第20話 影の旅立ち

 湊月は店を消すとそこから出る。そして、再び誰も見ていないところでシャドウへと戻り月華団の元へと戻った。


「待たせたな」


「シャドウ、どこに?」


「移動用の車両を用意した。少し狭いかもしれないが、30人位は乗れる車だ。誰か車を運転できる者はいるか?」


「基本的に玲香以外ほとんど成人だ。車は運転出来る」


「そうか、なら、俺も含め交代しながら運転していこう。とりあえず車の場所まで移動するぞ」


 湊月はそう言って車の元まで移動しようとする。しかし、車があるのは人通りが多い場所だ。


「いや、ダメだな」


 湊月はそうつぶやくと地図を取りだして指を指す。そして、言った。


「ここに移動してくれ。そこまで車を移動させる」


 湊月はそう言って移動し始めた。月華団も言われた場所に向けて移動を始めた。そして、それから30分後、月華団は湊月が持ってきた車を見て言葉を失う。


「こ、これって……」


「ある意味キャンピングカーだな。少し目立つが問題はあるまい」


 湊月はそう言って中に入るための扉の鍵を開ける。その車の外見は本当にキャンピングカーのようだった。しかし、大きさが違う。窓も着いていない。傍から見ればただのでかいトラックだ。


 月華団の全員は中に乗り込んだ。すると、中はかなり豪華だった。反逆軍レジスタンスの基地と言われれば納得してしまうほど装飾が似合っている。


「一応この車には自動運転オートドライブ機能オプションが搭載されている。だが、やはり誰かが運転しておいた方が安全だ。悪いが自動運転オートドライブの電源は切らせてもらった」


「いや、構わない。最初は俺が運転する」


 そう言って山並が運転席へと向かい座席に座る。そして、運転を始めた。


 その間月華団の全員ははしゃぎながら色々な部屋を見ていく。だが、さすがにそれほど多くの部屋は無いみたいだ。団体での寝泊まりはあまり向いていない。


 まぁ、夜に寝てたらムスペルヘイムから襲われる可能性があるから無理なのだがな。


 湊月はそんなことを思いながら地図を取り出した。そして、道を見る。さらに、メディアを活用して道路情報を確認した。たとえどれだけすごい設備を搭載した車と言えど、渋滞に巻き込まれれば到着が遅くなる。


 今この世界において時間は貴重だ。少しでも時間を稼いでおきたい。だから、なるべく最短最速で迎えるようにするのだ。


「……山並、高速道路には乗るな。検問がされている」


「分かった。とりあえず下道を進むよ」


 そう言って宵闇の月華団は愛知県をめざし始めた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……一方その頃愛知県では……


「おい!早く逃げろ!」


「山の上に登れ!」


「クソォ!なんでいつらが!?」


 日本人がそんなことを叫びながら山の上まで逃げていた。


 ここは、愛知県にある茶臼山。今ここでは日本軍とムスペルヘイム軍の激しい抗争が起こっていた。


 どうやら愛知県を占拠しに来たムスペルヘイムに反発した日本軍がきっかけでこの戦いが始まったらしい。


 そして、この戦いが始まって既に1週間は経過している。途中で日本軍が降参しそうになったが、どうやらシャドウの出現で再び気力を取り戻したみたいだ。


 しかし、たとえ気力を取り戻してもその戦力差は歴然。既に勝ち目などない。それがわかっているからこそムスペルヘイムの指揮官も下手に手出しはしない。まるで日本人を動物園の動物としか思っていない。


「クソッ!七星剣はまだ帰ってこんのか!?」


「福岡支部からの報告によりますと、既にこちらに向かっているようです。恐らくあと4時間半もすれば到着かと……」


「それまで何としてもたえぬけ!籠城作戦開始だ!」


 日本軍の指揮官はそう言って日本軍全員に退避命令を出した。そして、巨大な壁を作り籠城作戦を開始する。


「ふふふ、愚かな人達。ま、可愛がってあげましょ。皆さん!少しずつ追い詰めるのですよ!全方位を囲ってくださいまし!」


 ムスペルヘイムの指揮官もそう言ってイガルクで東谷山を包囲する。そして、本格的に日本軍の逃げ場はなくなってしまった。


 日本軍はそれを見て唸り声を上げた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そして、再び場所は変わって湊月達は……


「それでは作戦を伝える」


「作戦?何のですか?」


「名古屋についてからの作戦だ。我々はこれから名古屋の茶臼山へと向かう。そこに日本軍名古屋支部があるからな。だが、恐らくそこはまだ戦場だろう」


「「「っ!?」」」


「じゃあ!戦場に突っ込んでいくって言うのですか!?」


「そういうことだ。そもそも、お前達がこのタイミングで反乱を起こしたのも訳があるのだろ?そして、その理由が名古屋で徹底抗戦が激しくなったからだ。違うか?」


 湊月のその言葉にその場の全員が言葉を失う。なんせ、今湊月が言ったことは全て図星なのだから。


「何でそんなに分かんだよ?」


 琴鐘が湊月にそう聞く。そんな問い掛けに湊月は言った。


「簡単な話だ。名古屋で激戦になればそちらに戦力が割かれる。そうなれば東京の兵士たちは減るだろ。それを狙えばこちらが少数でも勝ち目はある。フッ、初歩的な事だな」


 湊月はそう言って笑う。そして、続けて話した。


「だが、逆に言えば今名古屋は戦力が集中しているわけだ。そこで戦果をげれば世界は月華団を認めざるを得なくなる。それに、日本人の中に入りたいという人も増えてくるだろう」


「でも、もしかしたらやられる可能性もあるってことですよね?」


 玲香は心配そうな顔でそう聞いてきた。湊月は画面越しにその顔を見ながら言う。


「当然な。だが、そうならないために策を練るのだ」


 湊月はそう言ってコマのようなものを取りだして地図の上に置く。その場の全員はそれを見て少し疑心暗鬼になりながらも自然とその話に耳を貸した。


 そして、湊月は作戦を全員に伝える。その場の全員はその作戦を聞いて少し驚きながらも受け入れた。


「では、各自準備をしておいてくれ」


 湊月はそう言ってコマと地図を片付けると、懐からハンドガンを取り出し弾を補充し始めた。それを見た他のみんなも準備を始める。


 湊月は懐から3つのハンドガンを取りだし弾の装填を完了させると4つめを取りだした。しかし、それは弾を補充させず分解し始める。


「シャドウ、何をしてらっしゃるのですか?」


 玲香が湊月のそんな姿を見て聞いてきた。


「今回は相手が相手だからな。通常の武器では相手にならない。それをこの前知ってな。少しでも強くしておいた方がいい」


 湊月はそう言って剣を取り出すと、分解したハンドガンの一部を剣に取り付けていく。全員はその姿をただ見つめるだけだった。

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