第1話 反逆者の目覚め

 俺の名前は星影ほしがけ湊月みつき。日本人……いや、ルーザーだ。俺達日本は、あの日ムスペルヘイムに負けてからセカンドロケーションと呼ばれるようになった。そして、ルーザーという言葉で呼ばれ名前を奪われ、虐げられた。


 そして、それは湊月も例外ではなかった。彼はレイムヴェルト学院と言う学校に通っているが、絶賛いじめられ中だ。


 だが、それもそのはずなのだ。彼の通っている学校はムスペルヘイム人の通う学校だから。


 元々、その学校は共鳴きょうめい高校と呼ばれる学校に通っていたのだが、ムスペルヘイムに侵略された時にレイムヴェルト学院と改名された。


 当然通っていた日本人のほとんどは転校したのだが、湊月は家が貧しかったため、転校出来なかった。そして、それが最初の失敗だった。


 俺には親がいない。初めはいたのだが、高校入学時にムスペルヘイム人から殺された。この高校に入学する条件だとか言われてな。


 なんとも理不尽なことだろうか。その時俺は悲しかった。ほとんどの日本人は悲しみに打ちひしがれ絶望した。そして、対抗心を抱くものなど消えた。


 それからは酷かった。毎日日本人に対するいじめがある。教科書が無くなるなんてざらな事だ。だが、必ず次の日に帰ってくる。それも、ビリビリに破られて。


 下駄箱なんて使わない。どうせ開けたら悪口が書かれているからな。机ももう洗わない。初めから黒ければ書くことは出来ない。


 俺達はいつしか、対策なんてものもする気がなくなり、虐められるのを受け入れてしまった。


「おっとぉー!あぶねぇなー!」


 湊月が教室に入った途端そんな声が聞こえてきた。そして、人の手で投げることは不可能なほど重たい鉄球が飛んできた。


 湊月はその鉄球を何とか防ぐ。しかし、後ろに飛ばされる。だが、これもいつも通りだ。


「悪い悪い、たまたま異能フォースが発動しちまってよ!な!ギャハハハハハ!」


 そんなことを言って気色の悪い声を出して笑う。


 クソが……


「ん?なんだその目はぁ?気に食わねぇのか?ん?」


 湊月は何も言わずに立ち上がる。そして、何事もないかのように教室に入り、机に着いた。


「おーい、授業始めるぞー」


 そう言ってムスペルヘイム人の教員が入ってきて授業が始まった。


(……クソが……死ねよ。こんな授業も無駄だ。どうせまた俺にだけめんどくさい問題を出してくる)


「おい!ルーザー!お前がこれを解け!」


 そう言って高校2年生では到底解けないような問題を投げてきた。湊月はそれを見て難なく解く。


 だいたいこういう時の流れはこうだ。俺がその問題が解けないから殴っていたぶる。他の日本人は皆そんなことをされている。


 だが、なぜこういうことが出来るのか不思議だろう。それには理由がある。


 まず、この学校はムスペルヘイム人の貴族が買い取った学校だからだ。この学校の名前、レイムヴェルトと言う人が買った。


 最初に俺に鉄球を投げてきたやつがいるだろ。あいつがレイムヴェルトだ。


 彼の名前はテレス・レイムヴェルト。異能フォースは念動力だ。なんでも持てる。


 ……そうだ。さっきから異能フォースのことを言っていたが、まだ説明してなかったな。


 異能フォースと言うのはムスペルヘイム人にのみ使える謎の力だ。アメリカはそれで負けた。日本も同様だ。


(ふざけるなよ……!俺達には自由なんかないなんて……!)


 キーンコーンカーンコーン……


 授業の終わりのチャイムがなった。これでまた1つ地獄を抜け出すことが出来た。さて、今日も屋上で時間を過ごすか……


「申し訳ありません!申し訳ありません!お許しを!」


「黙れ!貴様に慈悲など与えん!貴様には俺達はの宿題をやれと言っているのになぜ出来てないんだ!?貴様など使い物にならん!裸にして校庭に立たせておけ!その後俺がおもちゃにしてやるよ」


「ひっ!お、お許しを!次はちゃんとしますから!お許しを!」


「うるさい!」


 そう言ってテレスが女性を殴っているのをたまたま見てしまった。この学校ではそんなことはざらなのだが、何故かその子に目がいってしまった。


 あ、そうか。彼女は初めてなんだ。だからあんなに泣いているのか。関係ない。関わるなんて愚かだ。


 だが、何故か足が動かない。何故かその場から離れようと出来ない。


「……」


 湊月は静かに振り返りその子を見つめた。既に服を脱がされている。よく見れば、体中に傷がある。


 そう言えば、彼女は1年生。高校で虐められるのが初めてだが、中学では散々やられたのだろう。だが、まだ初めては取られて無さそうだ。


 なんせ、彼女はかなりお知りが赤い。と言うが、リンゴより赤い。だいぶやられたようだ。


「……フッ……」


 湊月は小さく笑うとその女の子の前に立って庇うような仕草をした。


「やめろ。クズが……っ!?」


 バリィィィィン!


 という音がした。そして、気がついたら自分は校舎の外にいる。自分がいた場所は3階、そして3階の窓が割れていることから俺は殴り飛ばされて3階から落ちたらしい。たまたま木があったから助かったが、なかったら大怪我だ。


「いて……っ!?」


 突如、体が浮いた。どうやらテレスが念力を使っているらしい。自分の体が3階まで上がる。すると、テレスがいた。テレスは俺の顔を見ると直ぐに殴り飛ばしてくる。そのせいで校庭の真ん中まで殴り飛ばされてしまった。


「おいおい!死んでしまうぜ!」


「へっ!別に構わねえさ!これで死んだら面白いがな!」


 そんな会話が聞こえてくる。そして、その数秒後に彼女がとんでもない姿になって投げ飛ばされてきた。


 その姿とは、鼻フックに紐が連結されており、お尻の方にそれは続いていて、お尻の方にも鉄のフックのようなものが着いているのが見えた。1種の拷問道具だ。


「うぅ……なんで、こんな目にあわないといけないの……」


 彼女はそう言って泣く。湊月はそれを聞いて絶望に打ちひしがれながら空を見上げた。


 本当になぜこんな目に合わなければならないのだろうか。逆に、どうやったら合わなくて済むのか。


 そうだ力だ。力さえあれば。この現状を打破し、日本人を奮い立たせ、ムスペルヘイム人を殺せる力があればいいんだ。


「っ!?」


 その時、校庭の隅っこで何か黒いものが動いた気がした。もしかしたら見当違いかもしれないが、何となくそんな気がした。


「おいおい、寝てないで早く来いよ。じゃねぇと楽しくねぇだろ」


 テレスが来ていた。どうやら俺も死ぬ時が来たらしい。ここまでの人生なようだ。


「母さん……ごめん……今すぐそっちに行くよ」


 そう呟いた時、それは起こった。


 なんと、時が止まっているのだ。周りの人は皆固まっている。そして、目の前にゆるキャラのような可愛い何かが現れた。それは、全身真っ黒で人型の人形のようだ。体のサイズはそれほど大きくなく、肩に乗りそうなくらい。そして、角と尻尾に羽まで生えている。何かで例えるとしたら、小さな悪魔だ。


「君は一体……?」


「僕はシェイド。君達で言うところの、妖精とか悪魔とかそういう感じの。まぁ、どちらかと言うと悪魔だけどね。そんなことより……やっとその気になってくれたね。そんな君に1つ提案をするよ。力は欲しくないかい?今の現状を打破するような力は?」


 そう言ってそのシェイドと名乗るゆるキャラは聞いてきた。


 力……この現状を打破するような力……


「欲しい……今の俺には力が必要だ!くれ!」


「よし決まりだ!じゃあこれで僕と仲間だね。よろしく」


「よろしく」


 そう言って2人は手を繋いだ。すると、時間が戻る。


「……」


「っ!?いつの間に……!?まぁいい、お前はいつ立っていいと言った?」


「……」


「おい、なんか言えよ!」


「……愚かな。とりあえずさ、死ねよ」


 湊月はそう言って手を手刀のようにして右上から左下までなぞるように切った。すると、テレスの左肩から右脇腹まで切り裂かれる。


「うわぁぁぁぁぁ!」


「騒ぐな。雑魚が」


 湊月はそう言ってテレスを見下した。

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