5話 男装令嬢の憂鬱
結局、婚約についてどうするか決定的な結論は出ずじまいだった。
「このことは二人で追々決めよう。あまりにも情報過多すぎて今すぐどうこうできることじゃない」
ダリルにそう言われて、ニシャは頷くしかなかった。
◇
その日の夜。ニシャは湯船に浸かりながら1日の出来事を思い返していた。
まさか、あんなにも美しいカタリナが騎士仲間のダリルだったなんて。しかも、事故とはいえ胸を触られてしまった。
自分の胸をしげしげと見つめ、ため息をつく。どうせならもっと魅力的な胸だったらよかったのに。
ふと、なぜ自分がそんなことを思ってしまっているのかと我に返る。ニシャは騎士姿のダリルを思い出しながら、ぶくぶくと湯船の中に沈んでいった。
同じくジェーン家に戻ったカタリナ、もといダリルもまた、1日を振り返っていた。
まさか、あのニシャが女だったなんて。ずっと男だと思っていたのに、仲間だと思っていたのに、突然すぎて頭が追いつかない。しかも触れてしまった胸の感触を思い出してしまい思わず顔が赤くなる。
それに、双子の姉のエリーシャがニシャ自身だったことも衝撃だった。
「明日からどんな顔で会えばいいんだ……」
ダリルは苦しげに言葉を吐いた。
◇
婚約のための顔合わせの日から数日が経ったが、あの日からダリルの様子がおかしい。
いつものように騎士団の演習場や稽古場、武器庫で作業をしているが、ダリルの距離がやけに近い。近い、と思ったら突然離れたりまた近くなったり。
他の騎士仲間と楽しく話をしていると、突然割って入ってくる。
騎士仲間がニシャの肩に手を回したりしようものならものすごい圧で後ろに立っていたりする。
とにかく、おかしいのだ。
「おい、ちょっと来いよ」
ニシャがダリルを人気のない場所へ呼び出すと、ダリルは表情の読めない顔で立っていた。
「お前、一体なんなんだよ。ちょっと様子がおかしすぎるだろ」
イラつくニシャに、ダリルもバツの悪い顔になっていく。
「悪い。あれからどうしていいかわからなくなった」
「あのな、ここでは俺は俺なの。今までと変わらず接してくれないと困るんだよ。お前がそんなんだから変な噂まで流れ始めたんだぞ」
「変な噂?」
「お前と俺ができてるんじゃないかって噂」
男同士の恋愛は別段珍しいことでもないが、ニシャとダリルの美男子カップルとなれば騎士団内でもちょっとした騒ぎになる。
さらに騎士に憧れを持つ令嬢達の格好の噂話の的だ。
「……なるほどな。でもそれだったら俺としては好都合だ」
ダリルの返答にニシャは目を丸くする。
「お前は何を言ってるんだよ……」
「俺がお前とできてるってことになれば、言い寄ってきていた令嬢達も諦めてくれる。親父もお袋もたぶんそういうことならば、ってカタリナとしての婚約も諦めてくれるかもしれない」
「いやいやいやいや、まてまてまてまて」
ニシャは慌てるが、ダリルはいたって冷静だ。
「よし、そういうことにしよう」
「いや、だから待てって!」
――――――――――――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」そう思っていただけましたら
フォローや星、感想などいただけると嬉しいです。
皆さまからの応援が執筆の励みになります。
どうぞよろしくお願いいたします!
――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます