第18話:流転

 何かが変わっていくのを感じていた。自分の中で自分の信じていた常識がずれていくのを感じて居た。じょじょにではあるがアスカの常識に引きずられていく自分が何だか現実に取り残されいくようで気持ちが悪かったのだ。最近やたらアスカの事を考える様になった。初めは、戸惑いから。そして、アスカの事や、今街や世界で起きている現実を知るにつれ、アスカと言うアンドロイドに興味を持ち始めていた。


 人の言葉を理解し会話を行い自立的に行動を起す事が出来る、夢の様なアンドロイド。今の人間の持つ科学技術の常識からすれば桁外れの性能を持つアンドロイドだ。それは、異星人によって作られた人形。それらを含めて、最近まで信じていた常識が崩れていくを感じて俺は、クスリを笑った。


「何? 不気味な笑い顔してんだよ」


と、そう声を掛けてきたのは、真田新だ。学校の授業の合間の休憩時間。教室の中で俺は、アスカの事を考えていたのだ。そして、クスリと笑った所を新に見られてしまった。


「何でもない。一寸、昨日の番組を思い出してただけだ」


と、適当な嘘をつくと新は、怪訝な表情を見せた。


「それより、燐。要の事、何か聞いてない?」

「いや、そう言えば……今日は、見かけてないな」

「今日は、来てないんだよ」


その新の言葉に要の席の方へ視線を移した。来てる気配は、無い。机の横に何時も掛けている鞄がないと言う事は、新の言う通り今日は、欠席と言う事だろう。





 夕方頃である。今日は、早めに帰って来た俺は、自室でくつろいで居た。ベットの上で横になり、読みかけの小説本を読んで居た。アスカがこの家で居候を始めてから、暫く読む暇がなっかったので久しぶりに小説の続きが気になりだしていたのだ。そんなところへ、母が珍しく扉のノックして入ってきた。


「ん? 母さん、どうしたんだ?」

「あのね。茜がまだ帰って来ないのよ。いつもなら、直ぐに帰ってくるのだけど」


母は、心配そうにそう告げた。時計の針を見れば、もう17:30を回っている所だった。母の言う通り、茜は、寄り道もせずに真っ直ぐに家に帰ってくるような奴だ。何時もなら、自分の部屋か居間で居るはずのだが今日に限ってまだ帰って居ないのだと言う。


「変だな……。母さん、茜の携帯は?」

「それが……電源切ってるみたいで」


母は、よほど心配なのか少し焦っているようだ。そう言えば昨日、井原要から電話があったのを俺は、思い出した。その後、茜と何か話をしていたはずだ。要に聞けば、何か知っているかもしれない。


「母さん、一寸待てよ」

俺は、自分の携帯をズボンのポケットから取り出して井原要の携帯に電話をかけた。


ピ・ピ・ピ……お掛けになった電話番号は…………。


「駄目だ。要も携帯の電源を切っているみたいだ」


俺の電話は、井原要に繋がらなかった。


「大丈夫かしら」


母がそう心配そうに言うので俺は、仕方なく口を開いた。


「ほって置いてもその内、戻って来ると思うが。一応探しに行ってくる」

「燐、お願いできる?」

「ああ。帰ってきたら、俺の携帯に電話をくれればいい」


俺は、ベッドから飛び起きて、部屋から出た。家の近くの近所、茜の通う中学校の周りで茜が立ち寄りそうな場所を探せば居るかもしれない。もっとも、探して居る間に茜が家に帰ってくる可能性は、高いはずだが。俺は、部屋を出て直ぐに居候のアスカの部屋に向かった。


「アスカ、居るのか?」


俺は、ノックもせずにアスカの部屋にズカズカと入って行く。アスカは、体育座りの格好で丸くなって部屋の角に存在していた。俺が部屋に入ってきたのを確認する様にアスカは、顔だけを上げて俺を見る。


「何してんだ?」


俺は、アスカの格好がまるで部屋の家具ようなモノとして存在しているような感覚にそんな声を上げた。


「何もして居ない。ただ、ここに存在しているだけだ」

「……暇そうだな」

「そうだな。これが暇と言うやつかもしれない」

「じゃあ、手伝え」


俺がそう言うとアスカは、少し首を傾げた。






 探せば見つかると思って居た。茜は、行動範囲がそれほど広い奴じゃない。いつも同じ場所に繰り返し行く習性がある。新しい事、慣れない事は、茜にとって恐怖の対象だった。だから、同じ事を毎日繰り返す。そんな茜だから、探すのは何時も簡単だった。しかし、今日に限って何処にも茜の姿は、無かった。あれから、2時間。腕時計の針は、19:30をさして居た。一度、家に電話を掛けたがまだ茜は、帰ってきていないと言う。茜の通学ルートに在る公園で俺は、違う場所に探しに行って居るアスカが戻ってくるのを待って居た。


「いったい、茜は、何処へ行ったんだ」


俺は、そう呟く。暫くして、アスカが俺の前に戻って来た。


「茜は?」


俺がそう訊くと、アスカは、首を左右にふった。


「燐、これだけ探して居ないと言うなら。我々は、見当違いの場所を探して居るのではないか?」

「見当違いだと?」

「ああ、我々が茜を探してきた場所は、茜が立ち寄りそうな場所・・なわけだが」

「そうだな」

「もし、茜自身の意志ではなく……別の誰かの意志で行動しているのなら、まったく別の場所に茜が存在している可能性が高い」

「つまり、茜は、誰かと一緒だと言うのか?」


俺がそう言うとアスカは、コクリと頷いて見せた。茜は、誰かと一緒に居る。そう考えれば、一番可能性が高いのは、昨日電話で茜と電話してた井原要であるが。しかし、それにしては、不自然だ。茜も要も携帯の電源を切っているのは、変だ。いや、まてよ……もしかして、電波の届かない場所に居るのか。そんな事を考えていると俺の携帯電話がブルルと震えた。携帯電話をポケットから取り出して開いて見ると、それは、一通の電子メールだった。


それは、胸の奥が捩れ、吐き気を催すほど、憤怒と憎悪をおぼえずには、居られない内容のメールだった。

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