第28話 順風満帆

 年月は過ぎ、いよいよジュダースクライの子が入厩になった。名前はシークレットエデン。四白流星の美しい栗毛で、いかにも走ってきそうな印象はある。そのパフォーマンスはデビュー戦から発揮された。後続を大差で突き放してのレコード。間違いなく重賞級以上の走りだ。


 牡馬路線ではアイノフラワーの子、アイノクラウディアの主戦を小河原先生から仰せつかった。こちらも素質場で、アイノフラワーそっくりの葦毛馬だ。デビュー戦は持ったままでの快勝で、こいつならクラシックのどれかは取れると思わずにはいられなかった。しかし、本来主戦となるべきだった滝川とはこの馬を巡って気まずい空気を感じて、前以上に滝川とは疎遠になった。


 阪神JFまでシークレットエデンは勝ち続け、気の早いメディアは牝馬三冠の話をしている。


「ということで、牝馬三冠云々はわたしは気にしてないよー」


 ひかりさんは軽くのたまう。


「こっちは楽にならないんだよなー」


「ライバル不在ならいいじゃない。わたしのライバル何人でしょう?」


「なんのライバル!?」


「作戦は差しでいいぞ。夫婦喧嘩は見てない所でお願いします。オーナー」


 松沢先生もどこ吹く風だ。実際、牡馬戦に出しても勝てそうな馬だから困る。とはいえ俺にとっては貴重なチャンスだ。油断せず競馬をして、阪神ジュビュナイルフィリーズの栄冠を勝ち取ると、おれはまず一冠の意味を込めて人差し指を上げた。




 アイノクラウディアの方はホープフルステークスに出走し、先行からの押し切りでこちらも軽く勝利をものにした。間違いなくクラシックはこの馬が中心に回るだろう。俺はヒーローインタビューで、「来年はこの馬でまず一冠、皐月賞目指してスタートです」と言い放った。順風満帆すぎて少し怖くもあった。

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