第5章92話:試合開始
神埼『観客席と会場を隔てる境界には、透明の魔法壁を設置しています。上級ダンジョンの魔物素材から製作した魔法壁であり、たいていの攻撃には耐えられます。それを3枚も重ねて設置しているため、戦闘の余波が観客席にまで及んでしまうことはありません。ご安心ください!』
神埼『では、長々と説明するのはこれぐらいにして、そろそろ開始いたしましょう!』
神埼『第1試合は、皆様もご存知の通り、篠山メイ選手vsルミ選手の対戦でございます!』
神埼『ピストルを合図に開始しますので、みなさん、どうかご静粛に!』
実況がそこで言葉を切る。
静粛に、という指示通り、観客たちの歓声も静まっていった。
ピストルを持った審判らしきスタッフが、ステージの端に立っている。
いよいよ始まる……!
審判が、宣言した。
「これより第1試合を開始する。双方、準備はいいか?」
メイがうなずく。
ルミがうなずく。
審判は、うなずいた。
「では――――はじめ!」
ズパァン……!
と。
ピストルが空に発砲された。
高らかな開始の合図。
「……ッ!」
開始とともに。
ルミは地を蹴って踏み込んだ。
ルミが手に握っているのは、試合用の剣。
いつもの愛剣リーンソードではない。
慣れない剣だ。
しかし、握り心地は悪くない。
(刃が抜かれているなら、実質、打撃武器として使用すればいいということですね)
ルミをそう考えた。
ルミは、母から『人間相手に全力で戦うな』と教えられている。
しかし、今回は、全力で戦っても相手のHPが必ず1残るのだ。
思う存分、戦える!
とはいえ……
最初から実力を全て明かしてしまうのは良くない。
とりあえず本気の半分ぐらいの力で、まずは小手調べといかせてもらおう。
ルミはメイへ袈裟斬りに斬りかかる。
入れるフェイントは3回。
「……!?」
ルミの攻撃が、メイの防御をかいくぐって、その身体に直撃する。
さて、メイはどの程度耐えられ――――
と、思っていたら。
「がはっ!?」
メイの身体が思いきり吹っ飛んでいった。
地面をもんどり打つ。
そのまま倒れふすメイ。
……。
……。
……え?
あれ?
メイさん動かないよ?
そのとき。
ビーと警報が鳴った。
なに、この警報音?
もしかして、説明にあったバイタルブザー……?
どちらかのHPが1になったら、危険を報せるために鳴らしてくれるという、命の警報機。
え。
これ、勝った感じ?
そのとき実況が叫んだ。
神埼『な、なんということでしょう!!』
神埼『一撃! まさに一撃です! ルミ選手、なんとメイ選手を一撃で倒してしまいました!』
次の瞬間。
会場から、爆発するような歓声が上がった。
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