寒い館の殺人

 真冬だった。その館は山の中腹にあり、吹雪にみまわれ、そして暖房設備が壊れていた。館にははじめ八人の人間がいたが、殺人事件が起こり七人となっていた。犯人はそのうちの誰かに違いなかったが、その誰かがはっきりとしなかった。七人の中には探偵と助手兼記録係だという二人組がいた。そして私もいた。出版関係の小さな会合があるとのことで招かれたのだ。行かなければよかった。ものすごく寒かったのである。

 探偵によると、殺人事件と暖房の故障は関係ないとのことだった。しかし寒かった。殺人犯に次に殺されるよりも凍死のほうが現実的に思えた。皆、火を焚いて囲んだり、飲み物などを温めて暖を取りなんとかしのいだ。誰かの髭に霜が降りていた。寒かった。

 いわゆる解決編も、全員が毛布や新聞をありったけ体に巻きつけてうずくまった格好で行われた。探偵は震えでろれつが回らず、聴く方も寒さで内容が頭に入ってこないし、反応する気も起こらない。息をすると痛いのだ。ほとんど失神しかけているときに犯人が指摘され、事件は幕を閉じた。犯人の目からシャーベット状の涙がこぼれていた。凍死者が出なかったのは奇跡である。とにかく寒かったのだ。

 後日、探偵に同行していた記録係が事件を題材に推理小説を書いた。本屋で手に取って読んでみると、暖房の故障やあのとてつもない寒さのことはひとつも書かれていない。私はなんだか納得できない気持ちだったが、たしかに殺人事件と寒さはなんの関係もなかったから、これでいいのだろうか。あんなに寒かったのに。

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