第20話 打ち上げだー!
撮影がすべて終わり、スタジオの照明が落とされる。
オモチが前足を叩いて宣言した。
「これにて、撮影完了ニャーッ!!」
「お疲れさまー!」
歓声が上がり、スタジオに拍手が響く。
長時間の撮影を終えた彼女たちは、達成感と安堵に包まれていた。
「ふぅ……ようやく終わったわね」
知花がメガネを外して目頭を押さえる。
「初日でこれだけ撮れたなら上出来よ」
「そうだね。じゃあ、打ち上げしよっか!」
奏が提案すると、みんなの顔がぱっと明るくなった。
「ビルのパーティルーム、使っていいんだよね?」
「もちろんニャ! 今夜はパーティニャー!」
だが、すぐに現実的な問題が浮上する。
「……お菓子もジュースも何もないわね」
「買い出し行こうか」
奏、陽葵、麗華の三人が買い出し班として外出。
残った雫、知花、オモチはスタジオの隅で撮影データのチェックと編集作業を始めた。
「さて、ここからが本番ニャ。編集タイム開始ニャ!」
「スマホでやるの?」
「そうニャ。PCが届くのは明日以降ニャ。今日は仮編集ニャ」
知花が編集アプリを開き、雫が隣で映像を確認する。
「このカット、もう少しテンポ上げようか」
「うん、ここでオモチちゃんの動きをアップにして……」
「了解ニャ。ここのBGMは努力と友情っぽい曲にするニャ!」
言いながら、オモチは音楽ライブラリをスクロールしてキラキラ☆奮闘という謎のタイトルを選ぶ。
「うわ、タイトルがダサい……でも意外と合ってるね」
フリーBGMの名前を聞いて雫が笑った。
知花も口元を緩めながら言う。
「やっぱり、あの元気キャラの映像にはこういうのが似合うわね」
三人と一匹が画面に集中する中、反対側の部屋では一輝が完全に別次元の戦いをしていた。
「いっくよー! トランプタワー競争ーっ!」
「お、おう……そ、それ何段目まで積むんだ?」
「十段だよ!」
望海が真剣な顔でカードを並べていく。
一輝は額に汗を浮かべながら慎重に手を動かした。
「(……俺、何してんだろうな)」
元異世界の支配者、現在は望海の遊び相手兼雑用係。
彼は苦笑しながら、改めて現代社会の難しさを噛み締めていた。
何せスマホすらまともに使えないのだ。
「一輝さん、動画編集できないの?」
隣の部屋から雫が声をかける。
「いや、スマホが生まれた頃、俺はクロスルビアにいたからな」
「……そうだった」
望海がトランプを手にして笑う。
「じゃあ、おじさん、アナログ担当だね!」
「お、おじさんじゃないからね? まだお兄さんだからね?」
「年齢的にはもうおじさんニャ!」
「やかましい!」
その声に編集班の三人が吹き出した。
笑い声が響き、部屋に柔らかな空気が流れる。
ほどなくして、買い出し班が戻ってくる。
「ただいまー! いっぱい買ってきたよ!」
「ポテチ、ジュース、チョコにケーキもあるニャ!」
テーブルいっぱいに並ぶお菓子を前に全員のテンションが上がる。
「じゃあ、改めて、お疲れ様!」
「お疲れ様ー!!」
紙コップを掲げ、炭酸ジュースの泡が弾ける音が響いた。
笑い声、談笑、そして時折挟まるしょうもない冗談。
打ち上げはわいわいとした笑い声に包まれていた。
「ねぇねぇ、そろそろ例の映像、見てみようよ!」
陽葵がポテチを頬張りながら言うとオモチが尻尾をぴんと立てた。
「よくぞ言ったニャ! 仮編集版の上映会、開幕ニャー!」
会議室の壁に備え付けられたスクリーンが下り、照明が落ちる。
雫がスマホをプロジェクターに接続し、編集済みの動画を再生した。
画面には元気いっぱいの陽葵が、何度も噛んでやり直したあの自己紹介。
次に、ガチガチに緊張していた知花の面接風あいさつ。
そして、穏やかな笑みで手を振る麗華。
「ひ、ひゃあああああ! 私、声裏返ってるじゃん!」
「わ、私はなんでこんなに直立不動なの……!?」
陽葵と知花が同時に悲鳴を上げる。
その隣で奏と雫がケラケラと笑っていた。
「いやぁ、でも知花ちゃんの会社面接モードは逆にアリだと思うよ!」
「ほんとほんと、真面目キャラとして完璧!」
「そ、そんな褒め方ある!?」
次に流れたのは、麗華のシーン。
彼女が優雅にお辞儀をしながら「御園麗華です。これからよろしくお願いします」と微笑む。
「わぁ……麗華ちゃん、すごい。まるでCMみたい」
「流石はお嬢様だニャ。映えるニャ~」
麗華は少し照れくさそうに髪を触り、「編集の力ですね」と笑った。
そして、トリの星乃姉妹。
カメラの前でカプセルを取り出し、その中から一輝が現れる演出。
オモチの全力ダンスと、ユニコーン講座が流れた瞬間――
「ちょ、やめて! これ、何回見ても笑うから!」
「うにゃーっ、我が輩の華麗なるパフォーマンスを見るニャー!」
「華麗……というか、カオスよね」
全員が笑い転げ、部屋中が楽しげな笑い声で満たされた。
映像が終わり、スクリーンが暗転する。
雫がリモコンを手に振り返った。
「どうだった?」
「最高! もう、なんか……ほんとに始まるんだなって感じがする」
「私たちのチーム、ちゃんと形になってる」
「編集もすごいわ。スマホでここまでやるなんて驚いた」
知花とオモチは顔を見合わせ、得意げに胸を張る。
「我が輩たち、なかなかの編集センスニャ!」
「まあね。努力と根性でなんとかしたわ」
その様子を眺めながら、一輝は静かに笑った。
「……いいね、こういうの」
時はゆっくりと流れていく。
笑い合い、語り合い、夢を語る。
そんな時間が続いた。
最初の打ち上げは笑顔と希望に包まれたまま幕を閉じた。
新しくできたこの会社での最初の仕事。
彼女たちの物語は本格的に動き出すのだった。
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