第20話 小学校の校庭
「・・・」
朝起きれなかった。体はどこも異常がない。ただ気力が沸いて来なかった。何かのスイッチが切れたみたいに無気力だった。がんばるとか根性とかそれすらが湧き上がらないほどに、どうしようもなく無気力だった。魂のない無力に横たわるぬいぐるみのように、体も意識も重だるく、純はベッドの中に横たわったまま動けなかった。
怠惰に沈む意志が純を支配していく。このまま――、このまま――、ただこのままぬくぬくとした布団の中で沈んでいたかった。今純が望むことはそれしかなかった。
去年、あれだけ部活の練習をさぼりまくっていた日明だったが、いざサッカーが出来ないとなると、サッカーがしたくて堪らなくなった。
どうしてもボールを蹴りたい日明は、部活が終わり帰宅してから、体が激しい走り込みでへとへとであるにもかかわらず、夕食後、中学の時、部活が終わった後、隆史や仲間と毎日のようにそうしていたように、近くの小学校の校庭にボールを蹴りに行った。
そこでは、偶然にも前回同様日明のいた少年サッカーの子どもたちが、ナイターの明かりの下、練習していた。今日は隔日でやっている少年サッカーの練習の日だった。放課後は、校庭を圧倒的に数の多い少年野球チームが独占してしまっているため、彼らが練習が終わる夜しか練習時間がなく、少年サッカーの面々はこの時間にいつも練習していた。幸い、日明の通っていた小学校の校庭には立派な照明設備があり、夜でも遜色なく練習ができた。
「よっ」
西谷が片手を上げる。日明も頭を下げた。
「また、いいっすか」
「ああ、いいよ」
そして、日明は、子どもたちと一緒にボールを蹴った。
「お前も、昔はこんなに小さかったのにな」
西谷が、少年たちを見ながら笑って日明に言った。
「はい、なんだか信じられないですね」
前回来た時も驚いたが、自分も、小学生の時、こんなにちっちゃかったのかと、日明は自分との体格差にやはり今日も驚く。
「・・・」
隆史も自分もこんなに小さかった。その隆史と毎日毎日ボールを蹴り、その練習帰りには、当時この田舎町に始めてできたコンビニでアイスやジュースを買って、その駐車場でだべっていた。そんな隆史との日々を、日明は思い出す。
あの頃は楽しかった。ただただ楽しかった。何も余計なことを考えることも心配することもなかった。ただサッカーだけをやっていればよかった。ボールを追いかけてさえいればよかった。サッカーがうまくなることだけを望んでいればよかった。
「今も月、水、金と隔日で練習してるからさ、お前が来たかったらいつでも来いよ。子どもたちも喜ぶしさ」
去り際、何かを察しているのだろう。西谷が日明にそうやさしく言った。
「はい」
日明はうなずく。
その日から日明は毎日、中学校時代のように部活が終わってから、家に帰り、急いで夕食を食べると、その後、ボールを持ち小学校の校庭に通った。隔日で少年サッカーのやっていない日は、月明かりの下、真っ暗い校庭でボールを蹴った。
そんな日は、暗い校庭に日明のコンクリートの壁にサッカーボールを打ちつける音だけが響き渡っていた。
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