日とはいえ入院するくらいダメージを受けたのだろう?」


「ええまあ、昨日は流石に疲労で戻ってきた後に眠り込んでしまいましたが、目を覚ました時にはしっかり疲労は抜けてましたね。ワイルドベアから受けた攻撃の影響も特にないです、痛みもないですし念のため先生にも診てもらいましたが攻撃を受けたとは思えないと言われました」


「随分回復力が高いみたいだが前からそうだったのか?」


「いえ、普段ウルフィンさんにしごかれたときは次の日に疲労が残っていたりしていたんですが、何故か今回は完全に回復したみたいです」


「まあ、無事でよかった。話を脱線させてしまったが相談というのは?」


「実はマキナちゃんが怪我をした原因の一つでもあるのですが、戦闘中に僕がこの世界に召喚されたのと同じような現象が起こりまして…」


「この世界に来たときのように謎の光に包まれたと?」


「はい、お恥ずかしい話ですがそれに気を取られてワイルドベアに襲われそうなところをマキナちゃんに庇われまして、僕が意識を逸らしたばかりにマキナちゃんに怪我をさせてしまいました」


「前回とは違ってお主一人だったのに召喚されそうだったということか」



 フィリアさんが考え込んでいる。確かに前回は三人の召喚に巻き込まれたのが原因だったが、今回は僕一人なのに召喚対象になっている。



「まず一つ考えられるのが、ガトランドがお主も召喚されていることに気が付いて呼び出そうとしているというものだが、おそらくこれは違う」


「なんでですか?」


「ガトランドにも毎回召喚されているのは三人だったと伝わっているはずだ。他にも召喚されているとは考えないだろうし、仮に例の三人にその場にお主も居たということを伝えていたとしても、ただ単に召喚対象ではなかったと考えるはずだ」


「なるほど、他に考えられる理由に心当たりはありませんか?」


「ある。私はおそらくこれが原因だと思うが、例の三人がガトランドから離れた場所にいて、何らかの理由で急遽呼び戻さなくてはならなくなったというものだ」


「呼び戻すための手段が召喚魔法だと?」


「そうだ。そして召喚対象を指定する内容が、おそらくお主等がいた世界からこの世界に召喚された者だったはずだ。本来なら例の三人だけが指定されるはずだが、この内容だと巻き込まれて召喚されたお主も当てはまる」


「もしかして今回も?」


「ああ、おそらく巻き込まれただけだ」


「困ったな、他の三人が召喚される度に同じ事になるってことですよね?」


「そうなるだろうな。それに少し気になる事がある」


「気になる事?」


「今回は前と違って通常の召喚魔法の筈だ。それならお主が召喚されなかったのはおかしい」


「僕もしっかり対象に入っているからですね」


「そうだ。召喚を邪魔する何かがあったはずだ」


「向こうで何かあったのでは?」


「確かにトラブルで召喚を失敗した可能性はあるが、その後すぐに再度召喚を試みる筈だ。急遽召喚しなければいけない理由がある筈だからな」


「つまり失敗しているのであれば、もう一度僕に同じ現象が起きていると?」


「召喚の兆候が一度しか無かったのならば他の三人については、成功していると考えるべきだ。お主が召喚されなかったのはお主自身に理由があるはずだ。何か心当たりはないのか?」


「心当たりといっても、召喚魔法が失敗する原因にどのようなものがあるのか分からないのでなんとも」


「召喚魔法や転移魔法のような長距離を移動する魔法は、魔素の精密な操作が必要だから、操作を阻害するような事があれば失敗する可能性が高まる」


「それなら異能が原因かもしれないです。魔素が僕の体に害を与えないように無意識にバリアを張っていたみたいなんです」


「魔素が害を与えるというのは?」


「ああ、お伝えしてなかったですね。どうやら僕がここに来た当初に死にかけていたのは、体が魔素に拒否反応を起こしていたのが原因だったみたいでして。魔素が無い世界の人間だからかもしれないですね」


「そうだったのか。とにかく魔素の影響を防いでいたというのなら召喚が失敗してもおかしくない。もしそれがなければ召喚されていただろうな」


「今後も同じようなことが起きるのは困りますね。どうにかして召喚対象からはずれる方法はありませんか?」


「召喚魔法の詳細が分からなければどうしようもできないな。もし分かればそれ用の道具を作ってやることもできると思うが」


「詳細を調べる方法に心当たりはありませんか?」


「ガトランドの城の書庫に情報があるかもしれないな。後は異世界に干渉する魔法はどれも古代魔法の一種だから、考古学者が情報を持っていたり、古代遺跡にも可能性はあるな。だがそれを知ってどうする?」


「この状況が続くのは少し困るので調べてみようかと」


「具体的には?」


「ガトランドに向かいつつ、情報がありそうなところを当たってみます」


「とりあえず今日明日にすぐ出立するというのはやめておけ。ウルフィンの奴に旅の仕方やら街での注意などを教わってからにしろ」


「わかりました。色々相談に乗っていただいてありがとうございます」


「なに気にするな。出立の日取りが決まったら教えてくれ」


「はい。わかりました」



 今回のようなことを起こさないためにも召喚魔法をどうにかしなくては、まずは明日ウルフィンさんに相談しに行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る