▼【第二十六話】 膝の上にいる。

「とりあえずそのゲームって言うのを見せてもらっても良いですか?」

 僕は自分の椅子に座り、一階から持ってきた椅子に遥さんを座らせて、パソコンを二人で見る。

「はい、にしても、平坂さんは誰なんだろう」

「茜は茜ですよ?」

 と遥さんは不思議そうな顔をする。

「ああ、いえ、皆、実名では遊んではいないので」

「そうなんですね、田沼さんは何て名前で遊んでいるんですか?」

「はんぺんです」

 と、僕は少し照れながら答える。

 なんだかとっても気恥ずかしい。

「はんぺん? 食べ物の?」

「はい、このゲームをやるときに、ちょうどおでんのを食べていたのでそのまま名前にしました」

「なるほど。はんぺん好きなんですか?」

 遥さんが僕の顔を覗き込みながら聞いてくる。

 僕はそれにドキッとしながら、そして、頬を染めるくらい照れながら、

「はい、好きです」

 と、色んな意味を込めてそう答える。

「はんぺんか…… はんぺん料理って何かありますかね?」

 彼女は僕を覗き込むのをやめて、少し考えるような仕草を見せる。

 僕はその姿に見惚れつつ、会話も楽しむ。

「はんぺん料理ですか? うーん、それこそおでんにいれたり、そのまま焼いたりじゃないですか?」

 ただ僕もはんぺんの料理とか思い浮かばない。

「そっか。あんまり手の込んだ料理はないんですね。今度田沼さんに作ってあげようと思ったのに」

 そう言って遥さんは思わせぶりな表情を僕に見せて来る。

「え?」

 手料理!? 遥さんの手料理!?

 それが、遥さんが本気で言っているのかどうか、僕にはやっぱり判断はつかない。

 けど、もし遥さんの、彼女の手料理を食べることができたならば、僕はきっと幸せなんだと思う。

 ん? 待てよ、これから二人で作るたこ焼きも遥さんの手料理と言えば、手料理じゃないか。

 なんだ、僕はやっぱり幸せ者だったんだな。

「あ、ほら、起動したんじゃないんですか、ゲーム見せてください」

「は、はい! これが僕がいつも遊んでいるゲームです」

 僕がマウスを持って操作しようとすると、遥さんが急に立ち上がり僕の上に座り込んで来た。

 あまりものことに思考が停止る。

 遥さんの髪から良い匂いがして、その髪が僕の顔を撫でて、背中からぬくもりを感じてしまうし、その、柔らかいお尻からも色々と感じてしまう。

 僕のマウスを持つ手に遥さんの手が重なる。

 急にこんなに密着されたら、僕はどうにかなってしまう。

 そんな僕をよそにゲームの画面を遥さんが操作する。

 そして、何かをチャット欄に打ち込んでいく。

 僕は茫然とその様子を見ている。

 何も考えることすらできない。

 な、なんだこれは、何が起きたんだ。


 なんで遥さんが僕の膝の上にいるんだ?

 

「茜! どこー!」

 と遥さんがそう言いつつ、チャットにも何かを打ち込んでいく。

 ギルドチャットが騒然とし始める。

 そこで僕も正気に戻る。

「あ、あの遥さん、なにをやってるんですか?」

「茜を探してるんですよ!」

 ゲーム画面を見ると個別チャットが飛んできている。

 個別チャットには、怒りまくったマッダーさんがなんか色々文句を言ってきている。

 文句の内容的にマッダーさんが平坂さんなのか?

 慌てて、僕は遥さんごしにキーボードを打つ。

 マッダーさんが平坂さんなのですか? と個別チャットで打つと、マッダーさんから、そうよ、遥もまだそこにいるの!? おねがい、止めて! と個別チャットが返って来た。

 チャットのタグを個別チャットにして、

「こ、このチャットなら平坂さんにしか聞こえません……」

 と、言ってゲームの操作を遥さんに返す。

 そして、この状況を僕は楽しみつつ、チャットを見守る。

 マッダーさんが平坂さんだったことは驚いたが、今の僕の状況には遠く及ばない。なにせ遥さんが僕の膝の上に座っているんだ。

 あなたが茜なの? と遥さんが文字を打つと、そうよ、と返事がすぐに返ってくる。

 遥さんは得意そうな顔をして、チャットを続ける。

 今、田沼さんの膝の上からこれ書いてるよ、と遥さんが文字を打つ。

 それを見て僕はこれ以上ない位顔を真っ赤にさせてしまう。

 それに対して、平坂さんは、いきなり本名を呼ぶな、とチャットで怒っている。

 僕の膝の上に遥さんがいることはスルーしたようだ。

 遥さんはそれに対して、茜が意地悪してこのゲームを教えてくれないからだよ、とチャットを返してる。

 さらに遥さんは追撃する。茜の彼氏はどれ? とも。

 え? 平坂さんの彼氏!? この中にいるのか!? し、知らなかった……

 ギルド内恋愛があったなんて僕は何も知らなかった……

 かなりの間があって、†堕天使ルイス・ファー†と答えが返って来た。

 ええ!? ルイス・ファーさんと平坂さんが…… た、確かにルイス・ファーさんとマッダーさんはいつも一緒にいたけど……

 二人とも中身は男だと思っていた……

 これは僕にとっても衝撃の事実だ。




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