第2話 センチメンタルなの……
「とりあえず、地上を目指すでOK?」
「はい。まずは地上に出ないとどうにもなりませんから」
「よし、オモチよ。転移ゲートなるものを探して来い」
「ご主人様は探せないのかニャ? 正式に契約したんだから身体に何か変化が起きてるはずニャ! 根拠はないけども調べてみるニャ!」
「む……。調べてみるか」
オモチの言葉に従って一輝は自身に何か変化が起きていないかを確かめる。
すると、先程まで使えなかった魔力が使えるようになっており、魔法の発動も可能になっていた。
「魔法も発動出来るな……」
正式に契約した事によってこの世界に魔力の干渉が行えるようになったのだろうと結論付けた。
「あ、あの……」
片手に火、水、風、土の四種の玉を浮かべて遊ばさせている一輝に対して、恐る恐る雫は声を掛けた。
「ん?」
「えっと、一輝さんは魔法使いなんですか?」
「う~ん、説明が難しいな。魔法は使えるけど魔法使いじゃないんだよな。なんて言えばいいのかな~……」
腕を組み、頭を捻って悩んでいるようにうんうんと唸る一輝。
「ご主人様。魔法が使えるならさっさと転移ゲートとやらを探した方がいいニャ」
「そうだな。モンスターに見つかる前に転移ゲートとやらを探すか」
「あの、どうやって探すんですか?」
どのような魔法を使って転移ゲートを探すのか気になる雫は先程まであった恐怖心を忘れ、ワクワクと期待していた。
「人海戦術だ! カモン、オモチ!」
一輝が指パッチンすると空中に魔法陣が現れてオモチが召喚される。
しかも、一匹だけではない。
どんどん魔法陣からオモチが召喚され、やがて雫の前には数え切れないくらいのオモチがいた。
「い、一輝さん! これは?」
「こいつらはオモチ。まあ、実体は名状しがたき怪物なんだけど、今は俺の記憶を使って猫の形をしている使い魔だね。こいつらを使って転移ゲートを探そうと思う」
「ちなみに全部我が輩ニャ! 個にして全、全にして個!」
「へ、へ~、そうなんですね……」
言っている事はいまいち理解できないが目の前にいる多種多様な猫の形をしているオモチを雫はしゃがんでひょいっと持ち上げる。
本物の猫のように身体が伸び、ダラ~ンとしている姿を見て雫は頬が緩み、思わず顔を近づけた。
「はあ~……癒される~」
「そっちが素なんだね」
「あ、いや、これは……すいません」
「いや、謝らなくていいよ。いつまでも畏まったままでいられるとやり辛いし」
「そ、そうですよね。これからは気をつけます」
「ああ、いや、そういうことじゃなくてだな――」
「ご主人様! 転移ゲートは見つからなかったニャ!」
二人が話している途中でオモチが大きな声でそう告げた。
転移ゲートがないことを知った雫は落胆して肩を落とした。
「転移ゲートがないなんて……。じゃあ、ここは未攻略階層なんだ」
「悲観的になってるけど、ここから上に行けばいいんだよね?」
「え、あ、そうですね。上に行けばいいんですけど、さっきも言ったとおり、天井を壊すのはダメですよ?」
「それは分かってるって。つまり、普通に階段を使って上に行けばいいんでしょ?」
「はい。各階層には階段がありますので、普通はそれを利用して下りたり、上がったりするんです」
「オモチ! 階段は見たか?」
「階段なら見つけたニャ! そっちにするのかニャ?」
「そっちしかないからな。とりあえず、色々と聞きたいことはあるけど、ここから出るのが先だ」
「わかったニャ! 案内するニャ!」
一先ず、この場から立ち去るのが先決だということで一輝と雫はオモチの案内のもと、上の階層に続く階段へ向かった。
道中、現れるモンスターは一輝がワンパンし、オモチが死体を回収していく。
オモチがクリオネのように悍ましい姿になってモンスターの死体を回収している姿に雫は目を見開くが、死体を回収した後は可愛らしい猫の姿に戻るので気にしないで置くことにした。
「ところでご主人様のご主人様」
「えっと、私のことかな?」
「これはどうするニャ?」
いつの間にか二足歩行で雫の足元を歩いていたオモチは両手に先程、一輝が倒したモンスターの素材と魔石を持っていた。
「あ! ドロップ素材と魔石!」
オモチの持っている素材と魔石を見て雫は思わず大きな声を出してしまう。
「ビックリした~。いきなり大声出してどうしたんだ?」
「す、すいません。ドロップ素材と魔石を見て興奮しちゃって……」
「ドロップ素材? 魔石? それは一体……?」
「えっと、一旦地上に戻ってから詳しく説明しますね」
「聞きたいことがどんどん増えていくな~……」
知らないことがあまりにも多すぎて一輝はどんどん質問が増えていく。
地上に戻ったら小一時間くらいは雫に質問ばかりであろう。
「あ、階段が見えてきましたね」
雫が指を差す方向には上に向かう階段があった。
しかし、まだ安心は出来ない。
これから向かう先が安全だという保証はないのだ。
雫は今の階層と同じく未攻略階層でないことを願うばかり。
「へ~。普通の階段なんだな」
「そうですよ。特に何の変哲もない階段です。でも、あそこは
「安全地帯? なんで?」
「モンスターが侵入してこないんです。まあ、例外はあるんですけど」
「例外なんてあるんだ……」
「それも後で説明しますね」
階段を上がっていく一輝は上からも下からもモンスターが来ないことを知ると、本当にここが安全地帯なのだと理解する。
先程までは周囲を警戒しなければならなかったが、ここではその必要が無いため、ゆっくり休むことが出来る。
とはいえ、例外があると言っていたので完全に気を抜くことは出来ないのだろう。
「ここには転移ゲートあるのか?」
「それは探してみなければ分かりません……」
上の階層にやってきた一輝は雫に転移ゲートの有無を確かめるが、彼女も分からない為、探すしかないようだ。
「なかったら?」
「また階段を上がるしかありませんね……」
非常に面倒ではあるが、それしか道はないので我慢するしかない。
しかし、一輝は我慢出来る様な人間ではなく、雫へ一歩詰め寄った。
唐突に一輝が詰め寄ってくるものだから雫は警戒心を露わにして後ろへ下がる。
「あ、あの何か?」
「おんぶとお姫様抱っこと脇に抱えるのとどれがいい?」
いきなり訳のわからない質問をして来て頭に疑問符を浮かべる雫。
ジッと見つめてくる一輝に雫は答えないと話が進まないことを察し、三つの中から一番マシなものを選んだ。
「え、えっと……その中だったらおんぶがいいです」
「それじゃ、おんぶで行こう」
「え……?」
目の前でしゃがんだ一輝に雫は戸惑ったが、とりあえず言うことを聞いて、背中に乗った。
「よし、オモチ! 最上階まで全速力だ! 案内よろしく!」
「お任せニャ!」
「え、あの!?」
困惑している雫をよそにオモチが先頭にして一輝は走り出す。
「きゃあああああああああああああああッ!?」
背中で雫が絶叫を上げるがお構いなしに一輝は一階層を目指して走った。
一階に近づくにつれ、ちらほらと他の人とすれ違い、ゴールまであと少しだと判明し、一輝は少しだけ速度を上げた。
そして、すれ違う人数が多くなってるのを実感した一輝は速度を落として、背中で目を回している雫に話しかける。
「ねえねえ、結構人が増えてきたんだけどここが一階なのか?」
「きゅう~……」
「ご主人様。ご主人様のご主人様は完全にのびてるニャ。少し休憩した方がいいニャ」
「そうだな。そうするか」
一輝は適当な場所に雫を下ろして、側で目が覚めるまで見守った。
しばらくしてから雫が目を覚まし、ガバッと起き上がり、キョロキョロと周囲を見回す。
「あれ、ここは……一階層?」
「お、やっぱりここが一階層なんだ」
雫は見覚えのある光景に安堵する。
転移トラップで未攻略階層に飛ばされた時は絶望したが、こうして無事に戻ってこれた。
それも横にいる一輝のおかげだ。
彼がいなければ今頃、自分はモンスターの腹の中にいただろうと思うと、雫は感謝しかなかった。
「あの……改めてありがとうございます。一輝さんがいなかったら、きっと私は今頃この世にいませんでした」
「それを言うなら俺もだよ。君のおかげで日本に……そういえばここが俺の知る日本かどうかはまだ分からなかったな……」
言っている途中で気がついた一輝は神妙な顔をして天井を見上げた。
果たして、ここは自分の知っている日本なのかどうか。
それも地上に出れば分かることだろう。
あと少しで、それを知ることが出来る。
「……」
「ご主人様。我が輩がいるニャ」
「オモチ……。そうだな。ここが知らない日本でも今はお前がいるもんな」
物思いに耽っている一輝を励ますようにオモチが寄り添った。
一輝はクロスルビアで長い間、一緒だったオモチがいれば寂しくはないと微笑を浮かべるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます